表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/6

アマリリス

 私が通うのは、いわゆる「伝統校」だ。創立は明治、うーーん、何年かは忘れた。神奈川県の隅っこ、箱根の山にかかるあたりに学舎がある。


 古い学校に留まる淀のようなものだろうか? 学園の七不思議というものが口さがない女生徒の間で語り継がれている。その一つ、


「旧校舎四階女子トイレ、四番目の箱、血塗られし花が山猫軒に(いざな)う」


 きっと「トイレの花子さん」あたりに着想を得たオカルト話に違いない、とは思うけれど、無用に勘のいい私は気付いてしまった。三つしか個室のないトイレだが、私が目の前にしている箱が、もしかして四番目じゃないの?


 そう、このトイレには個室と並ぶようにしてナプキン自販機の()がある。今年の冬休みには取り壊される予定の旧校舎、まだ昼間だというのに妙に薄暗く湿っぽい気がする。


「こんな古い自販機、ちゃんと動くとも限らず、中に入っているナプキンは何年も前に製造されたものに違いない。諦めて渚に借りればいいじゃん」


 渚、それはまー、私の数少ない友人の一人だ。「女の友情は成立しない」なんて言うけれど、そうだね、本音と建前みたいなものがあるかな?


 イヤなんだ、


「ナプキン貸して」


「いいよ、どうぞ」


 笑顔の中に潜む勝ち誇ったような目が。


「ナプキン忘れるなんて嗜みのない人ね……」


 なんだよ? そりゃうっかり忘れることだってあるさ。なーーんで、そんな些細なことで女の優劣が決まるわけ? そもそも人の優劣って何?


 でもまー、ひとまず買ってみるか? 流行りのアプリ操作なんかじゃない、旧式の自販機に百円硬貨を入れレバーを回す。


ガッチャン!!!


 軽いものを落とすだけにしては不相応な大音響がトイレに響きナプキンが入った紙箱が落ちてきた。ツンとくるような腐敗臭がするトイレ、こんなところの個室には断じて入りたくない。新校舎のトイレに入ってパッケージを開けると……。


アレ???


「なんじゃこりゃ!!」


 このセリフ、親が観てた古い動画で知った。私、暴漢に刺されて腹から血を流してるんじゃないよ? だからー、今のところ血は流してないよ?


 箱の中には説明書? ンなもんなくても反対に貼ったりしませんぜ。箱には紙切れが一枚入っているっきりだった。


 校内にある自販機はあれっきり、どうしよう?


 私の脳裏にかつてテレビで観た女子駅伝のゴールシーンが蘇った。アンカーを務めたポニーテールの選手、彼女の白いショートパンツは真紅に染まっていた。


 まだ高校生でたいして速くもない私だが、長距離選手である以上、ウエイトはどうしても気になってしまう。ダイエットを頑張り過ぎるとなー、どうしたって不順になるからなー


 いずれにせよ「女の嗜み」とか言われるまでもなく、あんな姿を人前に晒したくはない。それに、生理の時は嗅覚が鋭敏になっているせいもあるけれど、臭うのですよ、鉄臭いだけじゃなくて微妙な悪臭がするのです。


 ま、もう、万策尽きたよ。


 私は「体調が悪い」と嘘をついて帰宅することにした。正門を出て強羅駅に向かう。このあたりは観光地でもあり風光明媚なところだ。九月の花、リンドウ、ワレモコウが風に揺れている。


 え? ナプキン?


 風流な話題に水を差すのか君は! コンビニで買って駅トイレで装着完了。だが私には、再び練習に戻るという選択肢などない。


 小田原まで箱根登山鉄道で一時間ほど、東海道線に乗り換え一時間半かけて自宅に戻ってきた。





 「夏のホラー企画2026」参加作品となります。暗号やエヴェレット解釈を入れちゃったので、推理、SF要素も含まれてしまいました……。


 タイトルのアマリリスはギリシャ神話に登場する少女の名前から。「自らの胸を金の矢で傷つけ流した血から真っ赤な美しい花が咲いた」という物語に由来します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ