File13:最強の種族
旧人類の遺産。現時点では再現不可能な技術で構築された闘技場。そこで対峙する、二つの生命。
――いや、厳密には、一つは生命ではない。意志を持つ『燃える』という現象そのものであり、命を真似る模造品。だが、その姿は生命力にあふれた、筋骨隆々とした人間の男性。赤い炎にその身を包み、不敵な笑みを浮かべる『精霊』イフリート。
相対するのは、緑色の鱗を持ち、尾まで合わせれば体長二十メートル凌駕する巨体を有する、西洋竜。巨大な翼、角、鋭い牙。鱗に身を包む姿は爬虫類を彷彿とさせるが、自由に空を飛び、灼熱のブレスを口から吐く。――古来より、伝説の生き物の頂点に置かれる最強生物。『ドラゴン』ディアスボラ。
対峙した両者はどちらからともなく口を開く。
「――精霊。魔力を取り込むために、人の姿を模すなぞ、プライドの欠片もないな」
「――ドラゴン。羽の生えた蜥蜴ごときが。その歪な肉体で生きて恥ずかしくないのか?」
お互いの挑発から始まった戦闘は――まるで、神話の再現だった。
精霊が右手を振るうだけで闘技場が炎に包まれ、特殊素材で包まれたリングが赤く染まっていく。その火炎に怯む様子もなく、羽ばたき中空に舞ったドラゴンの息が炎を吹き散らし、精霊の身体を貫いた。
精霊に物理攻撃は通用しないが、ドラゴンのブレスは魔力で生み出されている。当然ダメージがあるはずだが、精霊は微動だにしなかった。両者は笑みを浮かべ、再び攻撃を仕掛け始める。――初めて出会った、好敵手との戦いを喜ぶかのように。
◇◆◇◆◇◆
「はぁ……すごいですね。これ、何の道具も使わずにこんなことができちゃうんですね……」
シィが戦いを見ながら呆然と呟く。ソフィアも似たような心境だ。彼女たちの戦闘能力は、あくまで装備した兵器によって生み出されるものだ。だが彼らは違う。自らの持つ力で、あれだけの破壊力を生み出しているのだ。完全に化け物である。
「すごいね……、まるで、物語の一幕みたいだ」
ソフィアは、昔読んだ本を思い出していた。巨大な竜と戦う勇者たち。きっと、こんな感じだったのだろう。――誰かが空想した光景が、今遥かなる時を越えて現実になっているんだ。今この世界において、幻想はリアルへと変貌を遂げた。そのことを改めて実感する。
周りで同じく戦いの様子を見ている種族たちも、ファンタジーの世界の住人だ。それが今、一堂に会し、食卓を囲み、遊戯を楽しんだ後、それぞれの戦いを披露している。――奇跡みたいな、時間だ。
「夢に、少しは近付きましたかね」
シィの言葉に、ソフィアは頷く。――あらゆる種族が共に暮らす世界。その片鱗が垣間見えた気がする。
「うん。……大きな一歩だよ。あとは――協力してもらえるよう、私たちも力を見せないとね」
今はあくまでもゲスト。だが今後、国を造っていくとなれば、共同体だ。共に歩むに足る存在と、理解してもらう必要がある。
「そうですね……じゃあとりあえず――」
「うん、とりあえず……そろそろ、止めないとね」
ドラゴンと精霊のタイマン戦闘は、文字通り過熱していて、周囲に被害が出ないようリング周辺に張られているシールドがそろそろ限界を迎えそうな状況であった。そもそも、シールドは物理攻撃を防ぐために旧人類が開発したものなので、魔力での攻撃を防御させる機能は突貫で組み込んだのだ。さすがにこの対戦カードの攻撃をすべて防ぐのは無理があったようで、所々でアラートが上がっている。
「先輩、装備は?」
「脚部と肩のスラスターに、火器も限界まで接続済み。いつでも行けるよ」
「私も大丈夫です。対精霊用アタッチメントも装着済み」
精霊には物理攻撃が効かない。そのため、物理攻撃に『魔力』をコーティングし、精霊にもダメージが与えられるような部品を開発したのだ。
「オーケー。じゃあ、私たちの本気、見せようか」
「私、さっきは割と無様な戦いでしたからね。武器に頼ってはいますが、全力、お見せしましょう」
ソフィアとシィは、今にも砕け散りそうなシールドに向けて飛び立った。――さあ、最終戦にしてボス戦の、始まりだ。
◇◆◇◆◇◆
「ストーップ! そこまで!」
ソフィアが叫ぶが、当然その程度で白熱した戦いは止まらない。そこで――。
「シィちゃん、よろしく!」
「はい! 止まってくださーい!!!!!」
シィの腹部から放たれたビームが、戦闘中の両者の間を通過する。さすがに気付いたようで、二人ともシィの方を向いた。
「何用だ。もうすぐそこの精霊を消し去れるのだが」
「は、笑わせる。その羽焼き尽くしてやるまであと少しのところだったが」
「二人の戦い見てる分には面白かったんだけど、長くやりすぎ。被害を抑えるシールドがもう壊れそうだよ。――というわけで、この戦いは引き分けとします。その代わり……エキシビジョンマッチだ。ディアスボラは私、イフリートはシィちゃんをそれぞれ倒してみなさい。勝ったら報酬と、最強の証をあげる」
「ほう……確かに、このまま戦っても埒が明かないとは思っていた。いいだろう。だが、すぐ終わってしまうかもしれんがな」
「いいのか? 先ほどの鳥人間との戦いを見る限り、そこまで戦闘能力は高くないように見えたが?」
「私たちは外付けの兵器が使えるから、それ次第で戦闘能力なんていくらでも変わるよ。――さぁ、異論がないなら、始めよう!」
その言葉を合図に、ソフィアとシィは空中でそれぞれの相手と距離を取る。シールドは一応このタイミングで修復を試みたが、状況はあまり変わっていない。つまり、シールドにダメージが重なってしまえば、他の種族や施設自体に被害を与える可能性がある、ということだ。
「華麗な空中戦をお見せしたいところではあるけど……残念ながら尺の都合もあるからね。すぐに終わらせる!」
ソフィアの周囲には無数の兵器が浮かんでいた。銃、砲、盾、槍……そのすべてが、竜を貫かんと構えられている。
「――行けっ!」
ソフィアの合図に合わせて、それぞれの兵器が様々な軌道を描き、ドラゴンを取り囲むように高速で移動した。兵器にはスラスターと浮遊装置が装着されており、ソフィアの意思に合わせて自由自在に移動、攻撃が可能である。普通の生物であればここまでの数を同時に制御することは困難だが、彼女は機械人形であり、複数同時操作は得意分野だ。
「くっ、小癪な……!」
ドラゴンは銃から放たれる光線を躱し、翼を貫かんとする槍を避け、遠距離から狙撃してくる砲を警戒する羽目になっている。それも複数だ。何とか間隙を縫い、本体であるソフィアにブレスで攻撃を試みるが――。
「当たらないよ」
ソフィアは空中をスラスターで高速移動している上に、シールドが一基常に彼女の周囲を守っている。ダメージを与えることは至難の業だ。
「――ならば!」
遠距離戦闘が困難と見るや、ドラゴンはダメージ覚悟でソフィアに特攻する。攻撃により、翼はもう機能していない。身体もボロボロだが、牙の一撃でソフィアを倒さんと、全速力で空を駆ける。
「うん、いいね。竜退治はやっぱり……剣だよね」
ソフィアの右手には、光り輝く剣が握られていた。ビームを刃状にすることで、対象を焼き切る、旧人類史の近接兵器。
「何の逆転劇もないけれど、これで――終わり、だあああああー!!!!」
ドラゴンは振るわれる剣を紙一重で躱す――が、ソフィアの手は、腕がない。他の武器と同様、自由自在に軌道を変えられるのだ。結果、回避された直後、くるりと反転し、そのままドラゴンの頭部へ光の剣が突き立った。
シールドによって実際に傷こそ負っていないが、意識を刈り取るダメージはあったようで、そのままドラゴンは地上に向けて落下していく。
「――よし、一丁上がり。シィちゃんは……?」
ソフィアがシィの方を見ると、そこには、合計十二の荷電粒子砲を虚空に構え、タバコを咥えながら炎の精霊を撃ち抜く機械人形の姿があった。――うん、完勝だね。
こうして、ひとまず野生動物らしい序列争いは幕を閉じた。――さて、じゃあこれから、国造りを始めよう。
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「ん……?」
「先輩、何かありましたか?」
「いや、なんかレポートフォルダに変な文書が――――」
To Be Continue....。




