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File12:Battle!

「では、第一回戦、開始!」


 ソフィアの合図に合わせ、地面を蹴ったのは、獅子型獣人のリオン。鋭い牙、爪と圧倒的な膂力で、相手をねじ伏せるつもりだろう。


 相対するのはラミアのリビュア。さすがに攻撃を避けようとするが、魔力で強化された獅子男の脚力にはかなわない。振るわれた腕を避けられず、とっさに両手で防ぐも思い切り吹き飛ばされた。


 戦っている両者は特別なシールド発生装置を身に着けており、攻撃によって怪我を負うことはない。だが、受けたダメージはシールド側に蓄積され、それに伴い体の動きを阻害する。実際に怪我はしないが、傷を負ったのと同じように、動きが鈍る、ということだ。戦闘が終わればもちろん解除される。


「どうした! 蛇女! その程度かぁ!」


 翻訳機によってお互いの言葉は相手に届くようになっている。挑発するように交渉を上げるリオン。ソフィアと出会ったときから一貫してこういうチンピラ的言動が目立つ。


「いったた……。やるじゃんライオンちゃん。正面から戦ったんじゃ勝てないね……今ので身体もうまく動かなくなったし」


「そうか。なら、すぐ楽にしてやろう……ん? なんだ? 体がうまく動かん……」


 リオンの言葉にリビュアが笑みを浮かべた。


「よかったーそのシールド、毒もちゃんと反映されるんだね。ライオンちゃん、アタシがあんたの手をひっかいたの気づいた? あの爪、たっぷり毒が塗ってあったんだよ?」


「なにっ。小癪な真似を……!」


「アタシらのメイン武器は毒だしー。むしろそっちが油断しすぎぃ。さ、動きが鈍ったところで、じわじわと、倒しちゃおうね」


「ふん。毒が回るその前に、叩きのめせば終わりだ!」


 再びかけるリオン。だが、今度はその足を払うように、リビュアの長い尾が振るわれた。先ほどだったら耐えるか避けることができていたろうが、毒によって覚束なくなった足のせいで、リオンは転倒こそしなかったがバランスを崩す。そこへ――。


「締め上げてあげる。それでぇ――ガブっとね!」


 足から身体までを蛇の尾で締め上げられたリオン。リビュアはそのまま彼の首筋に噛みつき、毒を注入する。――勝負ありだ。


「リオン選手戦闘不能により、第一回戦の勝者はラミアのリビュアー!!!!」


「いえーい! 勝ったよみんな―!」


 家族に向けて手を振るリビュア。リオンもポテンシャルはあるのだがいかんせん経験不足が出てしまった。今後は油断しないよう、この敗北を活かしてほしいところである。


◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「続いて第二回戦、イルカ人のドルフと、タコのクラーケの勝負です! 前回は地上フィールドでしたが、今回は水中! では――開始!」


 ソフィアの言葉通り、二人がいるのは巨大な水槽の中だ。一応石のリングは設置されているが、両者ともに自由自在に泳ぎ回れるのだからあまり意味はないだろう。特に障害物などはない。ちなみに、クラーケはタコの姿ではなく、服を着た人に擬態している。


 一回戦同様に二人の身体にはシールドが張られていて、声も翻訳されて届くようになっている。


「ごめんね、すぐに終わらせるから!」


 ドルフは口を開いて魔力を乗せた超音波をクラーケに放つ。指向性を持った波が水中を伝播し、思わずクラーケは頭を押さえた。


「……っ! なるほど。これは強力だ。何発も喰らったら行動不能になってしまうね……だから、こうだ!」


 クラーケは人型の口から思い切り墨を吐き出した。本来のタコであれば水中に拡散するまでにある程度の時間を要するはずだが、魔術で拡散させているのか、すごい勢いで水中に広がり、水中を一瞬で真っ黒に染める。


「えっ……? 見えない。……とりあえず、墨を払ったほうが良いね」


 ドルフは水の魔術を用いて、汚れを押し流し、浄化する。墨は次第に薄まって少しずつ視界が戻る――が、クラーケの姿はどこにもない。


「……消えた? ……いや、彼はタコだから……擬態してどこかに潜んでる。この汚れた状況じゃ、目で見つけることは難しい……。臭いも、さっきの墨でよくわからない……」


 そもそもイルカはあまり視力が良くない。加えてタコの墨には嗅覚を麻痺させる効果もある。視覚と嗅覚で、クラーケを見つけることは困難だ。


 おそらくこういった状況で、気配を殺し、死角から攻撃するのがクラーケの得意技なのだろう。実際、あの八本の腕で不意を打たれると、吸盤に捕らえられ、身動きが取れないまま敗北することが濃厚だ。《《普通の生き物》》が相手ならば。


「目と鼻が使えなければ、耳を使います。――相手が悪かったね」


 イルカのエコーロケーションは、超音波を発することで、コミュニケーションを取るだけでなく、獲物の位置を探ることもできる。ドルフは大きく息を吸い込むと――水槽全体に向けて超音波を放った。大容量の水が、振動によって大きく揺さぶられる。


 これは攻撃を目的としたものではない。水槽中の音の反響を探り、その違和感を検知することで――擬態したクラーケの位置を見つけるためのものだ。


「――いた!」


 リングの隅、完全に石と同化して気配を殺していたクラーケ。ドルツは発見と同時に超音波を放って動きを阻害しながら、急加速してクラーケへ向かう。


「嘘でしょおおおおおおおー!!!!」


 クラーケはタコの姿で逃走を試みるが、完全に遅い。器用に尾びれと魔術を用いて高速遊泳したドルツによって、クラーケは吹き飛ばされて意識を失う。


「クラーケ選手戦闘不能により、勝者、ドルツー!」


 ソフィアの宣言に合わせて、観客へ両手を振るドルツ。実際、正面切って戦えばおそらくクラーケが勝っていただろう。高い魔力もあり、知能も高く、さらに八本の腕は相当に強力だ。だが、下手に搦め手を使おうとしたばっかりに敗北することとなった。策に溺れた形である。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「さて、では三回戦、今回は――エントのトレント氏が戦闘参加が困難ということで、今回も代理のシィちゃんと、鳥人間のアクィラさんの対決です! ただ、シィちゃんは追加火器の使用は禁止です! 近接武器と内蔵兵器で戦ってもらいます! あ、空中戦用のバーニアは使ってOK! 今回のメインフィールドは……空なので!」


 ソフィアの説明通り、一応リングは置いてあるものの、選手二人は既に空中に漂っている。ちなみにこの地下実験場、高さは百メートル以上あるので、割と余裕をもって飛び回ることが可能である。今回もシールドと翻訳機付きだ。


「では――開始!」


 シィはバーニア装備では飛び回れるものの、どうしても小回りがあまり効かない。直線はおそらく彼女のほうが早いが、魔術を用いて細かな操作が可能なアクィラのほうが空中での移動は有利だろう。


「くっ、ちょこまかと動かないでください……!」


 一応近接戦闘用に、シィはビームの剣を手に持っている。あとは腹部に装着した荷電粒子砲がメインウェポンで、これが直撃すれば間違いなく相手は沈むだろう。


「遅い。いくら火力があっても、それでは当たりません」


 アクィラは風を操りながら自由自在に飛び回る。槍の他、弓矢も背負っており、遠近両方に対応可能だ。さらに風の術を用いた攻撃、弓に風を絡ませて威力を上げるなど様々な戦術を持っている。


 シィはアクィラの軌道を計算しながら、先回りできるよう動いてはいるが、いかんせん彼は風を操れるので、急停止やホバリングも思いのままだ。普通の鳥と同じような挙動を想定していると全く異なる動作をしてくるので、シィはかなり翻弄されていた。だが。


「……的が小さいですね……なかなか当たらない。ならば」


 シィは腕と脚部がない。実質ダメージになるのは頭部と身体だけなのでアクィラが放つ矢はギリギリで回避されていた。お互いの攻撃が当たらないため、段々と戦闘が間延びしてきた。さすがにその状況を嫌ったアクィラが、槍を手にシィへ特攻する。


「来ましたね。ならこちらも!」


 バーニアを全力稼働させ、空中での近接戦闘を仕掛けるシィ。それぞれが正面から交錯する。お互い一撃で決めるつもりだ。それぞれの首元に向け、お互いの獲物を振りかぶる――!


 結果、落ちたのはシィの首だった。彼女の手にあったビームの剣は、槍とのリーチの差でアクィラにギリギリで回避されていた。近接戦闘のスキル差が出た形になる。


 そのまま、シィの身体は地面に落下していった。


「えっ? シールドで、怪我は負わないんじゃ? 首、ないですが、大丈夫ですか?」


 慌てたように声を上げるアクィラ。――そう、本来、この戦いにおいて受けたダメージは身体に反映されないのだ。だが、シィの首は落ちた。なぜか?


「――それは、私の首が取れても、ダメージにはならないからですよ。そういう《《仕組み》》なんです。……先輩の悪趣味が、功を奏しましたね」


 シィの首が、アクィラの後方に浮いていた。彼女の身体が落ちていく様子を見てたから、気づけなかったのだ。シィの目は、無防備なアクィラの後ろ姿が映る。


「これからは、首を落としても死なない相手がいることを、学んでください」


 シィの口から、ビームが放たれる。狙い違わずその一撃は、アクィラの首を後ろから貫いた。


「アクィラ選手戦闘不能により、勝者、シィ!」


 こうして、三回戦までの戦いは終わった。次が実質的な最強決定戦。ドラゴンと精霊のファンタジーバトルである。


◇◆◇◆◇◆


 レポートFile12:旧人類の便利な道具たち


・シールド

 目的に応じて様々なものを阻害する効果を持つ。一般的には日差しや雨、暑さなど天候対策として用いられていたが、護身や事故対策として物理的なダメージを肩代わりしてくれるものが生まれ、一気に普及した。ただ、防御可能なダメージに応じて消費するエネルギー量も多く、今回のような模擬戦闘に使う場合はフィールドからの電力供給が必須となる。旧人類史においては、軍事目的で大量に開発され、進化を遂げていった。


・翻訳機

 一定の単語や、その言葉の構造。熟語などを所定数以上登録すると、自動で翻訳が可能となる機械。AIが搭載されており、言語の分析もしてくれるため、基本的にはその言葉を使う人達の近くにおいておけば自動学習してくれる。登録された言語はサーバ―にあるデーターベースに格納され、翻訳機が言語をインプットされるたびに精度が上がっていく。現時点においては、パーティに参加している種族の言語はデーター化されており、基本的なコミュニケーションは取れる状況になっている。


・酒

 エタノールが含まれた飲料の総称。世界各国に様々な種類の酒が存在し、その製造手法は残っているので、原料が手に入らない場合を除き基本的には生産可能。ただ、樽の木材、酵母、温度湿度など様々な条件によって味が変化するので完全再現は困難。一応、旧人類史の遺産として経年劣化しない方法で保存された過去の酒もあるにはあるらしいが、当然飲むわけにはいかないし、飲めない可能性が高い。

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