伝説の序章➅
雨では園庭も使えない。だから正徳SCも屋内での練習となる。まずはいつも通り、視聴覚室で座学から始まる。1番最初からずっと変わらない。その後は教室を借りるか、廊下を使うか、はたまた階段か。
「よし、じゃあプリントをしまって。このまま今日の練習に入ります。もう少し前に来ていいぞ。遠すぎると見えないからな。今日は観る練習です。さ、1試合目だ。」
さっさと再生ボタンを押した野口コーチ。え、あれ、もう?子供達が戸惑うくらい前置きは短く、時間を惜しむようにビデオが流された。何のビデオかといえばサッカーに違いないのだが、その辺に関する説明もなかった、敢えてね。子供達の素直な反応を楽しみたいといういたずら心。野口コーチは年に数回このビデオを見返しているが、子供達はまず見ていまい、たとえ家に同様のテープがあったとしても。さて、子供達にとっては全くの予想外であったこと―そもそも3年前のことは覚えていないか、この頃の子供達は―だからキャッ、キャと反応が現れるまでやや間が空いた。あれれ、もしかして・・・・・・その空白が野口コーチにとって極上のひとときだったことは言うまでもない。
「なぁ、これってさ・・・」
「俺達、だよな?」
「いつの試合だろう?」
「1年の時じゃないかな~」
「みんな小っこいや。」
最初こそざわついたが、サッカーだし、自分達だし、ビデオは止まらないしで、徐々に集中力と恥ずかしさが増していった。そして恥ずかしさが集中力を乱していった。
「下手っぴ・・・」
「うん、まぁ1年生ということで。」
数年間サッカーに携わってきた子供達だから、それなりに目も肥えてきた。
「ただボールを追い駆けるだけ。」
「逆サイドでひとりくらい張っていればいいのにな。」
「相手チームも一緒だからぐちゃぐちゃだ。」
「パスもドリブルもないね。」
「これ、俺達か?」
「残念ながら僕達です。」
「あ、またやられた。」
1試合目は0ー3の完敗だった。試合終了の笛と同時に野口コーチがテープを交換した。




