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「ニアはニアだぞ」



 私がマヌや一緒に連れてきた使用人たちと一緒に屋敷に入ると注目を浴びて、それと同時に周りはざわめいた。


 ……私はずっと、『呪い』があったから顔も肌も隠していた。その私がこうして顔を隠すこともなくなって、『呪い』がなくなって――うん、やっぱり私がこれだけ変わったことがここの人たちからしてみればびっくりすることなのだろうって思った。


 



 そして周りがざわざわしている様子に苦笑していると、驚いたような声が私の耳に届いた。




「え、お姉様?」



 そんな声に、私がそちらを向けば――私の妹、キキレッラが居た。

 美しい金色の髪で、相変わらず可愛らしい見た目をしている。


 目を見開いて、私を見ている。

 妹の隣にいる元婚約者も、心の底から驚愕している。


 ……一応手紙には私の『呪い』のことも、私の肌がああなっていた原因も書いていたのだけど。

 やっぱり妹は私の手紙を読んでなさそう。





 両親もおそらく読んでないだろう。

 私の『呪い』がなくなったことを、妹は喜んでくれていないみたいだ。その忌々しそうな表情に……やっぱり私は妹を含む家族に愛されていなかったんだなって実感する。


 それでもショックを受けないのは、マヌが居てくれるからだ。

 マヌが、どんな私でも受け入れてくれるから。




「お姉様……『呪い』がなくなったの?」


 妹は、私の顔を信じられないものを見るような目で見ている。

 ……妹は私が『呪い』に侵されたまま、不幸な政略結婚をしていると思い込んでいたのだと思う。

 マヌがああいう性格だから、私に『呪い』があったままでも私は幸せだったけれども……、それも妹にはきっと信じられないことなのだろうなと思う。



「ええ。なくなったわ」


 私が笑ってそういえば、妹は益々何とも言えない顔をする。

 私は実家にいた頃、笑うことなんてしなかった。今、考えればずっと悲観していて、どうしようもないほど暗い顔をしていたと思う。


 私も、自分がこんな風に笑えるようになるなんて……マヌと出会うまで思ってもいなかった。


 妹も、元婚約者も驚愕している。

 そんな中で、両親がやってきた。



 両親も私の姿を見て驚いている。

 両親にとっても私は呪われていて、外に出すのが恥ずかしくて、疎むべき娘であった。

 ……『呪い』が解けることは、両親が私に少しでも愛情を感じているならば喜ばしいはずのことだ。


 ……でもお父様も、お母様も、驚いた顔をするが、喜んだ様子はない。




「貴方、本当にあの子なの? あの不気味な呪われた子の『呪い』が解けるなんておかしいわ! あの呪われた子を社交界に出したくないから替え玉を連れてきたのではなくて?」

「……私はあなたの娘のニアミレッラです」

「嘘をおっしゃい! 折角、キキレッラの結婚式に呪われたあの子を参列する許可を与えたのに、替え玉を利用するなどと、なんて性格の悪い子かしら」



 私はお母様の言葉に、ああ、そうかと思った。

 私は家族の前でもずっと、ベールをかぶり、肌を隠していた。私の世話をするのも使用人たちは嫌がっていた。家族は私と話すことも最低限だった。……家族は、私のことなんて正しく認識していない。



 私の顔をまともに見たのなんてずいぶん昔だろう。

 私の声なんて聞く価値もないとちゃんと聞いていなかったのかもしれない。

 だからお母様は、私はお母様の娘なのに……替え玉なんて事実無根なことを口にする。



 分かっていたことだけど、少しだけ悲しい気持ちにはなった。

 



「――私は貴方の娘のニアミレッラです。『呪い』と呼ばれていた症状がなくなったことや、この領地のことは手紙に書きました。貴方が信じなくても、私はこの家の娘です。替え玉などではありません」



 私がそう言い切ると、お母様は忌々しそうな顔をする。

 ……もしかしたら、両親は私が呪われたままの方が都合が良いとでも思っていたのだろうか?

 わざわざ妹と元婚約者の結婚式に私を呼んだのも、私を貶めるためなのだろうか。



「まるで別人のようじゃない! 貴方は『呪われた令嬢』なのよ。貴方を産んだせいで私がどれだけ周りから責められたと思っているの? 貴方がいるから、この家の評判がどれだけ下がったか……! 貴方は人を不幸にする『呪われた令嬢』なのだから、そんな風に笑うなんて駄目よ」



 ……お母様は、私が『呪われた令嬢』だったから苦労していたのかもしれない。

 貴族の家は、何か隙を見せてはいけないはずだ。何か隙を見せたらそこの部分を引っかかりに、貶められたりする。私という存在はこの家の汚点であるのだとは思う。


 ――だからこそ、私が笑っているのが気に食わないのだろうか。



「別人のようって、ニアはニアだぞ。そもそもニアに『呪い』と呼ばれる症状があろうがなかろうが、貴方の娘だろう。実の娘相手にそういうことを言う方がひどいことだ」

「他人が口出しをしないでください!」

「他人じゃない。俺はニアの夫だから、ニアに酷いことを言う人はニアの親だろうと許せない」



 ……そこでようやく家族たちは、マヌのことを目にとめたらしい。

 私の『呪い』が解けたことが衝撃的で、私の方にしか話しかけてなかったものね。



 お母様はマヌに面白くなさそうに挨拶をして去って行った。お父様と妹と元婚約者たちもそれについていった。


 それから私たちは結婚式までの間、過ごす場所へと使用人たちに案内された。

 ――それは元々私が『呪われた令嬢』として隔離されるように過ごしていた別邸だった。





 

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