第七十一話 学園祭二日目です。
一日目が順調に終わり、今日は二日目です。
今日が一番忙しいとのことで、休憩時間があってもないようなものらしく、織り姫と彦星の格好は今日はせずに明日ということになりました。
仕事中にちらっと教室へ顔を出した時に例のパネルが活躍していました。
その後ホールへ行ってブラスバンドの曲を一曲だけ聴きに行き、メールで混雑してるという展示室に行くよう言われたのでそちらに向かいました。
昨日から評判だという絵を見るために、混雑しているのだそうです。
「陽向」
声をかけられて振り向くと、静会長が立っていました。
「随分混雑してますね」
「昨日見た人の口コミらしい。ネットでも結構話題になっていた」
「そうなんですか」
「陽向は見たか?」
「いえ、まだです。会長は?」
「俺もまだだな。生徒会は誰もまだ見てないんじゃないか? 当日やっと飾ったみたいだからな」
大きい絵なので、遠くからじゃないと全体を撮れないそうで、ネットにも全体は載っていないのだとか。
「どの書き込みも、本物を是非見てほしいと書いてあったからな。我慢してネットの写真は見ていない」
思わず笑ってしまいました。
変なところで真面目ですね静会長は。
「立ち止まらないように指示しなくてはならないからな、行こう」
「はい」
その大きな絵の前で皆さんが立ち止まるので、渋滞になっています。
最後尾で「展示室最後尾」と書かれたパネルを持った生徒に労いの言葉をかけて、中へと入りました。
予想外の人の入りだったようで、美術部の生徒が焦ったように声を張り上げて、立ち止まらないようにと言っています。
「人手が足りないんだな。行くぞ」
「はい」
展示室内は彼一人のようで、渋滞のまっただ中でオロオロしているのが見えました。
「立ち止まらないでください、ゆっくり進んでください」
会長が言うと、何故かスムーズに人が進んで行きます。
「ご協力感謝します」
ホッとしたように美術部の生徒が近づいてきました。
彼が場所を移動したことで、全体が見えた女性が目を丸くして私と絵を見比べたかと思うと声を上げました。
「ちょっと、この子絵のモデルじゃない?」
ザワッと展示室内の空気が変わりました。
私は驚いて後ろを振り返って絵を見たのです。
「これは…」
天使たちが舞う光の中にたたずむ二人。
「天使の…階段」
静先輩がそう呟きました。
一斉に私へと視線が降りそそぎます。
「ほんとだ! にてる」
「うそ、本物!?」
「え、どこ?」
「まじ?」
それでなくても混雑していた展示室内が一気にこちらへ押し寄せてきました。
静先輩と美術部員が背中に隠してくれましたが、これでは他の絵や物が壊れてしまいます。
静先輩が携帯を手にしてどこかへかけようとしていたときでした。