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囚人と迷宮と  作者: 灰色の雪
第一章 囚人たちの浅層攻略
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第五十三話 囚人と古の器物

 ザグンはロイの言葉にうなづくと同時に弾かれたかのごとく飛び出す。


 弱点を露出させるために胸部を狙おうとするが、さすがにそれを阻止すべくゴーレムが両の腕を使いザグンの行動を阻む。ザグンはまず正直に正面から胸部に向かって攻撃を加えようとしたが、ゴーレムの右腕が胸部をカバーし、右腕を殴る結果となる。激しい金属音をかき鳴らすが、どちらかといえばザグンがダメージを負う結果となった。それは致し方のないことである。なぜなら、ザグンの武器ーー金属の棒は、武器と呼ぶにはあまりにも粗末であり、相手は完全な岩であるため打撃時の衝撃がもろに手の平に襲いくるからだ。それゆえに先の攻撃において突き立てるという行動にでたのであった。


 しかし、その行動によって隙が生まれてしまい、先ほどの失態を演じるはめになる。それがザグンにとっては痛恨のようであった。厳しい表情の中に悔しさが滲んでいる。


 そうであったとしても、このまま金属の棒で殴り続けることは、常にカウンターダメージを受けていることに他ならず、結果的に敗北に至るしかない道である。


 金属音をかき鳴らしながら、奥歯を噛み締め痛みに耐えているのか、ザグンの口から血が流れ始めていた。その様は、執念に燃える悪鬼のようであった。


 ザグンが、そのような攻撃を加えている間、ロイは思案気な表情を浮かべながら、ザグンがゴーレムから離れる一瞬を狙いつつ、石の魔法で攻撃を加える。先ほどから何かを試すかのように中(あ)てる位置を微妙に調整しているようであった。最初は胸部そのものを狙っていたが、徐々に関節部分にその焦点が移っていた。


 そのことに、ザグンは気づいているのか否かは定かではないが、ザグン自体も攻撃位置を徐々に変化させていた。それは、主に腕、特に手首の関節あたりをねらったものであった。


 ゴーレムは、その巨大さゆえに複数の魔法使いによる一気呵成の攻撃とともにゴーレムの操作をしている魔法使いへの攻撃が有効である。しかし、現在はゴーレムの操作をしている魔法使いもいなければ、一気呵成に攻撃を仕掛けられる複数の魔法使いも存在しない。では、どのような攻撃が有効なのかを二人は攻撃をしながら思案し続けているようであった。


 ゴーレムは岩石で出来ているのであるから、例えば、ザイードの頭に突き立てたままラグスが持ち去ってしまったツルハシがあれば、その掘削は比較的容易であったかもしれない。しかし、それがない現状では、やはり金属の棒を突き立てるのが掘削を行うには有効であろう。しかし、生半可な掘削では、ゴーレムの回復魔法によって意味をなさなくなってしまう。このことはすでに実証されてしまっていることからも取れる手立てとはいえない。


 では、どこにどうすれば有効打となりえるのかという思考へと移行できる。ゴーレム自体は人型を模したものであり、その関節部分はやや球形の石がその機能を果たすようになっている。であるならば、関節部分に対し、比較的大きなダメージを与えることさえできれば、その関節より先の機能を一時的にでも機能不全にできるのではないかと考えることが出来よう。


 ここにいる二人ともがその論理的帰結にたどり着いたかのように攻撃は関節部分に集中していたのである。ザグンはどの角度で金属の棒を突き立ててれば、その機能を不能とまではいかないなりに不具合を発生させることができるのかに注力しているようであった。


 今まさに、左手首の関節のやや腕よりの部分に金属の棒を突き立て、すぐさま棒をそのままに飛び退る。ゴーレムの左腕が具風をまといながら攻撃をしてきたのをダッキングで回避し、その手首のスナップがなされていないことにニヤリと笑みを浮かべる。


 ゴーレムが左腕を元の位置に戻すタイミングで、関節部分にある球形の石に獅子吼のような咆哮を放ちながら、金属の棒を突き立てた。その瞬間にさ群は大きく飛び退り、ロイを見る。


 それを待ちかねていたかのようにロイは口元にのみ笑みを張り付けて、先ほどまでとは異なり丸いままの石を突き立った金属の棒に向かって投射した。


 これまでにはなかった異音が部屋に響く。ロイが投射したそれは正確に二本の金属の棒に打ち当てられ、ゴーレムの左手が地面に落ちていた。ゴーレムの頭頂にある石が複数回淡い光を放つが、ゴーレムの左手が生え変わることはなかった。


 望外ともいえる結果に、二人の顔はまさに満面といえる笑みを浮かべていた。しかし、この状況でも安穏とはできない。ゴーレムの回復魔法によって四肢欠損までは回復しないにしても、ゴーレムの攻撃手段自体は無くなったわけでもないため、脅威は未だある。


 しかし、有効な攻撃手段を得たことにより、二人ともが先ほどよりも明るい顔になっていることは確かである。同じような攻撃を右手首にも繰り出し、同様の結果が得られたこともそれを後追いすることとなった。


 両の手首を無くしたゴーレムは、業を煮やしたのかこれまでよりも連続してザグンを攻撃する。その結果としてザグンが次の関節を攻撃するのが難しくなった。しかし、膝関節に対し何とか攻撃できないかと攻撃を繰り出してはいるのであるが、先ほどの蹴りによってもたらされた被害が頭から離れず物怖じしてしまっているのか、その攻撃は果敢な攻撃とはいえないものであった。


 ロイはそんなザグンを見ながら、思案気な表情を浮かべゴーレムに牽制の魔法を放っていた。その魔法は牽制にすらなっていないのか、ザグンへの攻撃は過密にすぎるものであった。ロイの視線が一瞬ゴーレムの上方に移り、何かを思い出しているかのようである。その後、数瞬が過ぎ、ザグンが何度目かのダッキングをした辺りで、ロイの視線がゴーレムとザグンの足元辺りに下がった。さらに数瞬がすぎたあたりで何かに思い当ったかのごとく、蒙が取れたようなさっぱりとした表情で、瞼を閉じた。


 ザグンは先ほどから有効な打撃が与えられず、イライラとしているのがその表情から見て取れる。ゴーレムの両の手首が取れた辺りで有効攻撃範囲が狭まり、より攻撃可能なタイミングが増えたはずにもかかわらず、先ほどよりも攻撃回数が体感できるほどに減っているからであった。


 自分への不甲斐なさを感じているのか、唇を噛み締め、突き立った歯によって血が流れ出ていた。先ほどから口の中は鉄の味しかしていないのではなかろうか。口の端から流れ出ている血をそのままに、自分に喝を入れるかの如く、獅子吼を発する。


 ゴーレムの右腕の攻撃を一旦バックステップによって回避し、左腕による攻撃をダッキングで回避することで一気にゴーレムの足元に移動。そのまま、振りぬかれて左腕が未だ戻っていないタイミングでゴーレムのやや左後ろ側にその身を置く。


 激しい喝破を発しながら、左脚の関節部分、やや腿よりにまるで可動域を狭めるように金属の棒を突き立てる。ゴーレムが腰をひねりながら左腕ででザグンのいる位置まで攻撃を行ってきた。それをザグンは咄嗟にダッキングをしながらゴーレムのやや左前方に移動するようにサイドステップを踏む。


 その瞬間、ゴーレムの右腕がザグンに向かってきた。ダッキングからのステップによってやや体勢を崩していたザグンには、その攻撃を回避することはできないと判断したのか、左手にもった金属の棒を突出し、衝撃に備え、一瞬瞼を閉じた。


 しかし、いつまでたっても来るべき衝撃が左腕に来ない。そのことに訝しげに瞼を開けると、ゴーレムの右前腕がまさに地面に着地する寸前であった。激しい音とともにゴーレムの右前腕が地面に着地するとともに、ゴーレムの右上腕が風を巻き起こしながらザグンの上方を通り過ぎる。


「な、なにが……」


 そのザグンの声に反応するかのように、ロイの上部に漂っている制御器が一瞬震えた。


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