第三十話 囚人たちと記憶の場所
結構な距離を歩いたなと認識できる程度に歩き続けた結果、目の前に壁があった。うなだれた様子のラグスと体力が多少戻ってきてはいるが無茶をするとまた元通りになってしまうロイが壁を背に座っていた。ザグンがその前で腕組みをし、壁を見上げている。
これまでと違うのは、そこは天井がなく吹き抜けになっていることとシングフロアではないことで、そして問題は登る手段がないことである。四メータルほどで石の部分がなくなり、土がむき出しているその吹き抜けを今のパーティ状態で如何に切り抜けるか、それを必死にディックが探っていた。
行き止まりの右の壁から正面の壁、左の壁へと調べていく。左の壁を調べていた辺りでディックの体が淡く光を放つ。そして何度か頷き、確認をしているのか特定の部分を何度か手で触ったりしていた。振り返って他の三人にディックが告げる。
「この行き止まり、昇降装置になっているみたいだぞ」
ラグスの顔がにわかに明るくなり、ロイを見るとラグスに笑顔を返す。
「なんとかなりそうですね」
ザグンが頷きでロイの言を肯定する。壁に預けていた背中を離し、中央辺りに集まる三人。それを見たディックが頷き、一見何もなさそうな壁を手で強く押す。ガコンと壁の一部がへこみ、周囲から地響きのような音が聞こえ始める。ディックが急いで中央に移動し、結果を注視する。
「やるしかないから仕方がないが、これで降りたら目も当てられんな」
そんなことをザグンがポツリと言うが、結果としては発動させて正解だったといえる。なぜなら床がすごい勢いで上昇し始めたからである。床にしがみつくように四つん這いになりながらそれに耐える四人。ラグスの口から声が漏れていたが、それに構っていられないのか反応を返すものはいない。
不意に重力の枷を外された四人が呆けた顔をしながら空中を舞い、その後、あきらめの悪い重力に再び枷を填められる。床に倒れ伏した四人が痛そうに体をさすりながら起き上る。
「もうちょっと何とかならないの……」
誰に言っているでもなく愚痴がラグスの口をつく。小さな苦鳴を上げながら他の三人も同様のことを思ったのかまったくだとその顔に書いてあった。そして痛みも引いたのか落ち着いて周囲を伺う四人。
一見、ただの行き止まりにしか見えない昇降装置から見て道が左右に伸びていた。そして最も目を引くのが正面の壁にある台座のようなものだ。高さ一メータルほどのそれは、天板の部分に丸いへこみが存在していた。へこみは四つあり、丁度拳大の円形のものであった。その周囲には四色神が描かれた装飾があった。左上に赤の主、左下に緑の主、右上に黄の主、右下に青の主、そして中央に四つ並んだへこみの上に神代文字らしき文字が描かれている。美術的価値のある台座のようにも見える。ラグスが動かそうとしてみるが固定されているのかピクリとも動かない。そのへこみや周囲の装飾をみてロイがいう。
「もしかしたら昇降機の操作盤なのかもしれません。この文字、“登るにしろ、降るにしろ、神を示せ”と書いてあります」
ディックがごそごそと大袋を漁り始める。中から取り出したのは黄の玉石であった。大きさとしてははまりそうな大きさに、他の三人が目を見張る。
「神を示せってのはこれのことか?」
そういって黄の玉石を持った反対の手を台座にかざし、体を淡く光らせる。特に問題がなさそうなのか軽く頷いて、他の三人を見る。それを見てラグス達が少し後ろに下がる。一番右側のへこみに玉石を置いてみるが特になんらかの反応もなかった。それを見てロイが口をはさむ。
「黄ですから、三番目かもしれません。ご存じでしょうか、名付けの三番目は黄の主ですから……」
それに頷き、左から三番目に玉石を置いてみる。すると黄の玉石が淡く光始め、昇降装置の方から何かに閊えるような音が聞こえる。ロイがそれを聞き、顔を地面に向ける。音と光以外特に変化が起こらない。
「ふむ、もしかしてスイッチを押す必要があるのかもしれんな」
そういってザグンが視線を右上にやりながら顎を扱く。しかし、降りてしまっては寝床に帰還するのが難しいことになると思考したのか、
「まぁ、しかし、その台座はまた次のときにでも詳細にしらべるべきだな」
とザグンが告げる。全員が頷きを返し、ディックがへこみから玉石を外すと淡い光が消えた。そしてそれを大袋に収めると右の通路へとラグスが進み始めたので、全員がそれに倣う。
しばらく進むと、道が右に折れ、それを進むと今度は道が左右に広がるT字路に出た。ラグスが顔を軽くだし左右を伺った後、右の通路を行く。今度は三十メータルほど進むと左に曲がる道とまっすぐに進む道にでた。左に曲がる道に警戒しながら直進する。
またも三十メータルほど進むと道が右に曲がっており、そのまま進むとさらに右にまがり、台座と昇降装置が見えてきた。
「一周して戻ってきちゃったな……」
右手で軽く後頭部辺りを掻きながらラグスが独り言をいう。
「昇降装置の真裏にあるっぽい道にいってみたらどうよ?」
というディックの提案にのって先ほど左に伸びていた通路にまで戻る。そこを進むと正面に壁が見えてきた。
「ふむ、行き止まりだな。一応、調べてみるか?」
ザグンがディックに振り返りながら提案する。ディックが頷き、壁に近づこうとすると、不意に壁がなくなる。一瞬足を止めるディック。一歩後ずさると壁がもとに戻り、一歩前にでると壁が消える。どこかに何かの仕掛けがあるのかと周囲を見回すと天井に術式が描かれていた。
「あれは……?」
ディックがそう言ったのを聞きつけ、ロイが見上げる。
「見たことない術式ですね……隠し扉に使われる術式に似ているようですが……特殊な術式かもしれません」
ディックが軽く頷き、ラグス達を見やると、ラグスとザグンが頷く。
「危険はなさそうだし、いってみるか」
そうディックが告げるとできるだけ一塊になって消える壁に向かって進む。何事もなく通過し、ほっと安堵の溜息を吐いた。さらに歩を進めていくと十字路に差し掛かる。正面の通路を少し進むと左手にレバーと開かれた石扉があった。石扉にはそれぞれ緑の主が描かれている。
「第一階層か!」
明るいラグスの声が迷宮に響いていった。




