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囚人と迷宮と  作者: 灰色の雪
第一章 囚人たちの浅層攻略
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第二十二話 囚人たちと闇の中

 その部屋は、暗く昏く、そして闇(くら)かった。そうとしか表現できない闇に包まれていた。闇が意思をもっているのかのように松明の明かりを拒絶している。松明に火は点いている。しかし、それは周りを一メータルも照らせていない。

 明るさに包まれた部屋の次に来た無表情の緑の主の装飾のあるドアを潜ると、そこは濃密な闇が支配する部屋であったのだ。誰もが無言で部屋に入る。奇襲、警戒、そんな言葉を頭がよぎる。ドアを閉めていないのに部屋の中にはか弱い松明の光のみが存在する。

 床には砂利のようなものが敷き詰めてあるのか、一歩歩み(あゆみ)を進めるたびに石が擦れあう音が聞こえる。ディックがラグスたちのみに聞こえるように囁くように言う。


「その場で警戒しててくれ。探索するわ」


 近くにあった気配が一つ消える。少し心細く感じながらも警戒し続ける。ディックが移動しているのであろう砂利を踏む音が少しづつ遠くなっていく。音だけが頼りになる。そう考えラグスとザグンは目を閉じ、耳に集中しはじめた。一定の間隔で聞こえてくるディックの足音らしき砂利の音。不安や緊張からか空気が薄く感じられ次第に呼吸が速くなっていくロイ。

 ラグスは音に集中し続ける。足音、呼吸音、呼吸音、呼吸音、足音。不規則のようで規則的な音の羅列。音は多少の変化をしながら続いていく。時が止まるかのような闇の中で足音と呼吸音だけが時を知らせてくる。だんだんと足音が近づいてくる。呼吸音もだんだん静まってくる。

 足音がラグスたちの至近で聞こえる。ディックが戻ってきたようだ。


「なにかあったかい?」


 ディックであろう至近にある気配に問いかける。


「いや、なにもなかった」


 ディックの声のようであるが違和感がある。なにか硬質な感じを受ける声だった。ラグスが警戒をする。


「本当? だとしたらここは何の部屋なのかな」


 何も気が付いてない風を装いながら、足元の砂利に注意しながら徐々に半身になるラグス。いつ何が起きてもいいような体勢に移行していく。


「壁の方にはなにもなかったから、さっきの部屋みたいに中央部分になにかあるのかもしれない」


 違和感が更に肥大する。いつものディックの声ではないように感じるのだ。眉間が徐々による。盾を持つ手に力が入る。


ジャリッ。


 注意していた足元で音が鳴る。しくじったと強く思うラグス。盾の影に体を入れる前に気付かれた、そう思ったのだ。


「どうした? なにかあったのか?」


 ザグンがラグスに違和感を感じ声を掛ける。


「いや、なにもないよ」


 とだけ答える。ここで警戒していることをディックらしきものに伝えるのは危険だ。視界が利かない闇の中で相手にこちらの行動を知らせる必要もない。盾に体を隠せた。あとは相手がどう出るのかを待つだけだ。

 だんだんと不安が膨れ上がる。声のする場所にディックらしきものはいないかもしれない。背後からの一撃があるかもしれない。かもしれない、かもしれない……そんな不安が増幅していく。闇の中で時が経つにつれ、不安がきっかけで懐疑になり、懐疑が疑惑になる。それ以降なにも発言しないディックへの疑惑が確信に変わる。

 殺らなければ殺られる、そういう危機感をもって軽く腕に力が入る。剣を前に突き出す。それだけでこの確信は解消される。生存本能のままに剣をディックに突き立てようとした。その瞬間、強い握力で手首を握られる。


「ラグス!」


 物理的行動を伴った強い制止。なぜ邪魔をするのかわからないザグンを忌まわしげに振り切ろうとする。


「落ち着けラグス!」


 二度目の制止。そして強く引かれる手。そのまま部屋から連れ出される。松明が部屋から出た瞬間、眩いくらいに周囲を照らす。そこにいるのはザグンと手を引かれたラグス。ロイに普段と変わらぬディックであった。ディックを目にしたラグスは、胸中の不安が霧消する。


「あ、あれ?」


 ラグスは、殺意を込めるほどに確信をもっていたものが不意になくなったことに、強い戸惑いを覚えているようだ。キョロキョロと辺りを見回すもいつもの見慣れ始めているメンバーの顔しかない。

 ラグスの不審な行動が収まったからか安堵の表情を浮かべるザグン。ロイは何事が起ったのかとびっくりした顔をしている。闇の部屋になにかあるのではと注意を向けているディック。


「大丈夫か、ラグス」


 先ほどとは打って変わり優しい声を掛けるザグン。その顔は心配と書いてあるような表情であった。それを見たラグスが戸惑いを深めながらも、大丈夫だという意味で頷く。

 暫く落ち着くまで特に行動を起こさずに通路にいた。ラグスがなんとか立ち直り、話し始める。


「なんか、あの部屋にいると不安が湧いてきて。ディックがディックじゃないような、そんな不安がさ」


 それを聞いてザグンが頷き、話を続けるように促す。


「それでだんだんとディックがディックじゃないって思えて、気が付いたら構えてた」


「ふむ、確かに闇の中では不安にもなるだろう」


 その行動の是非は問わず、敢えて不安になったという部分のみを肯定する。


「それにしても突飛な行動にでたものだな」


 ザグンのその言葉に漸く全体がつかめたロイが「確かに……」と肯定するが、ザグンはそれを取り合わず、ラグスに注意を向けている。


「それが不思議で不安がどんどん俺のなかで大きくなっていったものだからさ。いつもはこんなことないのに……」


 そういって軽く落ち込むラグス。


「何もなかったのだ。だから気に病むほどではない」


 ラグスの肩を軽く叩きながら励ますザグン。ロイも何度か首を縦に振っている。その言葉に救われたかのようにラグスは少し顔を明るくする。

 ディックが何かに気が付いたのか部屋に入ってすぐの、ドアの真上辺りを指差してロイに声を掛ける。


「あれ、何かわかるか?」


 ディックの言に、移動して確認しようとするロイ。よく見えないのか、ディックの肩のあたりに目線が来る程度の小柄なロイはピョンピョンと跳ねて確認する。


「なにかの術式のように見えますが、何の術式なのかまではちょっとよく見えないです」

 ディックも闇に覆われてよく見えなかったので確認のために聞いてみたといった風である。そんな話をしているディックとロイに落ち着いたラグスとザグンが近づき話を聞く。どうすれば確認できるかという話になり、しばらく話し合いが持たれた。

 結局のところ、ザグンにロイが肩車をしてもらい確認することとなった。ザグンがしゃがみ込み、その肩に乗る恥ずかしげなロイ。


「いい大人が肩車……」


 そんな呟きも漏れていた。ロイもいい年齢の男性であり、小柄とはいえ軽く持ち上げられるほどに軽くはない。そこでザグンの怪力でなんとかしようということになったのである。ザグンがちょっと気にし始めている頭頂部を軽く手を置き、合図を送る。ザグンが足に力を入れゆっくりと持ち上げる。


「これ……精神増幅の術式……」


 精神増幅。喜怒哀楽といった感情を増幅させ、極度な興奮、怒り、混乱、多幸感といった異常な精神状態を引き起こすもので、これを術式としたものが精神増幅の術式と呼ばれる。あまり使われることのない術式ではあるが、時折迷宮内に存在する。この術式の恐ろしい所は集団ヒステリー状態になったパーティによって他のパーティに襲い掛かったりする場合があることである。当然パーティ内での戦闘の可能性もある。

 探索者は、一般の人よりも能力として強い精神力を持っている場合が多い。魔法使いなどは精神の力によって魔法制御を熟すのであるから更に強い精神力を持っている。その一般人よりも強い精神力をもってしても感情が揺さぶられる。つまり、それだけ術式としては高度なものといえる。


「第二階層で精神増幅の術式なんて……」


 迷宮で精神増幅の術式が用いられているほうが少ないが、用いられる場合は比較的深い階層においてである。それが第二階層で使われていることに驚愕を覚えるロイ。その言を聞いて眉間に強く力の入る三人。


 ラグスたちは、これまでの迷宮の常識を覆しかねない囚人迷宮の在り方に恟恟(きょうきょう)とするのであった。

名称:ラグス レベル:2 先天的才能:守り手(ガード)

スキル:<剣術>(2:5/30)、<盾術>(1:8/10)、<気迫>(1:3/10)、<**>、

     <**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<剣術>:スラッシュ、<盾術>:バッシュ、<気迫>:呼び声(コール)、

     <**>:**、<**>:**、<**>:**、<**>:**


名称:ザグン レベル:2 先天的才能:怪力(パワー)

スキル:<鎚術>(2:5/30)、<両手利き>(2:2/30)、<物理耐性>(1:9/10)、<戦声>(1:1/10)、

     <自己治癒上昇>(1:6/10)、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<鎚術>:スマッシュ、<両手利き>:同時攻撃(ダブルアタック)、<戦声>:ウォークライ、

     <自己治癒上昇>:自己治癒上昇強化I、<物理耐性>:痛覚軽減、<**>:**


名称:ディック レベル:2 先天的才能:弓の名手(スナイパー)

スキル:<弓術>(1:3/10)、<探査>(2:7/30)、<開錠>(1:0/10)、<罠設置解除>(1:7/10)、<危険察知>(2:5/30)、

     <**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<弓術>:ピアッシング、<**>:**、<**>:**、<**>:**、

     <**>:**


名称:ロイ レベル:2 先天的才能:魔法使役者(マジックユーザー)

スキル:<魔法制御>(1:7/10)、<水属性制御>(2:3/30)、<土属性制御>(1:4/10)、

     <**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<魔法制御>:射出制御・対象制御・範囲制御、<**>:**、

     <**>:**、<**>:**、<**>:**


-------------------------

 さて、ようやく迷宮について書け始めました。

 これまで通り、作中で具体的に示したものだけをステータスとして表示してます。

 精神力の能力値もあるのですが、具体的数値は出ていませんので載せませんでした。いつかラグスたちがもっと仲良くなったら話すかも知れません。


 誤字脱字文意不明等ございましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。


先日(2013/3/3)、小説全体に細かい修正を加えましたがストーリー自体の変更はありません。

主な修正点は、誤字、脱字、誤用、意味不明な文章、理解困難な文章の是正です。あとジーのメンバーの名前を「ザッツ」から「リオド」に変更しました。

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