第二十一話 囚人たちと影の中
台詞回し及び表現を若干修正(2013/3/3)
迷宮第二階層。三つのドアがある通路にまで進んだ時、ラグスが不意に、
「変な話なんだけど、迷宮内にいるほうが嫌なこと考えなくていいから楽に感じるんだよね」
そんなことを言い始めた。確かに変な話である。普通、探索者は迷宮内では解けることのない緊張感に苛まれる。しかし、ラグスは違うようである。苦笑いを浮かべたディックが言葉を返す。
「ああ、なんとなく言いたいことはわかるわ」
ザグンもロイも苦笑いを浮かべていることから意味は伝わっているらしい。そのまま、小休止をすることにした一行。モンスターを警戒しているため小声のまま話を続ける。
「寝床だと周りの動きを注意しないといけないから気が休まらないし、睡眠を取るためと補給をするためだけに戻ってる感じだしさ」
ロイが首を二回縦に振り、同意する。それを受けラグスが言を続ける。
「逆に多少危険を冒してでも潜り続けた方がいいのかもしれないね」
寝床に戻れば、権謀術数とまではいえないが権力闘争があり、現在ヒラエルキー的には最下層にいるラグスたちはそれに巻き込まれやすくなる。そのことを危惧してのラグスの発言のようだ。迷宮と寝床、どちらの危険がよりマシかという話である。
その発言を聞いてラグス以外の三人は少し渋い顔になる。
「ふむ、他の囚人の妨害がないうちに、攻略できるだけ攻略したほうがいいだろうな」
ラグスの意見に危険を感じたザグンは不和の元となるので否定はしなかった。そこで同意しつつも、極論に至らないようにやんわりと意見修正をラグスに求めたのである。
「そうだね。そっちのほうがいいか」
ザグンの発言の意図に気が付いたラグスが多少意見修正をする。ディックとロイもそれならば賛成とばかりに頷く。
さすがに周りに他の囚人たちがいる状況ではできない話であった。どこに誰の目や耳があるのかわからない寝床では特にだ。
前回の話し合いの時は、パーティ内での危機認識の共有化が急務だったために寝床で行ったし、魔法談義はそれも込みでロイは話していた。しかし、重要なことは全て避けていた。そこでラグスが、さすがに迷宮内まで尾行をしてくることもないだろうと考え、ここならば大丈夫とこの話を始めた理由でもあった。話の取っ掛かりがかなり変な始まりであったのは否定できないが。
「そうしようか。とりあえず、今日の目標は二本の鍵の使い道を見つけよう。あわよくば三階層へいこう」
今後の方針が決まった。先行きを急ぐ。当面の課題は3つのうちのドアのどれを選択するかである。
その木製のドア群には、成人男性の平均的な目の位置にそれぞれ小さな装飾が施してあった。それは階段方向から順に明るく朗らかな笑顔の黄の主、そして最後がすべてに興味を失ったかのような無表情の緑の主、仄暗い嫉妬の炎に燃える赤の主が描かれていた。
魔法において語られる四色属性及び光闇属性。四色属性は四色神に司られている。そして光闇属性も四色神に司られているのである。それは四色神の二面性によって語られる。一面は情熱、静穏、従容、優しさといった善性な部分を、もう一面は、激怒、冷血、怠惰、無関心といった悪性な部分を指す。これらの部分の極端な善性を光とし、極端な悪性を闇としているのである。
一般的に教会では四色神の善性の部分を目指すよう、悪性の部分は反面教師にするよう信徒に説法を説いている。しかし、何事にも例外があるように、一部少数においてその逆を指導している場合もある。
つまり、この三つの木製ドアには、その二面性のある四色神を描いているのである。
「ん?……この並びなら善性を示した“微笑の青の主”が描かれてないとおかしくないですか?」
ロイが疑問の声を上げる。ふと前の玉を使った謎かけにも青の玉がなかったことを思い出す。それに連関して第一階層で黄の主が描かれていなかったことも思い出す。
「なにか意味があるのかもしれませんね……」
そういって考え込んでしまうが、目下の課題解決には至らない。ロイが考え込んでいるのを横目にザグンが提案する。
「まず黄の主にいってみないか」
理由は通路の最初に存在するドアだからといった単純なものであるが、単純であるが故に選択しやすい。ロイ以外の賛成する。遅れてロイも賛成の意を伝える。
そうして、黄の主の描かれたドアの前に移動し、ディックがドアの前で淡く体を光らせる。鍵すらもかかっていない普通のドアであった。装飾の仰々しさから危険視していた当てが外れ、呆けた様子でドアを開ける。
最初に目に飛び込んできたのは光であった。その部屋は、なぜか明るかった。明るさの原因を探るため、周囲を警戒するラグスたち。明かりの原因は部屋の四隅の天井に光る玉がはめ込まれているためのようだ。
その部屋がこれまでと大きく違うのは、明かりもあるが石の継ぎ目のない滑らかな表面をもった壁が部屋のすべてを覆っていたことである。それはまるで大きな岩を刳り貫き、長い時間を掛け丹念に処理したかのような、ある種、黄の主の部屋といわれても納得できるような手間をかけたものであった。
前回の失敗からラグスが注意深く部屋の中央に歩を進める。ディックもそれに習い注意深く部屋の周囲の壁を自分の影で見えなくならないように丹念に調べ始める。まず入口のドアがある壁を調べ、次いでドアから見て左側の壁、正面の壁と調べていくが特になにもない、ただの壁のようである。最後に右の壁を調べているときにロイから声が上がる。
「影の中になにかが!」
ビクンッと一瞬体が硬直し止まるディック。ロイの言葉が示す影を見る。その影はザグンの物であった部屋の中央部ややドアよりのところに立っていた。ディックの視線を受けザグンは自分の足元の影を見る。
「ラグスさん、さっきの場所に戻って!」
ラグスが何事かと移動したことが問題となるようだが、その理由がわからないため疑問を浮かべる。しかし、素直に元いた場所に戻る。するとザグンとラグスの影が重なった時、部屋の中央におぼろげながら何かが見えた。ロイがさらに影が重なるように移動する。するとおぼろげに台座が見える。それを見たザグンが疑問を口にする。
「どういう原理なのだ……」
光が射してしまえば見えなくなる、影の中に浮かぶ台座。ディックが影が重なるように移動するとそれは明確となった。台座の中央に何かを刺すような窪みが存在する。
「わからない……が、あそこにある窪みは鍵穴じゃないか?」
ディックの言葉を聞いて、パーティ資金用の小袋に入れた二本の色違いの鍵をディックに投げ渡す。ディック以外の全員が影が重なるのを維持しながら少し下がる。それをみてディックが慎重に台座に近づく。台座にしゃがみ、何度か体を淡く光らせる。
ディックが全員の顔を見て頷く。それをラグスたちが返す。
慎重にまず黒い鍵を穴に挿してみる。特に反応はない。何があっても大丈夫なようにさらに集中し、ディックがゆっくりと鍵を回す。回し始めると途中で抵抗を感じる。それ以上は回せないようだ。白い鍵で同じことを繰り返す。今度はゆっくりと回し続けられる。丁度百八十度回転したところで、ガコンッと音がした。全員の体が硬直する。が、それ以上なにも起こらないし、部屋にも特に変化はなかった。
細く長い溜息がディックの口から洩れる。それから立ち上がり、些細な変化がないか周囲を見回すが、特に何もなかった。
「別の部屋が関係するのか……?」
ディックの呟きが静かに漏れた。
名称:ラグス レベル:2 先天的才能:守り手
スキル:<剣術>(2:5/30)、<盾術>(1:8/10)、<気迫>(1:3/10)、<**>、
<**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>
アーツ:<剣術>:スラッシュ、<盾術>:バッシュ、<気迫>:呼び声、
<**>:**、<**>:**、<**>:**、<**>:**
名称:ザグン レベル:2 先天的才能:怪力
スキル:<鎚術>(2:5/30)、<両手利き>(2:2/30)、<物理耐性>(1:9/10)、<戦声>(1:1/10)、
<自己治癒上昇>(1:4/10)、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>
アーツ:<鎚術>:スマッシュ、<両手利き>:同時攻撃、<戦声>:ウォークライ、
<自己治癒上昇>:自己治癒上昇強化I、<物理耐性>:痛覚軽減、<**>:**
名称:ディック レベル:2 先天的才能:弓の名手
スキル:<弓術>(1:3/10)、<探査>(2:5/30)、<開錠>(1:0/10)、<罠設置解除>(1:6/10)、<危険察知>(2:1/30)、
<**>、<**>、<**>、<**>、<**>
アーツ:<弓術>:ピアッシング、<**>:**、<**>:**、<**>:**、
<**>:**
名称:ロイ レベル:2 先天的才能:魔法使役者
スキル:<魔法制御>(1:7/10)、<水属性制御>(2:3/30)、<土属性制御>(1:4/10)、
<**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>
アーツ:<魔法制御>:射出制御・対象制御・範囲制御、<**>:**、
<**>:**、<**>:**、<**>:**
-----------------------
第二階層二つ目の謎のはじまりはじまり~。
まぁそんな大したもんでもないですが……。




