表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度きりのリボン  作者: 矢満田太郎
第1章:名前の揺らぎと影の少女
PR
6/18

【第6話】 他の魔法少女たち

屋台街の夜は、いつもより賑やかだった。影の出現が続いているせいで、街の人々は早めに店じまいをし、魔法少女たちが巡回する姿があちこちで見られた。紬は観察ノートを抱え、仲間たちと合流するために広場へ向かった。胸の奥の名前の欠片はまだ薄く、呼ばれるたびに灯る小さな光が紬を支えていた。


広場には、紬たち以外の魔法少女たちが集まっていた。彼女たちは派手な衣装をまとい、光弾や炎の魔法を軽々と放っている。紬はその光景を見て、胸の奥に小さな違和感を覚えた。自分の魔法は一度きり。彼女たちのように何度も魔法を使うことはできない。


「紬ちゃん、また来たの?」

声をかけてきたのは、街で有名な魔法少女・水城アリアだった。青い髪を揺らし、軽やかにステッキを振ると、光の粒が夜空に散る。


「うん。巡回の時間だから」

紬は静かに答える。アリアは笑いながら紬の肩を軽く叩いた。


「でも紬ちゃんの魔法って、一度きりなんでしょ? 大変じゃない?」

その言葉は悪気がないのに、胸の奥に小さな痛みを落とした。


「……使いどころを選べば、なんとかなるよ」

紬は微笑んで返す。だがアリアは首を傾げた。


「選ぶって言っても、戦いって瞬間の判断じゃない? 私たちは何度でも撃てるから、考えるより動く方が早いし」


その言葉に、ミナが少しだけ眉をひそめた。

「紬は考えて動くタイプなんだよ。私たちとは違う戦い方をしてる」


アリアは「あー、なるほど」と軽く笑ったが、その笑いにはどこか距離があった。


広場の端では、別の魔法少女たちが訓練をしていた。炎を操る少女、氷の刃を飛ばす少女、雷を纏う少女――彼女たちは派手で、強く、そして迷いがないように見えた。


「紬ちゃんも、もっと派手な魔法使えたらいいのにね」

アリアが言うと、ユイが風を揺らして軽く笑った。


「紬は派手じゃなくていいんだよ。紬の結びは、私たちの魔法よりずっと繊細で強い時がある」


アリアは興味深そうに紬を見つめた。

「繊細って、どういう意味?」


紬は少し考えてから答える。

「……誰かの縁を結び直す魔法だから。派手じゃないけど、守れるものがある」


アリアはしばらく黙り、やがて肩をすくめた。

「ふーん。でも一度きりって、やっぱり怖くない?」


紬は胸の奥の名前の欠片を思い出す。

「怖いよ。でも、選べるから」


その言葉に、アリアは少しだけ目を見開いた。

「選べる……か。私たちは撃ち続けるだけだから、選ぶって感覚はあんまりないかも」


その言葉は、紬にとって新しい視点だった。

魔法を何度も使える彼女たちは、選択の重さを感じる機会が少ない。

紬は一度きりだからこそ、選ぶことが戦いの中心になる。


そのとき、広場の端で影が蠢いた。黒い糸が地面を這い、複数の影が同時に形を作り始める。アリアたちはすぐに光弾を放ち、影を削り始めた。派手な魔法が夜空を裂き、影は次々と崩れていく。


だが、影の一部が紬の方へ向かってきた。糸は細く、名前の響きを探るように震えている。紬はステッキを握り、結びの輪を作る準備をした。


「紬ちゃん、下がって!」

アリアが叫び、光弾を放つ。だがその光弾は影の糸に吸われ、逆に影の力を強めてしまった。


「この糸は……名前を狙ってる!」

蓮が叫ぶ。紬は胸の奥が冷たくなるのを感じた。


紬は結びの輪を描き、糸の位相をずらす。だが影はしぶとく、紬の名前の響きを探り続ける。紬は胸の奥の「風花」という響きを思い出そうとするが、そこに小さな空白がある。


「紬!」

蓮の声が響く。呼ばれることで、紬の胸に灯りが戻る。


紬はその灯りを頼りに、結びの輪を強く描いた。輪は糸の共鳴点を崩し、影は形を保てなくなった。仲間たちの攻撃が重なり、影は崩れ落ちた。


アリアはその光景を見て、目を見開いた。

「……すごい。紬ちゃんの魔法、派手じゃないのに、すごく強い」


紬は少しだけ笑った。

「一度きりだから、全部を込めるんだよ」


アリアはしばらく紬を見つめ、やがて静かに頷いた。

「選ぶって、そういうことなんだね」


広場の片付けが終わる頃、アリアは紬の隣に座った。

「ねえ、紬ちゃん。私、今日ちょっとだけ怖かった」


紬は驚いてアリアを見る。

「怖かった?」


「うん。何度も撃てるから、考えずに戦ってた。でも、紬ちゃんの戦い方を見て……選ぶって、すごく重いんだって思った」


紬は静かに頷く。

「重いけど、その重さがあるから、守れるものがあるよ」


アリアは少しだけ笑った。

「私も、選べるようになりたいな」


その言葉は、紬の胸に温かく響いた。

あとがき(紬の日記)

今日は他の魔法少女たちと話せた。

選ぶことの重さを、少しだけ分かってもらえた気がする。

アリアの言葉が嬉しかった。

名前の響きはまだ遠いけど、呼ばれるたびに戻ってくる。

明日も観察を続けて、もっと強い結びを作りたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ