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一度きりのリボン  作者: 矢満田太郎
第3章:名前を狩る影
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【第30話】 影の心臓が止まる音

地下最深層は、まるで世界の底が静かに息を止めているかのようだった。

影の心臓は黒い鼓動を響かせながら、昨日よりもさらに不安定に脈動している。

紬は観察ノートを胸に抱え、影の心臓が“止まりかけているのに止まらない理由”を探っていた。


胸の奥の「風花」という響きは確かに存在している。

昨日よりも強く光っている。

だが、その光は影の心臓の鼓動に引っ張られ、時折揺らいだ。


蓮は紬の隣に立ち、静かに言った。

「紬……影の心臓、もう限界だよ。今日で終わらせよう」


紬は深呼吸し、ステッキを握りしめた。

「うん。影の心臓を完全に止める」


ルクは肩で震え、弱い光を揺らした。

「紬……影の声がすごく近いよ。心臓の奥から聞こえるよ」


■影の心臓の“最後の鼓動”

影の心臓は、昨日よりも速く脈動していた。

黒い鼓動が地下全体に響き、名前の粒が吸い込まれていく。


ユイが風を探るように目を閉じる。

「紬……心臓の鼓動が“逆流”してる。名前を吸うんじゃなくて、押し返してる」


真白は紬の手を握り、治癒の光を揺らした。

「紬ちゃん……名前の響きが心臓にぶつかってるよ」


ミナは心臓の周囲を見つめながら言った。

「影の原型……紬たちの名前の響きに押されて、心臓が自分を守ろうとしてる」


蓮は紬の肩に手を置き、静かに言った。

「紬、影は紬を核にするのを諦めてない。絶対に離れない」


紬は頷き、心臓の前に立った。


■影の心臓が語る声

影の心臓は紬に向かって糸を伸ばした。

昨日よりも太く、深く、重い。


影は声を持たないはずだった。

だが、その影は紬の胸の奥に直接語りかけてきた。


――名前は重い。

――重さは痛み。

――痛みは世界を壊す。

――だから私は、名前を集める。


紬は胸の奥が強く揺れた。

「影……名前を集めて何をするの?」


影は揺れ、響きを返した。


――名前を集めれば、世界は軽くなる。

――軽くなれば、痛みは消える。

――痛みのない世界が生まれる。


蓮は震える声で言った。

「紬……影は“痛みのない世界”を作ろうとしてる。でも、それは……」


紬は影を見つめ、静かに言った。

「名前が消えたら、その人は消える。痛みが消える代わりに、存在が消える」


影は揺れ、響きを返した。


――存在は痛み。

――痛みは不要。

――不要なものは、消えるべき。


紬は胸の奥が強く揺れた。

「影……あなたは世界を救おうとしてるんじゃない。世界を“空にしようとしてる”」


影は揺れ、響きを返した。


――空は美しい。

――名前のない世界は、美しい。


紬は胸の奥が冷たくなるのを感じた。


■影の心臓が“最後の糸”を伸ばす

そのとき――

影の心臓が新しい糸を伸ばした。


それは紬でも蓮でもユイでもなく――

真白に向かっていた。


「真白!」

紬は叫んだ。


真白は胸を押さえ、苦しそうに息をする。

「紬ちゃん……名前が……揺れてる……!」


蓮は歯を食いしばり、影を睨んだ。

「紬……影は“治癒の名前”を核にしようとしてる。真白の名前は優しい響きだから、心臓を安定させやすいんだ!」


ユイは風を揺らしながら言った。

「影は最後の抵抗をしてる……!」


ミナは影を見つめながら言った。

「影の原型……真白の名前を使って心臓を再生しようとしてる!」


紬は胸の奥が強く揺れた。

「真白を……守らなきゃ!」


■紬が真白の名前を呼ぶ

紬は真白の手を握り、強く言った。

「真白!」


真白の胸の奥に光が灯る。

だが――弱い。


影の心臓は真白の名前を強く引っ張っていた。


紬はさらに強く叫んだ。

「真白――!」


その瞬間、真白の胸の奥が強く光った。

影の糸が一瞬だけ揺らぐ。


蓮が真白の肩を支え、ユイが風で糸の動きを乱し、ミナが糸の根元を切り裂く。


紬は結びの輪を糸の中心に叩き込んだ。


影の心臓は大きく揺れ、黒い霧を撒き散らしながら崩れ落ちた。


■影の心臓が“止まる”

影の心臓は、ゆっくりと鼓動を弱めていった。


ドクン

……ドクン

…………ドクン


蓮は息を飲んだ。

「紬……心臓が……止まる……!」


ユイは風を揺らしながら言った。

「名前の響きが……影の心臓を押し返してる……!」


真白は涙を浮かべながら言った。

「紬ちゃん……影の心臓が……止まるよ……!」


ミナは影を見つめながら言った。

「影の原型……紬たちの名前の響きに負けた」


紬は胸の奥の響きを感じながら、静かに言った。

「影の心臓……止まって」


紬はステッキを握りしめ、結びの輪を描いた。

輪は影の心臓の中心に叩き込まれた。


影の心臓は――

完全に止まった。


黒い霧が静かに崩れ落ち、地下最深層に静寂が戻った。


■影の心臓が止まった世界

蓮は紬の肩を抱き、震える声で言った。

「紬……終わったよ。影の心臓が止まった」


ユイは風を揺らしながら言った。

「名前の響きが……自由になった……」


真白は紬の手を握り、涙を流しながら言った。

「紬ちゃん……ありがとう……」


ミナは遠くを見つめながら言った。

「影の原型……もう名前を奪えない」


紬は胸の奥の響きを感じながら、静かに言った。

「影の心臓……止められた」


蓮は紬の手を握り返し、強く頷いた。

「紬……本当に、よく頑張った」

あとがき(紬の日記)

影の心臓が止まった。

名前の響きが自由になった瞬間、胸の奥が強く光った。

蓮、ユイ、真白、ミナ……みんなの名前が私を支えてくれた。

影はもう名前を奪えない。

明日からは、影の残滓を探しに行く。

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