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煉獄記  作者: 法蓮
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満月の目


 影で動き出した者の姿を見る事は出来ない。ザンギに力により、直感力が増している紅蓮は、入道の情報を追う為に、自らが囮になる選択をする。周囲は悪手だと、止めに入ってきたが、彼女は意思を曲げる事はなかった。今まで自分の配下を動かして、全て失敗している。挙げ句の果てに、大切な人達さえも傷つける結果になってしまった。


 この事態を重く受け止めた紅蓮は、集団で動くよりも一人でやり遂げた方がリスクが低いと踏んでいるようだった。彼女の命令は絶対だ。本来なら配下達は、彼女の行動を尊重しなければならない。


 「納得出来ない。紅蓮様だけで乗り込むとか、危険すぎる」


 雫は感情を荒げると、行き場のない怒りをぶつけていく。それを聞いているのは、眠ったままの右黄(うおう)だけだ。体の損傷は激しいが、一命を取り留める事が出来た。蓮愚(れんぐ)の処置が早かったからこそ、ここまでで留まる事が出来ているのが現状。これ以上は望めない、それが雫の気持ちだった。


 「紅蓮様との約束を千切ると言う事は、破門になりますよ、雫」

 「……ここまでやられて黙っていられない。紅蓮様だけに背負わせたくないんだ」


 力を使い果たした蓮愚(れんぐ)は雫に忠告をする。言わなくても、彼は分かっているはずだ。それでも、どうしても最後の確認として雫の決意を見たかったのだろう。困ったものだ、と言いながらため息を吐くと、何も見えないように、くるりと背中を見せ、言葉を吐いた。


 「私の目が届かないうちに、行けばいい。それが貴方の願いなら」

 「……悪い」


 紅蓮に気づかれないように、ひっそりと掠王眼を使い、彼女の居場所を確認した。どこのルートを使って、目的地を洗い出そうとしているようだった。掠王眼は雫の隠された術の一つ。この術を使う事によって、全ての人の行動を読み取る事が出来る。通常は範囲が狭くなるが、一人に絞る事で、どこまでも追いかけ続ける事が出来るようになる代物だ。


 雫は二人に背中を向けると、覚悟を決めるように、屋敷を後にした。夜中に駆け回る彼の姿は、まるで龍のような波動を漂わせながら、全速力で隠密を使いながら、全ての集結の場へと向かい始めた。


 「あの子ったら……」


全力疾走している雫の気配を幾分先から、感知すると、困ったような表情で呟いた紅蓮の姿が、満月に映っていく。全ての視線が自分達に向けられている事を感じながら、雫を振り切る為に、紅蓮も本気になっていく。


 「私は見ていますよ、紅蓮」


 人払いをした桔梗が月の目を使い、全てを見ているとも知らずに──

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