喋る本とミイラ男
「ぷはっ!・・・はぁはぁ!」
長い眠りからさめたような感覚。
ずっと息をしていなかったような気がする。
ここは・・・どこだ?
真っ暗で何も見えない。
狭くて苦しい空間。
この空間から出る方法を考えないと・・・。
だんだんと目が慣れてきて、見えるようになってきた。
どうやら、俺は棺桶の中にいるようだ。
思い出した!!
俺はあの日刺されて・・・棺桶の中で息を吹き返した!?
まずい!このままじゃ燃やされる!
そうだ!扉を叩いて外に知らせよう!!
「ぬおっ!!」
俺が扉を叩こうと手を伸ばすと、その手は見事に貫通した。
「えぇぇえええええ!!」
とりあえず、手を戻す。
すると棺桶の扉に穴は開いていなかった。
もう一度手を伸ばす。
「えぇぇえええええ!!」
やっぱり貫通した。
これはあれだな・・・俺は幽霊になってるな。
思い切って顔から行って見る。
閉じた目をゆっくりと開けるとそこは想像していた場所ではなかった。
「なにここ・・・」
装飾が施されてはいるものの長い年月でボロボロになった壁。
錆びた金属で出来た燭台に灯る不気味な火に照らされた暗い部屋。
壁を削って作られた棚には古い書物や調度品がこれでもかと置かれていた。
遺跡のような場所だ。
普通であれば、とても恐ろしい場所のように思えるが今の俺にはとても居心地がいい。
だが、現状を確認するためにもここに引きこもっているわけには行かない。
一度外に出て、ここがどこであるかを確認しなくては!
部屋から一本だけ伸びる通路を走る。
若干空中に浮いてる気もするが走っているつもりではいる。
自分の部屋を出て、通路を進むと長い階段があった、
その先がどうやら外のようで、光が見えている。
「よかった・・・外には続いてるみたいだ」
なんだか、とても懐かしいような気がして一気に光の中に飛び込む。
「あふんっ!」
・・・つもりではいたのだが、まず最初に日光に触れたつま先が焼けるように痛かったので、数歩下がって蹲る。
「いってぇ~・・・」
目の端に涙を浮かべながら自分のつま先を見ると、あったはずのつま先がじゅ~という音とともに消え去っていた。
「うそやん・・・」
血の気が引いていく。
もしあのまま飛び込んでいたらと思うと、震えが止まらない。
急いでさっきの部屋に戻る。
「はぁ・・・どうしたら・・・」
これじゃあ、普通の生活なんて出来ない。
・・・いや、諦めるのはまだ早い!!
そうだ、俺は幽霊なんだ・・・時間ならたっぷりあるじゃないか・・・たぶん。
実験に実験を重ねて、何としても普通の生活をしてみせる!!
「そのためにまずは・・・」
ボロボロの本を一冊とる。
つもりだったのだが手はすっと貫通してしまった。
「そうだったぁ・・・これ物とか持てないのか?」
「マイマスター発言をお許しください」
「ぬおっ!!誰っ!?」
俺は突如聞こえた少女の声に顔をブンブンと振って辺りを見渡す。
その振りの大きさがビビリ具合を物語っていた。
「こちらです、マイマスター」
声の聞こえるほうを見ると、そこには一冊の本が浮いていた。
何を馬鹿なことをと思うだろう?
俺も思っている。
だが、その本は確かにパタパタと羽ばたいて浮いていた。
「君が喋ってるの?」
「はい、マイマスター」
「マスター?」
「あなたはこのダンジョンのマスターであらせられます、マイマスター」
ダンジョン?
ダンジョンってあのゲームとかに出てくるやつか?
「えぇと・・・君は?」
「あなたの補佐役を勤めさせていただきます、ミミックをベースとしたコアです」
「ミミックって宝箱の?」
「我々の多くは宝箱を好みますが、ミミックとは本来物に潜む魔物であります・・・よって私のような本のミミックがいることもまた自然なのです、マイマスター」
本は少し不機嫌そうに答えた。
「コアっていうのはなに?」
「ダンジョンの核となるものです、コアが破壊されることは、ダンジョン及びダンジョンマスターの死を意味します」
「つまり君が死ねば・・・俺も死ぬ?」
「はい、マイマスター」
これは不味い。
この本を何としても守らなくては。
「えぇと、君・・・名前は無いの?これからずっと君って呼ぶわけにもいかないしさ」
「問題ありません、マイマスター」
「あったほうが便利だしさ・・・」
「それでは、つけていただけませんか?マイマスター」
「えっと・・・」
名前なんか付けたことがない。
「女の子だよね?」
「はい、メスです、マイマスター」
メスって・・・。
魔物とか言ってたしメスが正しいのか?
でも、人語を操るものがメスって何か変な感じだ。
「じゃあ、ミミとかどうかな?ミミックのミミっていう安易な名前だけど」
我ながら安易すぎるかと苦笑いしてしまう。
「ミミ・・・ミミ・・・私のことはこれからミミとお呼びください、マイマスター」
声は平然を保っているが、明らかにさっきより羽ばたきが速くなっている。
嬉しいのか・・・?
「わかった、ミミ」
「はい、マイマスター」
「えっと俺は物に触れたいんだけどどうすればいい?」
「実態をもたない霊体系アンデッドは、普通物に触れることは出来ません・・・ですが、魔力を使えば別です、マイマスター」
霊体系アンデッド・・・つまり俺も魔物っぽいけどそこはもういいや。
薄々気づいてたし。
「魔力?」
「はい、目を閉じて・・・精神を研ぎ澄まして・・・」
ミミが静かな声で言った。
少ししてまた口を開く。
本だから口は無いけど。
「何が見えますか?燃える火?生い茂る緑?吹き荒ぶ風?」
「何も見えn・・・いや、これは・・・何か黒いものが渦巻いてる?」
最初はあまりにも大きくて気付かなかったが、俺の目の前にあるものは巨大な黒い球体だった。
不思議な感覚だ。
まるで俺が俺自身を眺めているような。
なんとなく心地よくてその黒い球体を眺める。
「それが魔力です・・・そしてマスターの魔力の源はおそらく闇、素晴らしい属性です」
一度目を開く。
「魔力ってつまり魔法が使えるってこと?」
「はい、マイマスター」
「魔法にも属性があるんだよね?俺は闇しか使えないの?」
「いいえ、他の属性の魔法も使えます・・・ですが、一度闇の魔力を違う属性の魔力に変換する作業がいるので、少々難易度が上がります」
「そうなんだ・・・それでどうやって魔法を使うの?」
「その球体に触れてみてください」
もう一度目を瞑る。
また、目の前に巨大な球体が現れる。
それにそっと触れると、まるでスライムに触れているかのように手が沈んでいく。
「触れた状態で行使したい魔法をイメージするのです、対象を掴む手、自らを守る壁、敵を射殺す矢・・・自分の望むものを強く」
手をイメージする。
すると球体から俺の腕へと渦を巻いて魔力が吸い上げられる。
そして、真っ黒い手のひらが4つ生み出され俺の周りをふよふよ浮いている。
その4つの手は俺の意思に従って自由に動く。
「目を開けてください、マイマスター」
「ん・・・」
目を開くと確かにそこに手が4つあった。
「おお!!」
初めての魔法に感動が隠せない。
「魔術学校の生徒でも魔法を行使するのに三ヶ月はかかると言われています・・・あなたは天才です、マイマスター」
ミミが驚いたように言った。
普通に生きていた俺は普通に褒められることはあったが、ここまで褒められたことはなかったのでなんとなく照れくさい。
「ああ、でもミミがいるし本を読む必要がなくなったな」
そもそも文字を読めるかどうかも怪しいのだが。
「せっかく物に触れるようになったんだし」
棚のあれこれを物色する。
本当の手のように感覚が伝わってくる。
「あ、これは!」
俺が手に取ったのは金属の鏡だった。
歴史の教科書に載っているような見た目のまんまだった。
積もった埃を払う。
そして、ゆっくりと俺のもとまで持ってくる。
俺はずっと気になっていたことがあった。
目覚めてからずっとだ。
現実から逃れようとあえて考えないようにしていたが、これからのためにも確認するしかない。
俺の姿が映らないよう倒していた鏡をゆっくりと起こす。
「ぎゃあ!!ミイラ男!!!」
そう、俺は包帯でグルグル巻きにされていたのだ。
手も足も。
そしてその上からボロボロのローブを着ていて、深々とフードを被っていた。
さらに言うならちょっと透けて、奥の壁が見えてる。
「ミイラ男、検索・・・正式名称マミー・・・訂正、マスターはそのような下等なアンデッドではなくレイスです」
「あ、うん」
これはそういうのじゃなくて、と言う気力も残っていない。
俺の顔怖いな・・・顔って言っても赤く光る目しか見えないけど。
というか、なんで光ってるんだ?
謎だな・・・包帯剥がしてみるか?
「・・・やめとこ」
そんな勇気はない。
ダンジョンのマスター?だっけ?
それもよくわかんないし疲れた・・・明日から仕事しよう。
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