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交差世界の無能力者  作者: 湯豆腐
第二章
10/19

10.新章

 俺と氷月は元の世界に帰るため、まず情報収集をするために町か村を探すことにした。


 さしあたっては、この場所が本当に異世界なのか。異世界だった場合、人種、文字、生活していくにあたっての知識を学ぶ必要がある。


 言葉や文字が違うのは痛い。異世界特有の「なぜか日本語が通じる展開」を期待したいところだ。


 落ちた場所は草原だ。周り一帯は草が生い茂っている。これだけ見るととてもじゃないが異世界とは思えない。精々がど田舎県の牧場がいいところだ。


 まだ日は高い位置にあるので、時間的にはそこそこの余裕はあると思うが、宿などの事を考えるとすぐにでも行動に移したほうがよさそうだ。


 とはいえ、半日ほどで人里に着くとは思えないが。


「おいおいここ草しかないぞ。まるで無人島にでも連れてこられた気分だな」


 歩いてたらポケ○ン出るで。いあいぎりでひたすら草刈りしたいところだ。


「そうね。無人島において死活問題となる、食料についてはコンビニで買ったものがここで役に立ってくるわね」


「やっぱり備えあれば憂いなしだったな」


「……」


 相変わらずひどい反応だな。俺のことが嫌いなんじゃないかと思ってしまう。本当に嫌われてたら凹む。


 じっとしていても埒があかないので、俺たちは雲の動きから南側に歩き出した。暖かい地方に人は栄えるだろうという二人の判断だ。


 地球を基準に考えているため、この世界における正しい選択なのかは疑わしいが、今はそうするしかなかった。



「おーい!」


 遠くから人の声が聞こえた。その声を聞いて俺は安堵した。隣の氷月も同じだったようで俺たちはその場で立ち止まった。辺りを見回してみるが、依然と緑が続くだけで人影はなかった。


「今、人の声が聞こえたよな?」


「ええ、はっきりと聞こえたわ」


 二人して幻聴を聞いた、ということはないだろう。確かにあれは太く低い、男の声だった。


 でもどうだろうな。ここは異世界だ。魔法とか能力とかで「直接あなたの心の中に話しかけています」とかやりかねん。


「やっぱ幻聴だな。日が暮れる前にさっさと行こうぜ」


「あっちから誰か来たわよ」


 氷月が差す方向に目を向けると、確かに誰かが動物らしきものに乗って、こちらへ一直線に近付いてきているのが見えた。手を振っているので、こちらも振り返す。


 現段階でぎりぎり動いているのが視認できる距離だぞ。それ以前に俺たちを見つけて、さらには声をかけるって、異世界人どうなってんの? 視力とか発声器官とか進化遂げすぎじゃね。


 人が来るのをその場で待っているのも忍びないので、俺たちも彼の方面に向かった。


「お前らもヘルファンゴ狩りか?」


 出会ってから接近までの時間が長いのなんの。お菓子の袋が空になるぐらいの時間が経過した頃に、ようやく俺たちは手の届く距離になった。


 レッツザファーストコンタクト。


「……狩り? いえ、私たちは道に迷ってしまったのです」


「はっはっは。見れば分かるさそのぐらい。もし、狩猟に行くってんなら、そんな装備で大丈夫かって聞かなくちゃならんしな」


「聞かなくてもいいですよ、そんなこと……」


 どこの世界の住人だよ。

 もしかしてここは異世界じゃなかったりするんじゃないか。一瞬そう思ったが、狩りという言葉と聞き慣れないヘルファンゴという名前からして、やはりここは異世界だ。


 しかし、最も危惧していたコミュニケーションは難なくこなせたな。日本語は万能だな。


 数人で構成された隊の中の一番前の男が動物から降りた。その動物も地球に生活しているものとは種が違う。


 黒みがかった茶色の毛並み。走るのに特化した四本の脚と漆のように真っ黒な蹄。ここだけ見ると馬にずいぶん出で立ちが似ている。


 しかし、頭は馬のような面長ではなかった。哺乳類というよりは爬虫類、それもトカゲ……この場合はドラゴンや竜というより恐竜と言ったほうが適切だろう。おまけに鹿のように枝分かれしたツノまで生えている始末。そんな奇妙な動物だった。


「もしかしてだが、兄ちゃん。失礼を承知で聞くが、こいつを見るのは初めてか?」


 さて、正直に「初めて」と話しても大丈夫なものだろうか。異世界的にポピュラーな乗り物だったら、世間知らずというレベルでは済まされない。


 氷月に目配せするが、何も助言を与えてくれなかった。無言で「余計なことをするからよ。自分でどうにかしなさい」と言っているようだ。


 ファーストコンタクトは成功して、アイコンタクトは失敗かよ。


「まあ、都心部とかだと馬車が一般的だから知らなくても仕方ないな。こいつはドラスって生き物だ。馬より力はないが利口で脚が早いやつでな。狩りのときには重宝するんだ」


 男がドラスと呼ばれた動物の胴体を手で叩くといなないた。


「そんでお前ら、迷子って言ってたな。どっから来たんだ?」


「実は人攫いに遭いました」


 氷月が答えた。


「人攫いだと?」


「はい。移動中に隙を突いて二人で逃げてきました。しかし、元の街からずいぶんと運ばれたせいで帰り方が分からず、今こうして放浪しています」


 彼らは少しどよめいた。

 俺も少しどよめいた。


 男たちはその話を聞いて仲間同士で相談を始めたので、そのあいだに、俺も氷月に話しかけた。


「人攫いって。俺たちそんな設定でいくのか?」


「仕方ないじゃない。それしか思い浮かばなかったのだから。それともあれかしら。自分には私以上の妙案があるということかしら?」


「……すいませんでした。何もないです」


 にしても人攫いかー。どういう風に人と接していけば良いのだろうか。やっぱり不信症気味に行くべきなのかな。人の誘いには乗らないぞ!


「それは大変な目に遭ったな……っと、言い方が悪くてすまんな。こういう場合にどう言葉をかければいいか分からねえんだ」


 風貌がいかにも荒くれって感じだが優しいじゃないか。額の傷や右手の裾の返り血が目立つが、人は見かけによらないものなんだなー。


「食糧とか寝床はあるのか? オレたちもお前らに聞きたいことがあるから、何だったら村に案内しようかと思っているのだが……」


「あの、それではお言葉に甘えて、お願いしてもよろしいですか?」


 そこは暗い過去がある設定なんだから、もう少し警戒心を持つべきじゃあ……。



「そんなにかしこまらなくても大丈夫だぜ嬢ちゃん。兄ちゃんもそれでいいだろ?」


「あ、はい大丈夫です」


 これでこいつらが人攫いだったら泣く。


「んじゃ、決まりだ! 後ろに乗ってくれ」


 馬もどき──ドラスと言ったか。高さは普通の馬と同じぐらいだ。保育園に主張動物園が来て馬に乗ったことがあるが、まさか、この歳でまた動物の背に乗るとは思わなかった。


「後ろに載ってるイノシシみたいな動物がヘルファンゴというやつですか」


 ドラスの後ろには紐で台車が繋がれていた。台車は車輪の上に板が張られた簡素なもので、狩りのたびに使用されているのか、黒ずんだ血がこびり付いていた。その上にイノシシに似た動物が紐で縛られている。

 

「イノシシ? 聞かない名前だな。その通り、こいつがヘルファンゴだ。この季節になるとうじゃうじゃいるんだ。案外美味いんだぜ」


 イノシシと似たようなものだし、味もイノシシに似てるのかな。獣臭いという話は良く聞くが、本当にうまいのか? ぜひ食ってみたいものだ。


 ドラスの背は想像していたものとは違った。動物の背は人が乗るには不向きな形状をしているため鞍などの馬具が必要とされているが、ドラスの背中は丸みを帯びており、また、体毛が柔らかいためか快適だった。


 どんな高級車よりもよっぽど乗り心地が良い気がする。…高級車乗ったことないけど。



「……ちょっと」


「どうした氷月?」


 左には後背部に両手を乗せたまま、一向に乗馬しようとしない氷月がいた。


「……」


「……」


「…………」


 乗れないようだった。


 俺はしたり顔で乗るのを手伝った。普段は鉄面皮をかぶった氷月が、後ろで不服そうな顔をしていた。

 一匹に三人乗るのは狭い。今日の教訓。


「出発するぞ! 舌噛むなよ」


 その声とともに衝撃が走り、ドラスが走り始めた。その速度は徐々に増していき、颯爽と草原を駆け抜ける。


 体感速度は時速80kmほどあった。

 車とは違い、風を直に受けているためそう感じるだけで、実際はもう少し遅いだろう。


 速度よりも、衝撃よりも、カラカラと後ろで回る車輪の音よりも、俺には腹に巻かれた腕の感触のほうが刺激的だ。


 俺が手綱を握る男に掴まっているように、後ろに座る氷月もまた、俺に掴まっているのだ。


ここでアニメや漫画よろしく、背中に何かが当たり、煩悩が溢れ出してしまうのは男の子として極々当たり前の事である。

 

「兄ちゃんら! 何も問題なさそうだから今まで聞かなかったけど、体調とか大丈夫か!」


「おう!」

「……なんとか」


 時折、腹の前で組まれた細い指が動く。そのたびに腹筋に力を入れてたりするのは内緒。思春期あるある。


「村が見えてきたぞ!」


 例のごとく俺には村なんて見えない。ただ、近くにあるのだろうと予感はしていた。というのも、チラホラと木が見えてきたからだ。


 草原を走り始めてから30分ほど経ったが、もしこれが徒歩だったとしたら、夕暮れまでに到着することは叶わなかっただろう。そういう意味では本当に運が良い。


 道中、草を食むヘルファンゴの群れの前を通り過ぎることもあった。結構獰猛な生き物のようで、しばらく追いかけられることがあった。


 そんなときは玉ねぎみたいなものを投げると良いらしい。元の世界と同じく、動物は玉ねぎを食べると中毒を起こすため、有効な手段らしい。


この世界ではなぜかねぎ玉というそうだ。字面だけ見ると、ねぎの塊っぽいが。


「さてと、こっからは降りてくれ」


「どうして?」


「昔、猟師やってた俺の親父が子どもとぶつかる事故があったからな。そこの木に赤い紐が結ばれてるだろ。以来、周辺から人が飛び出てくるかもしれねえから、乗っちゃいけない決まりなったんだ」


「親父」


「ちなみにその子どもってのが俺だ。額の傷はそのとき付いた」


「お前かよ」


 俺たちはドラスから降りてしばらく歩いた。確かに木々の合間から子どもの声が聞こえるような気がした。


「そういえば、草原にいたときに俺たちに何か聞きたいことがあるって言ってたけど、何を聞くつもりなんだ?」


「ああ、そのことか。お前らの、その、人攫いに遭ったって話だ。今、この村は厄介なことに巻き込まれててな。もしかしたら、それに関係してるかもしれねえと思っただけだ」


「厄介なことって?」


「今、説明してもいいんだが……あとあと村長を交えて話すつもりだ。二度手間はめんどいしな」


 参ったな。人攫いで連想できる話なんてまともなはずがない。どうせ嘘の話だ。杞憂で終わってくれることを願おう。


「着いたぞ」


 のどかな村だ。数十の家が建っていて、真ん中だけが大きく拓けて、広場ができていた。その広場には木材が積まれていたり、毛皮が干されていたりと、村らしい雰囲気があった。


 家は平屋住宅だ。日本のように密集しているわけではなく、村の周りを囲うようにポツリポツリと建てられている。そのためか、見晴らしが良く、土地自体は大きくないが、広く感じられた。


 電線の張り巡らされていない世界だ。


「んじゃあ、俺たちはこいつらを小屋に繋ぎに行ってくっから、先に村長の家でも行っておいてくれよ」


「おい、ちょっと待っ…」


「エサとか水とかもやるから時間かかるし、それまで自由に観光でもしていってくれ! じゃ!」


「いや、そうじゃなくて……」


 ──人の話を聞いてくれよ……。村長の家とかどこにあるんだよ……。


「さて氷月くん、ここで問題だ。村長の家はどこにあるでしょうか?」


「それはあなたが作ったquestionではなく、あなたが発生させたproblemでしょう」


「あ、元気になって何よりだ」


 ドラスに乗って数分でぐったりし、ヘルファンゴが出現したあたりで潰れた氷月様は体調が回復したようです。


「ええ、おかげさまで」


 ため息を一つ吐く。

 さてと、観光がてら家探しでもしようか。


かなりの時間が空いての投稿です。色々落ち着いてきたので、ゆっくり投稿していきたいと思います。

今後ともよろしくお願いします。次の投稿は日曜日です。



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