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プロローグ

 昇任試験に合格した日、私が最初に思ったのは、やっと動けると、それだけだった。


 警察に入ってからの五年間、私は何度思っただろう。

 たとえば、声をかけてくる男性住民、必要以上に心配してくる上司。


「女の子一人で大丈夫?」という言葉を、いったい何回聞いただろう。

 大丈夫じゃないのは、警察に入りやりたいことができないことだ。

 そう、私は、悪いやつをこの手で逮捕したいのだ。


 パトカー勤務になれば変わる。そう思っていた。

 昇任し新しい警察署に異動した初日、上司に呼ばれた。

 上司の前には一人の男性警察官がいた。


「飯塚部長。相勤者の深谷理津ふかやりゆだ。新人だが、よろしく頼む」


 上司の前に立っていた男性が正対した。

 長いまつ毛。中性的な顔立ち。目はくりくりしているが、何を見ているかわからない。

 身長も私より若干低く、小動物のようだ。

 見た目は悪くなく、新調されていた制服や装備もあり端正な印象だ。


深谷理津ふかやりゆです。よろしくお願いします」


 深谷は勢いよく右手を上げて敬礼した。

 勢いがありすぎて、持っていた資料が全部床に落ちた。

 私はは一秒だけ天を仰いだ。


「……飯塚真いいづかまことです。室内での敬礼は頭を下げるだけです」


 拾うのを手伝いながら、静かに思った。

 ――やっと動けると思ったのに。

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