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静かな夜

閑話です。

 草木も眠るとは、このような静かな夜の事を言うのだろうか。


 片腕にはまだ温もりが感じられ、耳元では規則正しい穏やかな呼吸が聞こえる。

 その呼吸を感じて、この温もりを与えてくれる人が、いまだ安らかな眠りの中にいることが分かった。


 隣の少女を起こさない様にしてあたりを見回せば、窓からは月明かりが差し込み、窓際にはもう一人の少女の姿。

 ただ、その少女が膝を抱えたまま宙に浮いているという事実が、このごく普通のはずの光景を幻想的なものに塗り替えていた。


 少女の視線は窓の外の夜空へと注がれており、月明かりに照らされた綺麗な横顔からは、その考えをうかがい知ることはできない。

 やがて少女は僕の視線に気が付いたのか、いつしか視線が交差する。

 紅の双眸がこちらを見つめ、まるで時が止まった様に微動だにしない。

 僕はその沈黙を破る様にして、窓際の少女に声を掛けた。


「フレイヤ、眠れないの?」


 少女は無言のまま首を横に振ると、僅かに間をおいて呟いた。


「必要無い……」


「そっか……」


 僕が相づちを打つと再び沈黙が続くが、少女はこちらと視線を合わせたまま逸らす気配は無い。

 そのため、自然とお互いに見つめ合う形になる。


「……」


「……」


 少女の姿はやはり幻想的で、その不思議と浮かぶ身体に触れると、一体どうなってしまうのかといった想像に胸が躍る一方で、はたしてこんなにも儚げな少女に触れてしまっても良いのかといった危うい想像にも駆られる……。

 本当に、いまにも消えてしまいそうなくらい儚げで……僕には昼間の出来事を想像させて、胸の内に少し不安が募った。


「ねぇ、フレイヤ。体の調子はどうかな……」


「……」


 少女は口を噤んだまま頷くと、やはり少し間が空いてからその小さな口を開いた。


「夜明けまでには……」


「それは良くなるって事……?」


 僕が尋ねると、少女はコクリと頷いた。

 少女の頷きに、僕は心の中でほっと胸を撫で下ろした。


「そっか、良かった……」


「……」


 そしてまた、しばらく沈黙が続く。

 おそらく僕の方は、このふわふわと宙に浮かぶ少女をずっと眺めていても、退屈はしないだろう。

 それくらいに幻想的で、不思議な光景で……僕はいつまでもその姿を眺めていたいと思った。

 しかし、それでは少女の方は退屈してしまう事だろうか。

 そう思い、僕は少女に話しかける。


「ねぇ、フレイヤ。影の中って、どんな感じなの?」


 僕が尋ねると少女は首を傾げたので、続けて質問を補足する。


「やっぱり……暗いのかな? あと、音とかって聞こえるのかな……」


 僕がフレイヤに尋ねると、少女はコクリと頷き……そして呟いた。


「何も見えない……真っ暗な暗闇……。でも……音は聴こえる……」


「音って、どんな音……?」


「あなたの心臓の音……」


「あはは、そうなんだ……」


 少女の言葉に気恥ずかしくなって笑ってみせると、彼女は続けて呟いた。


「あとは……あなたの声……。周りの音も……少しだけ聞こえる……」


 そんなに聞こえるのか……。

 聞かれて困る様なことはしていないとは思うのだが、彼女が休んでいる間に騒がしかっただろうか……。

 僕はそう思い、少女に謝る。


「そっか……騒がしかったら、ごめんね」


「……」


 僕があやまると、少女は首を横に振り、やがて小さな声で呟いた。


「あなたの……幸せそうな音が聞こえたから……」


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