応か否か
閑話です。
「ですから、そろそろ我慢が……ですね……」
僕が言い訳を始めると、フランは当たり前の様にその理由を尋ね返して来る。
色々と直接的では無い理由を並べてはみたものの、やはり彼女は納得がいかないらしい。
「我慢ですか……? 何を我慢する必要があるのでしょうか」
「えっと、人には言えない事情といいますか……」
当然、人には言えない事情に僕は言葉を濁す。
すると、彼女は酷く落ち込んだ様な顔をして……。
「そうですか……。やはりご主人様は私の事が嫌いなのですね……」
「これはフランが嫌いとかそういう問題ではなくてですね……」
むしろ逆というか……。
とにかく、あくまでもフランの所為ではない。
「では、どんな事情なのでしょうか……。私では力になれない事なのでしょうか……」
「ううん、そういう訳じゃなくて……」
彼女の誠意ある言葉が僕の胸に突き刺さる。
「でしたら……。私にお手伝いできることがあるのなら、どうぞ仰って下さい」
できるとしても、それは決して頼めない事だから……。
「ですから……ええとですね……」
「では、一体何を我慢する必要があるのでしょうか……」
と、話が何度目かのループをし始めたところで僕は彼女の説得を諦める事にする。
この娘はいくら言っても聞いてくれなそうだ。
では、一体何の話かというと……。
「なぜ部屋を別にするのでしょうか……」
そう……部屋割りの話だ。
この屋敷は広く、部屋も沢山ある。
しかし、その部屋のどれもが、ベッドが無かったり、一つだったりする。
元々そういう作りなのだから仕方が無いのだが、その問題が今更ながら発覚した訳だ。
彼女には色々と言い訳をしながら、お互いの眠る部屋を分けようと提案してみたのだが、とうとう根負けしてしまった。
「えっと……。分かった、僕が悪かったよ。もう夜遅いし、寝よう」
「はい」
僕が諦めた旨を伝えると、彼女に手を引かれてベッドと招かれる。
それは嬉しい。
嬉しいのだが、これがこれからも毎日続くのか……と内心でため息を付く。
僕自身が、朝彼女を抱き締めて起きるのが嬉しいと言った手前、それは否定できないし、本当の事だ。
本当の事ではあるのだが……。
今日も、魔法の練習でもしようか……。




