021 旅立ち
第1章の最終話です。
アルはんのアドバイスもあり、わたし達の旅立ちの日が決まったの。
もう直ぐ旅立つことになる。
ちょっと、ううん、かなり寂しい。
この森に来たのが初夏の始まりだった。
日本の暦でいうと5月初旬ぐらいね。
この大陸にも四季があり1年も12ヶ月になっていた。そして、1ヶ月は全て30日なの。なんて分かりやすいのかしら。
南の大陸は夏が長い。5月はもう夏になる。
今は10月に入ったばかりの頃。そろそろ夏も終わり秋が始まる。
獣人達が一番活発に動くのが、10月から12月までの秋になるらしい。食欲の秋、スポーツの秋ね。
冬は1月2月の2ヶ月間だけ。雪が降るけど積もることはめったにない。ただ、それなりに寒くなるので猫科の種族はほとんど外出しなくなるらしい。
外を飛び回っているのは犬科の種族位とのこと。
『犬は喜び庭かけまわり、猫は炬燵で丸くなる』の歌通りだわ。
「ゼウス、家の水回りなんかは全て任せろと言っていたけど、どうなったのよ」
かなり不安なのよね。私が読んだ異世界物のお話では、その世界の文明を進化させるような事はしてはいけないって言うのがお約束のはずよ。大丈夫なのかしら。
「ん、もう全部終わっているぞ。いつでも旅立てるようになっている」
なんですとー! 聞いてないわよ。
「説明しなさいよ」
「わかった」
ゼウスは見えない手や足が使える。だから空中を杖が浮かびながら進んでいるように見える。
その後をみんなでぞろぞろついていった。
「この家のエネルギーは、全てあのバスの反応炉と同じシステムを使っている」
は、?
「つまり、バイオ相転移反応炉発電だ。IHコンロLEDライトなどは無限に使える。そして、上水道、下水道は『バイオ相転移無限ろ過供給システム』になってる」
はぁー?
「配管は一切必要ない。蛇口をひねる動きでどこでも自由に水が出せるし使った水は分子レベルで分解・浄化されて完全循環する」
まじ!
「ちょっとまったー! 冗談じゃないわよ。どこの超文明世界よ。世界の理はどこ行ったのよ」
そうよ、神様から裁きの雷が落とされるわ。
「何を言っている。おれは第四権限の神だぞ。おれの領域の中ならやりたい放題問題なしだ。第三権限と一緒にしてもらっては困るな」
え、そうなの?
いやいやいや、騙されてはダメよ。
そもそも、その領域ってどこよ。
「ゼウス、領域の中ってどこのことなの」
「ん、この家の中とあのバスの中だけだぞ」
……
ん、問題なし!
「エニシ、お風呂の説明がまだだ」
え、
「聞くわ!」
「日本で言う檜風呂になっている。いい香りがしてリラクゼーション効果が抜群だ」
え、いいじゃない。
「さっきも言ったが、イメージの動き1つでシャワーやナノバブルジャグジーが使える。温度調整は音声制御になっている」
ほう、ゼウスにしては気が利くわね。
「トイレも温水シャワー付き水洗トイだ」
「ゼウス、でかしたわ。この案承認よ」
神様から怒られないんなら、便利な生活を手放すことは愚策よ。全て認めてあげるわ。
「まだあるぞ」
ん、長くなりそうね。
「もういいわ、全て承認よ。使い方は生活しながら聞くことにする」
「ん、いいのか? わかった」
直ぐ引き下がるところはゼウスのいいところなのよね。
アルはんに『バイオ相転移反応炉』のことを教えてもらった。
つまり『相転移』を分かりやすく説明すると、
「水が冷えて『氷』になったり、沸騰して『湯気』になったりするやろ? あれも『相転移』やで。『相』は状態や、それが変わることが相転移ちゅうことやな」
よく分かった。きっと、学校の理科や科学で教わっていたと思う。わたしは学業に専念できない状態だったから、きっと知らなかったのね。
でもね、次の説明でガクッてきたわ。
「相転移反応炉ちゅうのはな、普通の科学では熱や圧力でじわじわ変えるんやけど、この反応炉は第四権限の神力で『枯れ葉やごみを、一瞬でエネルギーという別の状態(相)へくるっと変えちゃう』ことなんや。だから『バイオ相転移反応炉』ちゅう名前なんや」
つまり、食事で出た残飯を反応炉の中に入れればそれが燃料になるって事なの。
これも『エコロジー』と言ってもいいのかしら。
まあ、いいわ。気にしていたら切りがない。
旅に必要なものは『乗り物』と『鞄』だった。
でもね、今はもっと増えたの。
『なかま』と『家』よ。
準備万端! いつでも旅立てる。
* * * * *
森の夜が深まっていく。
いつもなら、アルはんの子守歌のようなお話を聞きながら鞄作りを楽しんでいる時間なの。
でも、今日はちょっと様子が違う。
「エニシはん、あんた、何作ったのか分かってまっか」
できあがった葡萄の蔓で作った鞄。どうやらこれが大問題らしい。
「ええか、あの葡萄の正式な名前は『レガリア・ヴァイン』や。ワインに加工したら『幻の至高酒『レガリア・ヴィンテージ』になるんやで。金貨数千枚出してでも欲しがる貴族はぎょうさんおる」
ゼロが3つ増えるのよね。つまり数億円よ。
「でもな、『鞄』はまだ誰も作ったことがあらへんのや、そしてや、なんやのこのデザインは、見たことも聞いたこともあらへんわ」
う、日本の高級葡萄鞄をもっと改良して最高級の完成度にしました。
「すみません。時間がたっぷりあったので凝りに凝ってしまいました」
「ええか、見る人が見たら腰抜かすで。下手したら戦争になりかねないほどの逸品なんやで」
とほほ、せっかく作ったのに使えないのね。がっくりだわ。
「エニシ、落ち込むことはないぞ」
く、ゼウスね。また表情を読まれた。
「どんな権力者だろが、お前の軍隊は負けない」
は、軍隊ってなによ?
「いいか、今お前が保有している戦力を分析してやろう」
だから、いつわたしが軍隊を作ったのよ。
「哺乳類軍が巨象・巨大熊などの超大型5体、豹やゴリラなのどの大型10頭、狼や猪などの中型20頭、リスや鼠などの小型30匹、これは司令官だ。その配下は数万匹になる。次に爬虫類軍だ。巨竜・大蛇・トカゲなどが同規模存在している。鳥類軍もいるぞ。巨鷹・怪鳥・小型鳥類等が同規模いる。だから制空権確保は問題ない。最後に昆虫軍だがこいつが強烈だ。巨大甲虫・毒蜂・軍隊アリ等が同規模いて配下が数万から数十万に上る。暗殺・諜報部隊として役立つぞ」
長いわよ、それに何を言われているのかさっぱり分からないわ。アルはん助けて!
「エニシはんが葡萄の実を分けてあげた動物や昆虫たち数百万が全てあんさんの命令を聞く軍隊にもなるという事や」
「エニシこれが凄い軍隊なんだぞ。お前が気前よく配った葡萄の実を日本円に換算すると500億円から1000億円に相当する。そしてこの規模は、アメリカ軍隊の『統合軍』レベルになる」
また訳の分からんことを言い出した。
「エニシはんは、この世界では無敵の軍隊を手に入れたっちゅうことやな」
え、そうなの。わたしが望めばこの世界を支配できる力があるって事なの。
「……いやよ、動物たちをそんな事に利用したくない。わたしにはその軍隊は必要ないわ」
そうよ、わたしはゆっくり旅がしたいだけなの。
「エニシはん、この世界の歴史はわてが話したな」
「はい、隕石が衝突して大陸が四つに分断されてしまった。そして、東の大陸は消えてしまい西の大陸は海に沈んでしまったですね」
「そうや、西の大陸は群島になり、北の大陸には文明を発達させた人族がおるんや。さらにや、西の海底には竜人族の国もあるんやで」
「うん、そして、みんな仲がいいとは言えないですよね」
「人族は機械文明が発達して強力な武器をもってはる。竜人族は支配すると言う思考しかできない堅物や、いつ戦争が始まってもおかしくない微妙な情勢なんやで」
そう、この世界も強欲な支配者がいる理不尽なところよ。
「東の大陸は『火の鳥』が探しに行きはったが、戻ってきた様子はあらへんね。ワイバーン達が追いかけていったからねぇ、酷い目にあっていなければいいがねぇ」
「ええか、そこに、情勢をまるっと変えられる力を持ったかわいい少女があらわれたんやで、どうなりますかいな」
ええ、もちろん分かるわ。利用されるか潰されるかのどちらかよ。
「うん、わかった。わたしはかなりあぶない立場ってことなのね」
あ、アルはん真剣な顔になった。あれ、ゼウスもちょと様子が違う。
「エニシはん。全ての大陸への旅に出るかこの南の大陸だけで暮らすかを選びなはれ。ここで暮らすちゅううんならわてが保護してあげるで」
「エニシ、よく考えろ。お前は探求者だ。もし、大陸全土への旅をするなら、この世界を救済するという使命も生まれてくるぞ」
ん、どういうこと?
「エニシはん、三つの救済があるんや。1つ目は竜人族からの迫害を阻止することや。2つ目は沈んでしまった西の世界樹を救い出すこと。3つ目は消えてしまった東の大陸を探すことや」
え、それをわたしがする事になるの。でも、他の大陸に行ったら、そんな力わたしにないわよ。
「エニシ、気がついていないようだからおれが教えてやる。いいか、お前が手に入れた動物軍隊は収納できる」
はへ?
「時間停止機能は生物にも適応される。エニシは軍隊を収納することで食費などの経費が一切かからない無敵の軍隊を使いたいときに自由に取り出せる」
なんですとー!
「まあ、この星の文明に影響が出ないが条件になるが、おれの超科学がおまけでつくんだぞ。どうだ、無敵だろう」
ははは、そうね、無敵のエニシだわ。でもね、
「いやよ!」
はへ?
ふふふ、アルはんとゼウスの呆けた顔初めて見たわ。
「いい、わたしは旅を楽しみたいの。救済なんて言う面倒なこともしたくない。無敵の軍団も使うつもりはない。動物たちはモフモフが使命なの。争いなんかさせないわ」
ほへ?
「それにね、そう言う面倒なことをする人、いえ、できる人は他にいるの。天才君と猫神様よ」
はへほ?
「天才君は天才なの。どんな問題だって完璧に解決してくれるんだから問題なしよ。全部まるっと丸投げよ!」
は、ははは、あははははは、わっはっはっはっは!
「そうかい、そんな人がおるんかいな。そんで、その人はいつあらわれるんや」
「もうすぐよ。神様が言っていた。いずれ会えるだろうって。神様は偽りを言わないの」
「アルヴァニス、エニシの言っていることは真実だ」
「ほうかいな、なら、安心やな。エニシはん、あんさんは旅を楽しみなはれ」
「ええ、もちろんそうさせてもらうわ」
そうねえ、もし、わたしが主人公の物語があるとしたら、タイトルはこうよ!
『面倒事は天才君と猫神様に丸投げして、私はゆっくり旅を楽しもうと思います』
「これがわたしよ。文句ある?」
「ロゼ、フィリちゃん、ついでにゼウス。さあ、旅に出るわよ」
第1章完結
第2章の投稿開始日時は未定です。
詳細が決定したら活動報告でお知らせします。




