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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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76/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 76

いや、バニラだけではない…


 それを、いえば、ヤンも、だ…


 ヤン=リンダも、だ…


 なぜなら、バニラは、リンダに化けて、この場に現れた…


 それは、事前に、リンダ本人の了承が、なければ、やらないはずだ…


 リンダとバニラは、仲がいい…


 が、


 親しき仲にも、礼儀あり…


 いくら、仲が良くても、やっていいことと、悪いことがある…


 いくら、仲が良くても、許せることと、許せないことがある…


 まして、リンダとバニラは、共に、一流…


 一流の女優であり、一流のモデルだ…


 当然、互いに、相手を認めている…


 同時に、互いに、少なからぬライバル心が、あるはずだ…


 だから、自分に了承なく、バニラが、リンダに化けて、この場に現れれば、リンダが、激怒するに違いない…


 なにしろ、リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボル…


 そのプライドの高さといったら、バニラの比では、ないからだ…


 バニラも、有名だが、リンダには、到底、及ばない…


 っていうか、ハッキリいえば、バニラは、リンダのひと昔前の姿だ…


 リンダも、元は、モデル…


 モデルを経て、ハリウッドに進んだ…


 だから、バニラは、リンダを尊敬している…


 自分も、数年後は、同じ道を歩みたいと、思っているに、違いない…


 だから、そんなバニラとリンダの関係を考えれば、今日、この場に、バニラが、リンダに化けて、現れることは、あらかじめ、リンダの了承を得たと、思っていい…


 そして、それは、あのオスマンも同じ…


 同じだ…


 なぜなら、あのオスマンは、ヤンをリンダだと、喝破した…


 ずばり、見破った…


 もし、仮に、オスマンが、リンダ・ヘイワースの熱狂的なファンだと仮定しても、この場にリンダが、男装して、やって来ることを、見破ることは、不可能…


 できないに、決まっている…


 それを、見破ったのは、やはり、事前に、ヤンが、リンダだと、知っていたから…


 そう、考えるのが、自然だし、そう、考えれば、納得する…


 すると、どうだ?


 こう考えてみると、要するに、この騒動が、起きることを知らなかったのは、この矢田トモコだけになる…


 いや、


 知らなかったのは、この矢田トモコだけではない…


 おそらく、園児たちも、なにも、知らなかったに違いない…


 と、すると、どうだ?


 つまりは、なにも、知らないのは、この矢田トモコと、保育園児だけ?…


 つまりは、同列…


 この35歳の矢田トモコと、3歳の園児が、同列…


 同じ扱いと、いうことになる…


 どこの世界に、35歳の女と、3歳の保育園児の扱いが、同じことがある?


 それに、気付いた私は、唖然とすると、同時に、激怒した…

 

 むかっ腹が、立った…


 …おのれ!…


 …許さんゾ!…


 文字通り、怒髪天を衝く、怒りが湧いた…


 まさか?…


 この矢田トモコと、保育園児が同列とは?


 あまりの怒りで、言葉を失った…


 と、


 同時に、気付いた…


 あの列車ごっこだ…


 あのムカデごっこだ…


 この矢田トモコが、仕方なく、3歳の園児たちと、同じレベルで、遊んでやっているにも、かかわらず、それに、気付かないとは?


 まさか、この矢田トモコの中身が、3歳の保育園児たちと、同じと、思うとは?


 つくづく、ひとを見る目がない…


 私は、思った…


 私は、ただ、3歳の保育園児たちと、遊んでやっただけ…


 それだけだ…


 だが、周囲の人間は、そう見なかったのだろう…


 この矢田トモコの頭の中身も、3歳の保育園児たちと、同じと、思ったのだろう…


 はああああ…


 ため息が出た…


 同時に、情けなくなった…


 そんなことも、わからぬとは?


 つくづく、ダメな連中だ…


 あの矢口のお嬢様も所詮、ただの金持ちの娘に過ぎん…


 ただ、東大を出て、頭が、いいに、過ぎん…


 この矢田トモコのように、十も、二十も、さまざまな職場を転々とした経験など、あるまい…


 まあ、その中には、自分から、辞めたものも、あったし、クビになったものも、あった(涙)…


 正直、千差万別…


 いろいろあった(笑)…


 が、


 それをここでは、語るまい…


 それは、いずれ、別の機会で、語ろう…


 ふっふっふっ…


 楽しみにしていろ!…


 まあ、話は、少し外れたが、つまりは、東大を出た、金持ちのお嬢様には、所詮、この矢田トモコの偉大さが、わからないと言いたいのだ…


 そして、それは、リンダとバニラも、同じ…


 同じだ…


 二人とも、苦労はしてきたと言った…


 その言葉に、ウソは、ないだろう…


 が、


 それは、モデルや女優としての苦労…


 芸能人としての苦労だ…


 この矢田トモコのように、一般人としての苦労ではない…


 つまり、苦労は、苦労でも、苦労の質が、違うのだ…


 そして、それは、例えば、一般人と、皇族の苦労の違いと考えれば、わかりやすい…


 皇族に生まれれば、生活の苦労は、ないだろう…


 会社で、リストラはされることは、ないし、受験で、苦労することはない…


 が、


 違う苦労は、するだろう…


 例えば、頭が悪くては、困るから、英語は、必須…


 しゃべれなければ、ならないし、その他、諸々のことを知っていなければ、ならない…


 つまりは、常に、勉強をしなければ、ならないということだ…


 それがたまらなく嫌という皇族もいるだろう…


 一般人に生まれれば、しなくてもいい苦労をすることになる…


 が、


 真逆に生活は、一生、保障される…


 しかし、いかに、生活が、保障されようと、そんな生活は、絶対嫌だという皇族は、いるに違いない…


 ただ、いかに嫌でも、選べない…


 選択の自由は、ないからだ…


 ハッキリ言えば、皇族として、生まれれば、仕方がない…


 それが、答えだ…


 若干、話は、それたが、いつものことだ(笑)…


 つまり、苦労は、しても、苦労には、さまざまな苦労があるということだ…


 リンダや、バニラのした苦労は、この矢田トモコがした苦労とは、違うということだ…


 だから、この矢田トモコのように、世間を見ることができない…


 ひとを見ることができないと言いたいのだ…


 まあ、仕方がない…


 この矢田トモコとは、器が違う…


 もって、生まれた能力が違う…


 リンダもバニラも絶世の美女…


 その美貌を生かして、成功した…


 そして、今、世間から、チヤホヤされている…


 だから、きっと、苦労をしたことを、忘れたのだろう…


 片や、この矢田トモコ…


 クールの社長夫人に、のし上がったが、正直、チヤホヤされたことなど、滅多にない…


 だから、自分でも、全然偉くなったとは、思えない…


 おまけに、平凡なルックス…


 この六頭身で、幼児体型の平凡極まりないルックスのおかげで、これまで、平凡極まりない人生を送って来た…


 だから、世間を見ている…


 世間を知っているといいたいのだ…


 が、


 それを、あの矢口のお嬢様も、リンダもバニラも知らない…


 だから、私だけ、ハブられた…


 私だけ、除け者にされた…


 あのオスマンのガキも、私には、教えんかった…


 今回の企みを、私だけには、教えんかった…


 許せん!


 許せんのだ…


 みんな敵だ…


 この矢田トモコの敵だ…


 そんなことを、思っていると、


 「…矢田…オマエは、幸せだな…」


 と、矢口のお嬢様が、言った…


 そうだ…


 すっかり、目の前に、矢口のお嬢様が、いることを忘れていた…


 「…幸せ? …私が?…」


 「…そうだ…オマエは、愛されてる…みんなに?…」


 …私が、愛されている?…


 …一体、どういう意味だ?…


 「…オマエは、今度の一件で、自分が、ハブられていると思ったかもしれんが、オマエを安全圏に置くためだ…許せ…」


 「…」


 「…オマエが羨ましい…」


 「…私が、羨ましい?…」


 「…愛される人間は、どこでも、誰にでも、愛される…真逆に、嫌われる人間は、どこでも、誰からも、嫌われる…」


 「…」


 「…あのオスマン殿下は、傑物だ…すべてを見切っている…」


 矢口のお嬢様が言った…


 「…傑物?…」


 「…そうだ…殿下は、言いたくは、ないが、あのカラダだ…肉体的には、恵まれてない…ただ、頭脳は、一流…本物の一流だ…」


 「…本物の一流?…」


 「…そうだ…本物の一流というと、じゃ、偽物の一流があるかと、問われるが、大抵は、一流といっても、まがいものだ…たいしたことはない…」


 「…たいしたことはない?…」


 「…そうだ…本物というのは、歴史に残るものだ…例えば、文学だ…大抵は、その時代では、凄いと、絶賛されても、作者が、死んで、50年、100年経てば、忘れ去られる…だが、本物は、いつまでも、残る…時代が、変わっても、忘れ去られない…」


 「…」


 「…殿下も、同じだ…」


 「…同じ…」


 「…そうだ…それほど優れているということだ…ただ、残念ながら、あのカラダゆえ、表に出ることは、できない…」


 「…」


 「…すべからく、神様は、平等だ…肉体が、劣れば、頭脳は、優秀に生まれさせる…それで、バランスをとっている…」


 「…」


 「…矢田…そして、それは、オマエも同じだ…」


 「…私も同じ?…」


 「…そうだ…オマエと、アタシは、見た目は、そっくりだが、アタシは、オマエのように、誰からも、愛されはしない…その代わりに、金持ちの家に、生まれた…」


 「…」


 「…神様は、すべからく、平等だ…」


 矢口のお嬢様が、真顔で、私に言った…


 私は、その言葉を聞きながら、


 …この女…よくも、こんな大嘘を!…


 と、思った…


 …なにが、平等だ!…


 同じカラダを持って、生まれるならば、誰かに愛されるよりも、金持ちの家に生まれたほうが、いいに決まっている…


 金持ちの家に生まれるか?


愛されキャラで生まれるか?


どっちがいいと、問われれば、誰もが、金持ちの家に生まれたいと、答えるだろう…


 が、


 にもかかわらず、それを、東大出のスーパージャパンのご令嬢が、言うと、もっとも、らしく聞こえる…


 そういうことだ…


なにより、この矢口のお嬢様が、一般人の苦労を知るはずがない…

 

 所詮は、金持ちのお嬢様だ…


 お金の面で、苦労した経験など、一度もないだろう…


 ひとは、生きてゆくうえで、さまざまな苦労をするが、それも、大半は、お金の苦労が多い…


 だから、おおげさに、いえば、お金の苦労を一度もしたことが、ない人間を、私は、信用しない…


 誰もが、多かれ少なかれする、お金の苦労をしたことがない人間の言葉は、どこか薄っぺらなものに、聞こえるのだ…


 差別かもしれないが、はっきり言って、私の心に、響かない…


 イギリスのエリザベス女王が、いかに、生活の苦労を言葉にしても、響かないのと、同じだ…


 苦労は、苦労でも、生活の苦労はない…


 お金の苦労はない…


 すると、そういう人間の言葉は、どうしても、薄っぺらく、聞こえる…


 誰もが、するお金の苦労をしたことない人間の苦労話は、眉唾物に聞こえるのだ…


 そして、そんなことを、考えていると、


 「…矢田…オマエにも、いつか、わかる…」


 と、矢口のお嬢様が、言った…


 「…今は、わからんかもしれんが、オマエも、今は、クールの社長夫人だ…つまり、アタシと同じ立場だ…」


 「…同じ立場?…」


 「…そうだ…だから、同じ環境に身を置くことになる…すると、世界が、変わる…」


 「…世界が、変わる?…」


 「…そうだ…いや、オマエから見て、世界が変わるのではなく、周囲の人間が、オマエに対して、これまで、接してきた態度と、違う態度で、接してくる…要するに、オマエは、なにも、変わらないが、周囲の人間の態度が、変わる…」


 「…」


 「…だが、アタシは、オマエには、今まで、通りのオマエで、いて、もらいたい…」


 「…今まで通りの私…」


 「…そうだ…」


 それを言うと、矢口のお嬢様は、私から離れた…


 私は、その私同様の六頭身の幼児体型の背中を見て、実に、不思議な女だと、思った…


 わけのわからない女だと、思った…


なにより、子供ではないのだから、そんなウソを真に受けるバカはいない…


そう思った…


その六頭身の幼児体型の背中を見て、そう思ったのだ…


そして、私は、たった今、矢口のお嬢様が、私にくれたキットカットを食べた…


…うまい…


…実に、うまかった…


やはり、私の好物…


マリアの好物でも、ある…


それを、考えると、すぐにマリアを見た…


マリアが、気になったのだ…


マリアは、今、オスマンと、並んで、立っている…


 そして、マリアを見ると、今日、この場にやって来たときに、乗ったピンクのベンツ…


 それを、思い出した…


 すると、突然、


 アレは、もしかしたら、メッセージ…


 この場にいる誰かに、伝えるメッセージではないかと、気付いた…


 誰もが、注目する、ピンクのベンツ…


 それに、乗ることで、なにかのメッセージを伝える役割かもしれんと、気付いたのだ…


 そして、そのメッセージを伝える相手は、誰か?


 当然ながら、オスマン殿下に、違いなかった…


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