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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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53/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 53

「…雑草の強さ?…」


 葉尊が、私の言葉を繰り返した…


 「…そうさ…そして、それは、リンダも同じさ…」


 「…リンダも?…」


 「…リンダも平凡な家庭の出身さ…だから、オマエの父親の葉敬の支援を受けたんだろ?…」


 「…それは、そうですが…」


 「…だから、考える…」


 「…なにを、考えるんですか?…」


 「…どうすれば、ファラドから、逃げるか? …逃げ切れるか?…」


 「…」


 「…そして、リンダ=ヤンも雑草だから、あらゆる手を使う…そこに、タブーはない…」


 「…」


 「…そうだろ? 葉問?…」


 私は、言った…


 目の前の葉尊の表情が、変わった…


 明らかに、驚いた…


 動揺した…


 「…お姉さん…一体、なにを?…」


 「…隠しても、無駄さ…」


 「…無駄?…」


 「…葉問…オマエが、リンダに、バニラの娘のマリアを利用しろ、と、教えたのか?…」


 私が、聞くと、


 「…」


 と、葉尊、いや、葉問が、黙った…


 「…リンダが、出て行った後、気付いたのさ…リンダは、そこまでは、しない…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…マリアを利用しようという発想は、リンダには、ないさ…」


 「…」


 「…だから、リンダの頭では、考え付かない…だとすれば、誰かが、リンダに知恵をつけたことになる…そして、そんなことが、できるのは、葉問…オマエぐらいさ…」


 「…」


 「…葉問…相変わらず、悪知恵が働くな…」


 私が、言うと、


 「…どうして、今、お姉さんの前にいるのが、葉尊ではなく、葉問だと思うんですか?…」


 と、聞いた…


 「…簡単さ…」


 「…簡単?…」


 「…オマエは、偵察に来たのさ…」


 「…偵察?…」


 「…オマエが、リンダに知恵をつけた事実に、私が、気付いたか、否か、見に来たのさ…」


 「…」


 「…オマエは、リンダに、マリアを利用しろと、知恵を付けた…そして、その事実に、私が、気が付くか、どうか、見に来たわけだ…」


 「…」


 「…葉問…相変わらず、薄汚いというか…やることが、うさん臭いな…」


 「…うさん臭い?…」


 「…そうさ…もっと、正々堂々と勝負したら、どうだ?…」


 「…正々堂々と、ですか? …お姉さん…それで、ファラドに対抗できますか?…」


 「…」


 「…答えられないでしょ? だから、ボクは少しばかり、リンダに知恵をつけてやったんです…なにより、リンダ=ヤンは、葉尊の親友です…葉尊も、リンダに、もう会えなくなれば、哀しむでしょう…」


 「…言うことは、それだけか?…」


 「…どういう意味ですか?…お姉さん?…」


 「…私が、オマエの狙いに気付いてないとでも、思っているのか?…」


 「…狙い? …どんな?…」


 「…オマエの狙いは、ずばり葉敬さ…」


 「…葉敬…」


 「…マリアは、葉敬の娘…それを使うことは、葉敬にプレッシャーを与えることになる…」


 「…プレッシャー?…」


 「…そうさ…葉敬は、マリアを目の中に入れても、痛くないほど、溺愛している…それを、使うんだ…それを知れば、今すぐ、そんなことは、止めろと、葉敬は言うだろう…」


 「…だったら、リンダは、どうなるんですか? ファラドの愛人になっても、いいんですか?…」


 「…そこまでは、言ってないさ…だが、リンダと、マリアのどちらかを取れと、言われれば、間違いなく、葉敬は、マリアを取る…」


 「…」


 「…葉問…オマエは、それが、わかっている…」


 「…」


 「…そして、もう一つは、オマエ自身の延命さ…」


 「…延命?…」


 「…オマエは、以前、会ったときに、私に言ったな…私が、葉尊といることで、葉尊は、本物の葉問を失った心の傷を癒すことができる…それが、私を葉尊の妻に選んだ、葉敬の狙いだと…」


 「…」


 「…そして、葉尊が、過去の傷が癒えたとき、自分が消えると…」


 「…」


 「…そして、あのとき、オマエは、それを甘んじて、受け入れるかのようなことを、言った…だが、それは、ウソさ…」


 「…どうして、ウソなんですか?…」


 「…今回、マリアを使おうとしたことさ…マリアを使うことで、葉敬にプレッシャーを与えることになる…」


 「…それは、お姉さんの深読みのし過ぎです…ボクは、ただ、リンダに知恵を貸しただけです…」


 「…それは、ウソさ…」


 「…ウソじゃ、ありません…」


 「…ウソじゃないとしたら、オマエ自身が、気付いていないだけさ…」


 「…気付いてないだけ?…」


 「…そうさ…誰でも同じさ…例えば、オレが死ぬときは、事前に言ってくれ…オレは死なんか、全然恐れちゃいないと、普段から口癖の男がいて、たまたま友人が医者だった…それで、その男の言葉通り、その友人の医者が、あるとき、その男に、末期がんであることが、わかったから、それを告げたそうだ…そしたら、その男は、どうしたと思う…」


 「…わかりません…」


 「…見ている人間が、ビックリするほど、怯えたそうだ…死にたくない…死にたくないといって、誰が見ても、ウソだとわかる民間の薬を高額で買ったりして、見ていられなかったそうさ…」


 「…お姉さんは、ボクもそれと同じだと?…」


 「…そうさ…オマエは意識していないだけで、死が怖いのさ…だから、マリアを使おうとした…」


 「…」


 「…葉問…オマエもまた、自意識過剰な男さ…」


 「…自意識過剰…ですか?…」


 「…そうさ…オマエは、いつも自信たっぷり…自分の力を過信している…が、本当は、結構、気が小さいんじゃないか?…」


 「…どうして、そう思うんですか?…」


 「…今回、マリアを使おうとしたことさ…オマエが本当に意識していないで、マリアを使おうとしたのならば、それは、きっと、無意識に…オマエが意識しようとしまいと、心の底では、死にたくない…消えたくないと、願っているのさ…」


 「…」


 「…葉問…オマエも所詮、人間だ…そんなに強くはないさ…」


 私は、断言した…


 そして、黙った…


 葉問が、どう反論するか、見たかったからだ…


 葉問は、私の言葉に、しばし、悩んでいた…


 それから、おもむろに、口を開いた…


 「…たしかに、お姉さんの言う通りかもしれません…」


 「…そうか…」


 「…自分では、意識していないだけかもしれません…」


 「…そうか…」


 「…ですが、オスマンが、リンダを救う突破口になる可能性は、高いです…」


 「…」


 「…ボクは、ボクなりに、リンダを助けたいんですよ…お姉さん…」


 「…」


 「…リンダ=ヤンは、葉尊の親友であると同時に、このボク、葉問のかけがえのない友人でもあります…」


 「…」


 「…だから、助けたい…それで、出てきた策が、オスマンでした…」


 「…そうか…」


 「…そして、ファラド…アラブの女神です…」


 「…アラブの女神だと? …それはファラドと結婚した女が、サウジで、アラブの女神と呼ばれるほどの権力を持つという意味だろ?…」


 「…それもあります…」


 「…それもある? じゃ、別の意味もあるのか?…」


 「…お姉さんの言うファラドの過去です…」


 「…過去だと?…」


 「…おそらく、そこに、ヒントがあります…」


 「…ヒントだと? だったら、葉問…オマエは、それがわかるのか?…」


 「…たぶん…あくまで、想像ですが…」


 「…だったら、さっさと言え…いますぐ私に話せ…」


 「…本当だか、どうか、わからない話を、ここでお姉さんに話すわけには、いきませんよ…」


 「…なんだと?…」


 「…それに、話せば、お姉さんは、その話に縛られる…そして、もしそれが、間違っていれば、取り返しのつかない事態にも、なりかねない…」


 「…」


 「…とにかく、オスマンです…お姉さん…オスマンに接触して、下さい…」


 葉問が言った…


 そして、それを最後に、葉問は、消えた…


 葉尊に戻ったのだ…


 本来の私の夫、生真面目な葉尊に、戻ったのだ…


 葉尊に戻った夫に、


 「…葉尊…逃げちゃ、ダメだ…」


 と、告げた…


 「…スイマセン…」


 「…どんなときも、逃げちゃダメさ…」


 「…ハイ…」


 「…と、言いたいところだが、逃げても、いいときも、ある…」


 「…それは、どんなときですか?…」


 「…あらゆる策を考えて、逃げるのが、最善の策だった場合さ…」


 「…」


 「…今のオマエが、そうだろ?…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…葉問に、カラダを譲ることによって、リンダを助けようとした…」


 「…」


 「…オマエでは、リンダを助けることができない…だから、葉問に助けを求めた…違うか?…」


 「…」


 「…いや、答えたくないならば、答えなくてもいい…誰もが、得手不得手がある…」


 「…どういう意味ですか? …お姉さん?…」


 「…戦争でいえば、実際に、銃やミサイルを手に戦うのか、それとも、作戦を考えるかの違いさ…」


 「…」


 「…葉尊…オマエの役割は、正攻法で、表の世界で、成功すること…活躍することだ…」


 「…」

 

 「…真逆に、葉問は、少々、薄汚い工作と言えば、失礼だが、汚れ仕事が合っている…」


 「…汚れ仕事?…」


 「…そうさ…たとえば、スパイのような仕事さ…」


 「…お姉さん…いくらなんでも、それは、言い過ぎじゃ…」


 「…言い過ぎなんかじゃないさ…葉問には、それが合っている…そして、葉尊…オマエは、そんな葉問を利用しているんじゃないか?…」


 「…」


 「…オマエができないことを、葉問にやらせているんじゃないか? …違うか?…」


 「…お姉さん…いくらなんでも、それは…」


 「…まあ、いい…オマエには、オマエの目的があっていい…」


 それ以上、私は、なにも、言わなかった…


 そして、それは、葉尊もまた、同じだった…


 私は、この夜、初めて、葉尊を批判した…


 これまで、一度だって、葉尊を批判したことは、なかった…


 が、


 この夜ばかりは、違った…


 どうしても、自分を抑えることができなかったからだ…


 実を言うと、私は、葉尊という男が、疑問というか…


 信じられなかった…


 心の底から、葉尊を信じることができなかった…


 なぜなら、葉尊は、いつ見ても、人柄が良く、誰の悪口も言わない…


 愚痴もこぼさない…


 ある意味、聖人君子のような人間だ…


 が、


 そんな人間は、これまで、私は、誰一人、会ったことが、なかった…


 35年間、生きてきて、一人も見たことが、なかった…


 他人様の悪口を言えとは、言わない…


 が、


 果たして、そんな聖人君子のような人間が、この世にいるのか、私は甚だ疑問に思う…


 少しばかり、他人の悪口を言い、少しばかり、愚痴をこぼすのが、普通の人間だと思うのだ…


 が、


 それが、葉尊には、一切ない…


 だから、信じられないのだ…


 本心を隠している…


 本心を決して、誰にも、見せない…


 そんなうさん臭さを、感じてしまう…


 それに比べると、葉問の方が、好きだった…


 葉尊に大事にされてはいたが、正直に言って、葉問の好きだった…


 なぜなら、葉問の方が、人間くさく、信用できるからだ…


 葉問は、うさん臭い…


 一癖も二癖もある…


 が、


 それがいい(笑)…


 ある意味、人間臭く、わかりやすい…


 こんな人間、いるいる…あるある…と、誰もが、同意する…


 納得する…


 が、


 葉尊には、そんな人間臭さが一切ない…


 だから、いかに、葉尊に優しくされようと、イマイチ信じられない…


 心の底から、信用することができない…


 だから、今夜、わざと、葉尊に告げた…


 いわば、罠にかけたのだ…


 トラップを仕掛けたのだ…


 が、


 当たり前だが、葉尊は、そんなトラップには、引っかからなかった…


 さすがというか…


 が、


 私の葉尊に対する気持ちは変わらない…


 どうしても、心の底から、信用することができない気持ちは変わらない…


 そういうことだった…


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