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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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51/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 51

「…で、どうするんだ?…」


 私は、言った…


 「…どうするって?…」


 「…パーティーのことさ…ファラドが、来日した以上、クール主催のパーティーをするのだろう…」


 「…それは、そう…」


 ヤン=リンダが、言った…


 「…なにしろ、ファラドの接待は、日本の経団連や政界も絡んでくる…だから、おおげさに、言えば、国家的なプロジェクトになってくる…」


 「…国家的なプロジェクトだと?…」


 「…まあ、国家的なプロジェクトは、大げさだけれども、いずれにしろ、それだけ、おおがかりなものだから、中止はない…」


 「…」


 「…だから、このリンダ・ヘイワースも、当然、ゲストとして、参加する…これも、変わらない…ただ…」


 「…ただ、なんだ?…」


 「…当初は、わからなかった不確定要因も、できた…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…オスマン王子…」


 「…オスマンだと?…それが、どうして、不確定要因なんだ?…」


 「…マリアよ…お姉さん…」


 「…マリア? …それが、どうかしたのか?…」


 「…マリアをパーティーに参加させる…そして、それを事前に、マリアの口から、オスマンに告げれば、どうなるかしら?…」


 「…」


 「…バニラの話では、そのオスマンは、マリアが、好きかもしれないって、お姉さん、言っていたそうね…だったら、そのマリアを使わない手は、ないわ…」


 リンダが、笑った…


 「…もし、お姉さんが、言うように、オスマンがマリアを好きなら、マリアが、クール主催のファラドを歓迎するパーティーを開くといえば、当然、オスマンもパーティーに出席したいと言い出すに決まってるし、ファラドは、立場上、それを断ることもできないでしょ?…」


 リンダが、説明する…


 たしかに、リンダの言う通りだった…


 3歳の子供とはいえ、オスマンの言うことを、ファラドが、断ることは、難しいだろう…


 なにしろ、オスマン殿下と呼んで、敬っているぐらいだからだ…


 だが、待てよ…


 バニラは、それを承知するのだろうか?


 マリアが、パーティーに出席することを、承知するのだろうか?


 「…バニラはそれを承知するのか?…」


 「…お姉さん…この際、バニラは、関係ないわ…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…お姉さんが、マリアに、いっしょに、パーティーに参加しようと提案すれば、済むこと…」


 「…なんだと?…」


 「…バニラは、マリアに逆らえない…マリアの言いなり…」


 リンダが笑った…


 このリンダ・ヘイワースという女…


 ただ者ではない!


 あらためて、思った…


 あれほど、バニラと親しいにも、かかわらず、バニラの娘のマリアを利用する…


 なんという女だ…


 私は、思った…


 ひょっとしたら、この矢田も、このリンダから、どんな目に遭うか、わからん…


 下手をすれば、どんな目に遭わせられるか、わからん…


 これは、距離を置かねば…


 とっさに、思った…


 いかに、美人で、有名人でも、距離を置かねば…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 そんな私の心の内が、表情に出たのだろう…


 「…どうしたの? …お姉さん?…」


 と、リンダ=ヤンが聞いた…


 私は、一瞬、どう言おうか、悩んだが、


 「…オマエも随分冷たいというか…」


 と、口走った…


 「…冷たい? …どうして、冷たいの?…」


 「…だって、そうだろ? …バニラの娘のマリアを利用するなんて…」


 私が、指摘すると、


 「…たかが、パーティーよ…お姉さん…」


 と、笑って、答えた…


 「…たかが、パーティーだと?…」


 「…そう…たかが、パーティー…たかが、パーティーに出席するだけ…なにも、命の危険があるわけじゃない…」


 「…」


 「…それに、バニラ…これは、バニラのためでもある…」


 「…バニラのためだと? …どういう意味だ?…」


 「…私とバニラは似ている…」


 「…」


 「…本来の顔の形も、身長も…ただ、売り方が違うだけ…私は、おとなしめ…バニラは、野性的で、売っているだけ…」


 たしかに、言われてみれば、そうだった…


 リンダとバニラ…この二人は、実は似ている…


 顔の作りが似ているのだ…


 だから、以前、バニラが、リンダに似たメイクをして、リンダになりすましたことがある…


 私は、今、それを、思い出した…


 だが、


 それと、バニラのためといった、リンダの言葉と、どう、関係がある…


 私は、考えた…


 だから、


 「…オマエとバニラが似ているのは、わかる…だけど、どうして、それが、バニラの危険になるんだ?…」


 と、私は、リンダに訊いた…


 すると、


 「…鈍いな…お姉さん…」


 と、目の前のリンダ=ヤンが、笑った…


 「…鈍いだと?…」


 「…そう…鈍い…要するに、ファラドの女の好みよ…」


 「…好み?…」


 「…もし、本当に、リンダ・ヘイワースが好きだとしたら、バニラ・ルインスキーを好きでも、おかしくはない…」


 「…」


 「…だから、リンダ・ヘイワースを手に入れても、次は、バニラ・ルインスキーを手に入れたいと、欲するかもしれない…」


 「…」


 「…欲しいものは、どんなことがあっても手に入れる…そんな、3歳の子供のようなことが、ファラドには、できる…権力があり、財力がある…」


 「…」


 「…だから、怖い…だから、こちらも、手を打たなければ、ならない…卑怯な手と思っても、マリアを使って、ファラドを牽制しなければ、ならない…」


 リンダ=ヤンが、真顔で、言った…


 私は、驚いた…


 正直、そこまで、するのかと、いう思いだった…


 ファラドを牽制するために、3歳のマリアを使い、そのマリアを使って、やはり、3歳のオスマン王子を、盾に使う…


 率直に言って、これは、笑える…


 世界的に有名な、ハリウッドのセックス・シンボルと、モデルが、頼るのは、3歳のオスマン王子…


 ハッキリいって、ただのガキだ…


 そのガキを頼るのだ…


 冷静に考えれば、これほど、笑える事態もない…


 私は、思った…


 思いながらも、これは、ファラドも、同じだと、気付いた…


 ファラドもまた、3歳のオスマン王子を盾に、身を守っている…


 だから、同じだ…


 リンダも、ファラドも、同じだ…


 私は、その事実に、気付いた…


 「…だが、子供を巻き込むのは…」


 やはり、言わざるを得なかった…


 「…甘い…甘いわ…お姉さん…」


 「…甘いだと?…」


 「…これは、戦争…私も、バニラも、身を守るための戦争なの…ファラドという敵から、身を守るための戦争…」


 リンダ=ヤンが、断言した…


 「…戦争に、きれいも汚いもない…ただ、勝てばいいの…そうすれば、相手も諦める…」


 「…」


 「…本当は、誰も、そんなこと、したくない…でも、負ければ、自分の身が危うい…だから、するの…」


 「…」


 「…わかって、お姉さん…」


 リンダ=ヤンが、私に訴えた…


 私は、リンダにそこまで、言われると、なにも、言えんかった…


 リンダの気持ちが、痛いほど、わかるからだ…


 ただ、


 「…美人に生まれるのは、大変だな…」


 と、呟いた…


 口走った…


 私の言葉に、リンダ=ヤンが、目を丸くした…


 「…要するに、そういうことだろ…」


 私は、言った…


 「…たしかに、そうだけど…」


 リンダが、戸惑った…


 「…でも、なんか、お姉さんが言うと、軽いのよね…」


 「…軽いだと?…」


 「…たしかに、お姉さんの言う通りなんだけど、お姉さんが、言うと、どこか、軽くなるというか…」


 目の前のリンダ=ヤンが、笑った…


 「…なんていうか、楽しくなってくる…」


 「…楽しく?…」


 「…今、目の前にファラドの脅威が迫っていて、正直、自分でも、どうしていいか、わからないほど、追い込まれている…でも、そんなときでも、お姉さんが、近くにいると、どこか、安心するというか…」


 「…」


 「…葉敬も、葉尊も、お姉さんを離さないはずだと、あらためて、思う…」

 

 リンダ=ヤンが、笑った…


 「…お姉さんは、どんなときも、お姉さんで、お姉さんを見ていると、安心するというか、ホッとする…」


 「…」


 「…きっと、明日、世界が、終わろうと、お姉さんが、そばにいれば、いつもと同じ日を過ごすことができる…」


 リンダ=ヤンが、断言した…


 そして、その会話がすべてだった…


 結局、その日は、リンダは、後は、たわいもないおしゃべりをして、帰った…


 私は、リンダのおしゃべりに、付き合ったというか…


 わざと、リンダが、たわいもない、おしゃべりをすることで、精神の安定を保っていると、思ったのだ…


 ハッキリ言って、ファラドのことを、考えれば、考えるほど、恐怖なのだろう…


 権力も、財力も持った男が、自分を狙ってくる…


 それに対して、自分は、対抗するすべを持たない…


 ハッキリ言えば、好きでもない男に狙われて、どうこうされるのは、誰でも、嫌だからだ…


 そして、それに対抗するというか、逃げることは、できない…


 だから、恐怖しかないのだろう…


 私は、思った…


 だから、リンダ=ヤンは、どんな手も使う…


 ハッキリ言って、オスマンにどれほどの力があるのか、怪しい…


 なにしろ、3歳の幼児だ…


 3歳のガキだ…


 ホントは、力など、なにもないだろう…


 力があるのは、オスマンの父であり、祖父だろう…


 なにしろ、祖父は、国王だそうだ…


 サウジの絶対的な権力者だそうだ…


 だから、ファラドは、正確には、オスマンの庇護ではなく、オスマンの背後にいる、オスマンの父なり、祖父なりの威光にすがっているのだろう…


 その威光というか、権力というか、権威というか…


 とにかく、それを盾にして、生き残ろうとしているのだろう…


 私は、思った…


 そして、それは、ある意味、リンダとバニラも同じ…


 同じだ…


 すでに巣立ったとは、いえ、当初は、二人とも、バックに葉敬がついていた…


 台湾の大富豪、台北筆頭CEОの葉敬が、後ろ盾だった…


 それゆえ、二人とも、飛躍できた…


 成功できた…


 葉敬が、いなければ、二人とも、成功は、難しかっただろう…


 どうしても、きっかけというか…


 最初は、誰かのサポートが、必要になる…


 飛行機でいえば、離陸するまでというか…


 とりあえず、空を飛ぶまでに、必要になる…


 日本の芸能人でいえば、デビューして、ある程度、世間で、自分が、認知されるまで、誰かに、サポートされる必要がある…


 世間で、ある程度の知名度を得て、それから、さらに飛躍して、スターやアイドルになれるか、それとも、空を飛んだのは、ほんの一瞬で、すぐに地上に落ちるように、落下するか…


 それは、わからない…


 ただ、繰り返すが、デビューしたり、それから、世間で、知名度を得ることも、できななければ、その後の成功はないからだ…


 つまり、葉敬は、リンダとバニラの後援者…


 そして、その葉敬は、台湾の実力者…


 が、


 とてもではないが、ファラドには、対抗できない…


 つまり、リンダやバニラでは、どうあがいても、ファラドに対抗できない…


 だから、リンダは、オスマンに目を付けたのだ…


 わずか3歳のガキに目をつけたのだ…


 卑怯というか…


 常識では考えられないが、私が、リンダの立場ならば、リンダが、卑怯とは、言えなかった…


 リンダを非難することは、できなかった…


 自分の身を守るためには、仕方がないことだと、思った…


 そして、思った…


 あのファラドという男は、どこまで、本気なのかということだ…


 リンダ・ヘイワースを手に入れたいという噂が、どこまで、本当で、どこまで、フェイクなのか、わからない…


 わからないから、不安なのだ…


 ファラドの本当の目的が、わからないから、不安なのだ…


 私は、思った…


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