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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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35/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 35

私が、そんなことを、考えていると、目の前の渡辺という受付の女の子が、


 「…ハイ…こちら、一階のロビーの受付の渡辺です…」


 と、社内電話で、おそらく、社長室に電話をしていた…


 「…ハイ…社長の奥様と、リンダ・ヘイワースさんが、到着しました…これから、社長室へ、伺ってよろしいでしょうか?…」


 「…」


 「…ハイ…わかりました…」


 と、言って、渡辺が電話を切った…


 それから、私とリンダに向かって、満面の笑みを浮かべた…


 「…奥様…それに、リンダさん…OKだ、そうです…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 そう言って、思わず、リンダと顔を見合わせた…


 が、


 背の低い私は、リンダの顔ではなく、胸に視線がいってしまった…


 リンダは、当然、高いヒールを履いているので、本来の175㎝から、優に、10㎝以上、背が高い…


 真逆に、私、矢田トモコは、普段から、履きなれたスニーカー…


 だから、本来の159㎝に数㎝プラスされたに過ぎない…


 だから、目の前にリンダの顔ではなく、胸が迫った…


 圧倒的な色気を持つ、リンダ・ヘイワースの胸に、視線がいってしまった…


 すると、女の私でも、なんだか、恥ずかしくなった…


 おおげさに言えば、公の場で、女の胸に目がいっているのだ…


 いくら、女の私でも、公然と、リンダ・ヘイワースの胸を見ることに、テレというか、恥ずかしくなってしまったのだ…


 それに、気付いたのだろう…


 「…お姉さん…どうしたの?…」


 と、リンダが、不思議そうに、聞いた…


 「…リンダ…オマエ、その胸をなんとしろ…」


 と、私は、躊躇いながら、言った…


 「…なんとしろって?…」


 「…目の前に、そんな大きなおっぱいがあってみろ…女の私でも恥ずかしくなるさ…」


 私が、おそらく顔を真っ赤にして言うと、リンダが、一瞬、当惑した様子だった…


 それから、いきなり、


 「…カワイイ…」


 と、言って、私を抱き締めた…


 「…お姉さんって、ホント、カワイイ…」


 と、嬉しそうに、私を羽交い絞めにした…


 小柄な私は、大柄なリンダに抱き締められて、息もできんかった…


 「…バカ…リンダ…止めろ…苦しい…」


 私は、息も絶え絶えに、怒鳴った…


 すると、リンダは、ここが、クールの本社ビルの一階のロビーであることを思い出して、すぐに、私から、離れた…


 私は、ホッとした…


 まるで、大柄な女子プロレスラーに、羽交い絞めされた気分だった…


 「…リンダ…オマエ、私を殺す気か?…」


 私が、息をゼーゼーしながら、言うと、


 「…スイマセン…」


 と、リンダが、しおらしく謝った…


 「…オマエのカラダの大きさを考えろ…」


 私が、言うと、ふと誰かの視線を感じた…


 私は、誰の視線か、視線の主を見ると、受付の渡辺だった…


 私とリンダのやりとりを、目の前で見て、目を白黒させて、驚いていた…


 私は、まずいところを見られたと思った…


 だから、すぐに、


 「…いいか…今の光景は忘れろ…見なかったことにするんだ!…」


 と、言おうとした…


 が、


 その前に、渡辺が、


 「…凄い!…」


 と、大声を出した…


 「…あのリンダ・ヘイワースと、そんなことができるなんて…どれほど、親密なんですか?…」


 と、驚嘆した…


 「…世界中の男が憧れる、セックス・シンボルですよ…そんな女性と、そんなことができるなんて!…」


 私は、驚いた…


 私は、このリンダに殺される寸前だったのに、それを、こんなふうに取られるなんて…


 「…さすが、奥様…クールの社長夫人です…スケールが違います…そんな有名人とそんな関係なんて…」


 渡辺の私に対する賞賛は、止まらなかった…


 私は、唖然として、言葉もなかった…


 ハッキリ言えば、この渡辺の前で、リンダとプロレスごっこをしたようなものだ…


 それが、この渡辺には、物凄いことだと、思ったのかもしれん…


 私は、そう、気付いた…


 すると、リンダが、


 「…今、見たことは、忘れて…」


 と、突然、言った…


 私は、なぜ、リンダが、そんなふうに、言うのか、疑問だった…


 言われた渡辺も、どう返答していいか、わからない様子だった…


 「…いえ、忘れなくていい…」


 リンダが、いきなり、前言撤回した…


 渡辺が、キョトンとした表情に、なった…


 「…ただ、他言無用…誰にも、言わないで…言えば、私の…リンダ・ヘイワースのイメージが崩れる…」


 そう言って、リンダが、渡辺に笑いかけた…


 リンダ・ヘイワースが、まるで、男に迫るように、渡辺に笑いかけた…


 圧倒的に、魅力のある笑いだった…


 どんな男も、その笑いの前では、理性をなくすというか…


 リンダのいいなりになるしかない笑いだった…


 そして、それは、女も例外ではなかった…


 女の渡辺も、例外ではなかった…


 「…わかりました…」


 すぐに、渡辺が、答えた…


 「…誰にも、言いません…」


 「…そう、ありがとう…」


 リンダが、満面の笑みで、答える。


 「…渡辺さん…アナタを信じている…」


 リンダが、ジッと、渡辺を見て、言った…


 途端に、渡辺の顔が、紅潮した…


 真っ赤になった…


 無理もない…


 世界中に知られた有名人…リンダ・ヘイワースに言われたのだ…


 まるで、渡辺は、小さな子供のように、感激していた…


 私は、その一部始終を、隣で見ていた…


 …リンダ・ヘイワース、恐るべし!…


 …恐るべし!…


 と、いう言葉が、私の脳裏に浮かんだ…


 この頭脳明晰な、矢田トモコの脳裏に浮かんだ…


 このリンダ・ヘイワースは、誰よりも、自分の力がわかっている…


 自分の知名度の高さが、わかっている…


 だから、それを最大限、利用している…


 そういうことだ…


 リンダほどの有名人が、


 「…言わないで…」


 と、懇願すれば、大抵の人間は、従う…


 それが、わかっているから、わざと、そういうのだ…


 そう、考えれば、やはり、強敵…


 強敵に違いなかった…


 もしかしたら、この矢田トモコから、葉尊の妻の座を奪うかもしれん、強敵に違いなかった…


 私は、今さらながら、そのことを、肝に銘じた…


 もう何度目だか、わからないほど、肝に銘じたのだ…



 私とリンダは、渡辺から離れて、このクールの本社ビルの最上階にある、社長室に向かった…


 私は、一階のエレベータに向かいながら、


 「…リンダ…凄いな…オマエは…」


 と、つい声をかけた…


 声をかけずには、いられなかったのだ…


 「…凄い? …なにが、凄いの?…」


 「…あの渡辺という受付の女の子さ…」


 「…あの子が、どうしたの?…」


 「…わざと、あの子に、話すなと、念を押しただろ?…」


 「…わざと?…」


 「…そう、わざとだ? …あんなふうに言われれば、ひとは、周囲に話すか、話さないかのどっちかだ…それを狙っただろ?…」


 私が指摘すると、驚いた表情で、マジマジと、私の顔を見た…


 「…なにを言うかと、思えば、相変わらず、鋭い…」


 リンダが、ため息をついた…


 「…普段は、ボーッとしているかと、思えば、ときどき、こちらが、ドキッとする鋭いことを言う…どっちが、本当のお姉さんか、知りたくなる…」


 …それは、オマエも同じさ…


 私は、心の中で、毒づいた…


 リンダ・ヘイワース、オマエもいっしょさ…


 性同一障害と、告白しながら、一方で、そのおっぱいやパンツが見えそうな、煽情的な服で、男を誘う…


 誰もが、そんな姿を見れば、性同一障害などと、思わない…


 が、


 一方で、与えられものは、最大限利用する…


 つまりは、天から与えられた、その美貌を最大限、利用するということだ…


 私は、思った…


 つまりは、性同一障害かもしれないが、そんなことは、関係ない…


 心が男であれ、カラダが絶世の美女のカラダならば、最大限そのカラダを利用するということだ…


 そんな女を目の当たりにして、油断できるはずがない…


 私は、考えた…


 下手をすれば、私は、このリンダ・ヘイワースに、身ぐるみ剝がされて、ホームレスの道を真っ逆さまに歩むかもしれん(涙)…


 そんなことが、わからないほど、私は、バカではないし、お人よしでもない…


 リンダは、悪い人間ではない…


 それを言えば、バニラも同じだが、成功した人間で、悪い人間はいない…


 これは、なぜかと、問われれば、成功した人間は、皆、他人を味方にすることができるからだ…


 嫌われる人間は、どこにいっても、嫌われる…


 学校や職場など、人が集まる場所で、いつも、自己主張を繰り返して、嫌われるものだ…


 常に、自分を主張して、うまく他人と、人間関係を構築することが、できない…


 また、他人が、自分をどう見るかの視点も欠けている…


 ありていに言えば、アイツは、性格が悪いからと、誰もが避ける人間と、積極的に付き合う…


 つまりは、自分も性格が悪いと周囲に吹聴しているようなものだ(爆笑)…


 そういうことだ…


 類は友を呼ぶと、陰口を叩かれることが、まったくわからない…


 理解できない…


 そういうことだ…


 リンダもバニラも、断じて、そういう人間ではない…


 なにより、他人に好かれなければ、なにもできないことを悟っている…


 理解している…


 モデルも映画女優も、一人でできる仕事ではない…


 誰かに支えられたり、誰かと協力して、出来上がっている…


 だから、性格が悪い人間は嫌われるし、いずれは、その世界から、去る…


 そういうことだ…


 が、


 リンダもバニラも性格が、メチャクチャいいかと言えば、それも違う…


 どんな世界も、競争はある…


 まして、映画やモデルは、競争がし烈だろう…


 自分が、自ら、他人を追い落とすことはなくても、競争から、落ちた人間に、可哀そうだと思う気持ちがあり過ぎれば、その世界にいられない…


 極端な話、一本道で、前から、ひとが来て、自分が、譲るようでは、成功しない…


 そういうことだ…


 だから、どんなことがあっても、自分から、道を譲っては、ならない…


 神様ではないが、常に、相手を優遇して、他人を優先すれば、成功は掴めない…


 だから、それを思えば、リンダもバニラも善人ではない…


 かといって、悪人でもない…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 そう思いながら、リンダを見た…


 リンダ・ヘイワースを見た…


 そして、おっぱいと、パンツを、わざと強調するリンダのワンピース姿を、見ながら、リンダのこんな姿を見るのは、いつ以来かと、思った…


 そんな私の視線に、気付いたリンダが、


 「…なにを見ているの?…」


 と、聞いた…


 私は、ホントのことを言おうと、思ったが、止めた…


 真逆に、


 「…いや、私が、男なら、こんな、色っぽい奥さんが、身近にいては、堪らんと、思ってな…」


 と、言った…


 わざと、自分が、考えていたことと、別のことを言ったのだ…


 私の言葉に、リンダは、顔を赤らめて、


 「…ありがとう…」


 と、小さく言った…


 「…お姉さんに、そんなことを言われて、凄く嬉しい…」


 と、上気した顔で、リンダが、言った…


 「…でも、きっと、それは、最初だけ…」


 「…最初だけ? どうしてだ?…」


 「…クルマも女も、自分のモノにしてしまえば、すぐに飽きる…男は、皆、同じ…」


 「…同じ?…」


 「…いえ、女も同じ…でも、お姉さんは、違う…」


 「…違う? …なにが、違うんだ?…」


 「…あったかい…」


 「…あったかい? …私が?…」


 「…そう…お姉さんが、近くにいると、いつも、癒される…人生が楽しくなる…」


 「…」


 「…クルマも女も同じ…」


 「…なにが、同じなんだ?…」


 「…古くなって、歳を取れば、価値がなくなる…」


 「…」


 「…でも、お姉さんは違う…」


 「…なにが、違うんだ?…」


 「…お姉さんのキャラ…誰からも、愛される…それは、年齢とは無縁…関係ない…だから、私もバニラも、お姉さんに憧れる反面、嫉妬する…」


 「…嫉妬? …私に…か? オマエやバニラのような世界的な有名人が?…」


 「…たぶん、バニラは、気付いていない…」


 「…なんに、気付いていないんだ?…」


 「…自分の感情に…」


 「…」


 「…バニラが、いつもお姉さんにイジワルをするのは、それが原因…私やバニラは、歳を取れば、生き残れない…私やバニラの美しさは、若いときだけ…でも、お姉さんは違う…一生、その誰からも愛されるキャラでいられる…それが、羨ましいの…」


 私は、リンダの指摘に、驚いた…


 そんなことを、考えてもみんかったからだ…


 が、


 私は、すぐに、


 「…ないものねだりだな…」


 と、告げた…


 「…ないものねだり?…」


 「…そうさ…自分にないものを、誰かが持っているから、無意識に憧れる…そういうものさ…」


 「…」


 「…私だって、オマエやバニラのように、美人に生まれたかったさ…でも、それは無理さ…だから、そんなこと、考えても仕方がないさ…それと、同じさ…」


 「…」


 「…誰もが、与えられた能力の中で、生きてゆかなきゃならんものさ…オマエやバニラは、美人という武器がある…それを生かして、成功したわけだ…私が、もし、今、オマエが言うように、他人様を癒す力があるとすれば、それは、きっと、神様のご配慮さ…」


 「…神様のご配慮?…」


 「…オマエやバニラのように、美人に生まれなかった代わりに、他人様を癒す力を、神様が与えてくれたんだろう…」


 私は、言った…


 実に、しんみりと言った…


 言いながら、内心、実は、なんてうまいことを言ったと、思った…


 自分でも、自分を褒めたいぐらいだった…


 それに気付いた私は、リンダが、どういう反応を示したのか、見たくて、振り返った…


 すると、リンダが、ビックリした表情で、立ち止まっていた…


 思わず、


 「…どうした? …リンダ?…」


 と、聞いてしまった…


 それが、まずかった…


 リンダが、いきなり、私を抱き締めたのだ…


 「…お姉さんは凄い…やっぱり凄い…」


 と、言って、またも、私を、抱き締めて、羽交い絞めにした…


 「…自分がわかっている…それも、神様が、自分に能力を与えてくれたなんて、控えめに言って…なんて、謙虚なの…」


 …け…謙虚?…


 いまだかつて、他人様に、そんなことを、言われたことは、なかった…


 この矢田トモコが、謙虚?


 たしかに、私は、他人様を押しのけて、前に出る性格ではない…


 だが、謙虚というのは、言い過ぎというか…


 ちょっと、違うと思う(笑)…


 一言で言えば、ほめ過ぎ…


 ほめ過ぎだ(笑)…


 それとも、


 ほめ殺し?


 わざと、私を褒めて、油断させるつもりなのか?


 私を油断させ、私を葉尊の妻の座から、引きずり降ろす魂胆なのか、考えた…


 ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースが、日本の総合電機メーカー、クールの社長夫人になる…


 クールにとって、これ以上の宣伝はない…


 なにより、長身で、イケメンの葉尊とリンダは、お似合いのカップル…


 まさに、美男美女…


 絵になるカップルだ…


 が、


 それを、許すことはできん…


 できんのだ…


 私は、リンダに羽交い絞めにされながら、リンダを敵認定した…


 一方、リンダは、私を抱き締めながら、


 「…お姉さんが好き…」


 と、あたりをはばからず、号泣していた…


 お互いの考えることが、まったく違った…


 まったく違ったのだ(爆笑)…


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