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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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25/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 25

リンダ=ヤンが怒っていた…


 その青い目が、怒りに、満ちていた…


 リンダは、今、男装して、ヤンの格好をしている…


 しかしながら、美しかった…


 一瞬、見ただけでは、わざと、ぼさぼさの髪をして、ヨレヨレの服を着て、美しさとは、無縁の格好だが、本当は、絶世の美女…


 美しくないわけは、なかった…


 リンダは、普段は、ヤンの格好をしている…


 男装している…


 それは、リンダの格好をすると、世間に騒がれるから…


 リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボル…


 その大きな胸と、パンツの見えそうな、カラダを強調する服を着ると、女の私でも、ドキッとする…


 大げさにいえば、色気の塊…


 セックスが、歩いているようだ(笑)…


 自分でも、それが、わかっているから、普段は、いつも、男の格好をしている…


 わざと薄汚い男の格好をして、本来の自分の姿をごまかしている…


 色気を封印している…


 リンダでいることは、ストレスの塊…


 常に、ひとに見られるのは、苦痛以外の何物でもないからだ…


 そして、その隣には、バニラがいる…


 バカ、バニラがいる(笑)…


 バニラは、バカだが、やはり、美しい…


 リンダに匹敵する美人…


 そして、この矢田トモコだ…


 冷静に考えると、なぜ、この平凡な矢田トモコが、ここにいるのか、不思議だった(笑)…

 

 ここは、モデルの控室でも、女優の控室でも、なんでもない…


 にもかかわらず、私がいる(爆笑)…


 絶世の美女二人に、この矢田トモコ…


 この組み合わせは、妙だ…


 不思議だ…


 それとも?…


 それとも、神様は、もしかして、このリンダとバニラを、配下にして、私にプロダクションの運営をしろ、とでも、囁いているのかもしれん…


 ふと、気付いた…


 この二人が、所属するプロダクションの社長になる…


 すると、文字通り左うちわで、暮らせる…


 私の一生は、安心…


 文字通り、安心だ…


 その金を元手に、ホストクラブにでもいって、イケメンを物色するか?


 その程度のことをしても、ばちは当たるまい…


 私は、なぜか、そんなことを考えた…


 すると、自然に、顔がにやけてきた…


 実は、この矢田トモコは、お金好き…


 お金持ちが好きだし、ずばり、お金が好き…


 だが、これまでは、この矢田とお金は、相性が悪かった…


 なぜか、この矢田の手元から、お金が羽を生えたように、飛んでいってしまったのだ(涙)…


 この矢田の元から、逃げ出したといっていい(涙)…


 葉尊と結婚して、お金には、不自由しなくなったが、実をいうと、あまり実感がない…


 この超がつく、豪華マンションに、葉尊といっしょに住んでも、生活は、質素だったからだ…


 真面目な葉尊は、生活は、堅実だったし、それは、私も同じだった…


 贅沢には、憧れるが、それはあくまで、憧れるだけ…


 実生活は、堅実そのものだったからだ…


 だから、お金を使う生活に憧れる反面、お金を使う生活が、本来の質素を旨とする、私の心情と異なる…


 矛盾する…


 なんとも、いえん事態だった(涙)…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…お姉さん…なにを、ニヤニヤしているの?…」


 と、今度は、リンダ=ヤンが、顔を寄せてきた…


 私は、とっさに、


 「…なんでもない…なんでもないさ…」


 と、答えた…


 いつもの返答だった…


 すると、マリアが、


 「…矢田ちゃんって、いつも、突然、自分の世界に入っちゃうんだよね…」


 と、笑った…


 …なんだと?…


 …自分の世界だと?…


 私は、今度は、マリアを見た…


 目の前の、リンダ=ヤンではなく、小娘のマリアを見たのだ…


 すると、プッと、目の前のリンダ=ヤンが、吹き出した…


 「…本当、子供は、純真で、なんでも、見抜く…」


 ヤンが、笑った…


 「…きっと、このお姉さん、なにか、よからぬことを、考えていたのよ…」


 …なんだと?…


 私は、心の中で、思ったが、あえて、口に出さなかった…


 なぜなら、その通りだったからだ(笑)…


 「…どうせ、お金儲けか、なにかでしょ?

 このお姉さんは、できもしないくせに、お金儲けの妄想が好きだから…」


 バニラが、口を挟んだ…


 さんざんな言われようだった…


 だが、


 私は、耐えた…


 自分でも、珍しく、耐えた…


 なぜだかは、わからない…


 ただ、反論する気が失せただけだ…


 「…それとも、この写真の偽物が着た、リンダと、同じ真っ赤なドレスをオークションにでも、リンダのサイン入りで出す? きっと、物凄い高値がつくわよ…」


 バニラが提案した…


 「…なんだと?…」


 私は、つい声に出した…


 不覚にも、声に出してしまった…


 実に魅力的な提案だったからだ…


 「…どうする、お姉さん?…」


 バニラが、聞いた…


 私は、


 「…バカにするな!…」


 と、怒った…


 「…リンダは、私のかけがえのない友人さ…その友人のドレスを売って、金を得ようなんて、これっぽっちも思っちゃいないさ…」


 私は、断言した…


 心の中で、思っていることと、真逆のことを言ったのだ…


 自分でも、意外だった…


 まさに、想定外だった…


 すると、


 「…矢田ちゃんは、違うよ、ママ…」


 と、マリアが言った…


 「…矢田ちゃんは、そんなひとじゃない…」


 マリアが力を込めて言った…


 …なんだと?…


 私は、驚いた…


 このマリアが、私を信頼している?


 いかん…


 これは、いかん…


 いかに、このバニラが嫌いでも、娘のマリアを裏切ることはできん…


 チッ!


 と、私は、心の中で、舌打ちをした…


 リンダの赤いドレスをネットで、売るという、絶好のアイデアを得たのに、実現できんかった(涙)…


 だが、いつか、リンダの真っ赤なドレスを、このマリアの気付かないところで、売ってやるさ…


 私を、それを、固く心に誓った…


 誓ったのだ…


 すると、そんな私の心の中を見抜くように、


 「…お姉さんは、そんなひとじゃないわ…」


 と、当のリンダ自身が、言った…


 薄笑いを浮かべながら、言ったのだ…


 「…そうでしょ? …お姉さん?…」


 と、リンダ=ヤンが、私を脅すように、言った…


 …お姉さんの心の中なんて、簡単にわかる…


 とでも、言うようだった…


 だから、私は、


 「…当然さ…そんな親友を売るような真似は、するはずがないさ…」


 と、力を込めた…


 力を込めながら、これで、リンダの真っ赤なドレスをオークションに出して、大金を得る機会が、永久に失われたことに、ショックを受けた…


 ずばり、立ち直れなかった(涙)…


 思えば、矢田トモコ、一生の不覚…


 不覚だった(涙)…


 思わず、目から、涙がこぼれ落ちる寸前だった…


 私の細い目から、涙が、こぼれ落ちる寸前だった…


 すると、リンダ=ヤンが、私の顔に近付き、耳元で囁いた…


 「…今度、お姉さんに、私のパンティをあげるわ…そのパンティにリンダ・ヘイワースのサインをつければ、きっとドレス以上の高値がつく…」


 「…そうか…」


 私は、突然、気分が良くなった…


 天国から、まっさかさまに地獄に落ちた気分だったが、再び、天国に舞い戻った気分だった…


 が、


 少し考えて、それは、できないと思った…


 なぜなら、本物のリンダのパンティをオークションに出品して、誰が、本物と思うのだ?…


 いかに、リンダのサイン付きだとしても、だ…


 本物のリンダ・ヘイワースが、実際に、パンティを出品するにあたり、これは、私の使用した下着ですとでもいえば、本物だと、誰もが、思うが、当たり前だが、世界中に知られたハリウッドのセックス・シンボルが、そんなことをするはずがない…


 つまりは、冗談…


 この矢田トモコをからかったのだ…


 それに気付いた私は、烈火のごとく、怒った…


 態度には、出さなかったが、このリンダ・ヘイワース…


 バカ、バニラ共々、ただではおかん…


 私は、固く心に誓った…


 誓ったのだ…


 それから、ふと、私の目に、モニターに映った、偽者のリンダと映ったファラド王子が、入った…


 …アラブの女神か?…


 私は、考えた…


 ことによると、このアラブの女神と、この矢田トモコが連携してもいいかもしれん…


 ふと、気付いた…


 このリンダとバニラが、この矢田トモコを舐め切っている…


 私は、それが、許せん…


 許せんかったのだ…


 このリンダとバニラを地獄に落とすためなら、この矢田トモコも鬼となろう…


 阿修羅となろう…


 そのためには、なんでも、あり…


 アラブの女神と連携することも、ありなのだ…


 私は、固く心に誓った…


 誓ったのだ…


 「…ファラド王子か…」


 思わず、呟いた…


 たしかに、イケメンだ…


 いい男だ…


 私は、思った…


 背が高く、浅黒い肌を持つ、正統派のイケメン…


 まさに、この矢田トモコの相手にふさわしい…


 恋の相手に、ふさわしい…


 私は、思った…


 一晩だけのアバンチュールの相手にふさわしい…


 27インチのモニターに映った、その精悍な顔を見て、思った…


 その精悍な顔を見て、考えた…


 すると、リンダ=ヤンが、


 「…このファラド王子…サウジの革命児と、言われているのよ…」


 と、呟いた…


 私やバニラに言うのではなく、誰にともなく、呟いたのだ…


 「…革命児だと? どういう意味だ?…」


 私は、リンダに、聞いた…


 「…いわゆる、国の方針を変えようとしているの?…」


 「…国の方針だと?…」


 「…アラブ諸国は、いずれ、どの国も、石油が、枯渇する…なくなる…だから、その石油が枯渇する前に、新たに産業を興したりして、国を変えようとしているの…日本で、いえば、明治維新のようなものね…」


 「…」


 「…だから、当然、敵が多い…」


 「…敵?…」


 「…そう、政敵…今は、いいけど、失脚したら、間違いなく、命はないでしょう…」


 …なんと!…


 …命がないとは!…


 この矢田トモコ、35歳…


 これまで、35年生きてきて、命がないなどという物騒な言葉を現実に、聞いたことが、なかった…


 なかったのだ…


 テレビや映画では、当然ある…


 だが、それは、フィクションの世界…


 作り物の世界だ…


 現実の世界で、そんな恐ろしいセリフは、聞いたことがなかった…


 私が、驚いていると、


 「…オチビちゃん…現実は、甘くないのよ…」


 と、今度は、バニラが言った…


 バカ、バニラが言った…


 まさか、こんな、バカから、説教されるとは、思わんかった…


 「…世界中で、日本ぐらいのものよ…命を取られないのわ…」


 バニラがしたり顔で、言う…


 「…なにかをなそうとすれば、敵を作る…その敵を殺すなり、牢獄にぶち込むなりして、敵をせん滅して、おかないと、今度は、自分がやられる…」


 バニラが、言った…


 私は、驚いて、バニラを見た…


 バカ、バニラを見た…


 バニラが、まともなことを、言ったからだ…


 バニラの、その美しい顔が、かすかに、殺気だっていた…


 自分の言葉に昂っていたのだろう…


 なんしろ、このバニラは、ヤンキー出身…


 アメリカのスラム出身だ…


 とんでもない貧困の場から、世界のトップモデルにのし上がったのだ…


 その苦労たるや、想像を絶するものだろう…


 この矢田トモコが、35生きてきた苦労など、苦労でも、なんでもないに違いない…


 それを、思うと、急に、恐怖した…


 全身に、寒気が襲ってきた…


 このバニラの怖さが、わかったのだ…


 このバニラの偉大さが、わかったのだ…


 とりあえず、このバニラには、逆らわずに、いよう…


 私は、思った…


 このバニラが、本気で怒れば、この矢田トモコなど、イチコロだ…


 文字通り、瞬殺だ…


 間違いなく、殺されるだろう…


 それを考えると、どうにか、せねばならん…


 それに気付いた…


 このバカ、バニラの機嫌を取らねば、ならん…


 すると、誰かが、私の足を掴んだ…


 見ると、バニラの娘、マリアだった…


 「…矢田ちゃん…遊ぼ…遊ぼ…」


 マリアが言う…


 これは、利用するに、限る…


 とっさに、閃いた…


 マリアと遊んでやって、バニラの機嫌を取るに限ると思ったのだ…


 私は、すぐに、


 「…よし、遊んでやるさ…」


 と、言って、椅子から、降りた…


 が、


 なぜか、マリアが、嫌がった…


 「…矢田ちゃん…変!…いつもの矢田ちゃんじゃない!…」


 「…なんだと?…」


 私が、驚くと、


 「…お姉さん…また、よからぬことを、考えていたでしょ?…」


 バニラが、口を出した…


 「…子供は、純真…お姉さんの心のありようが、見えるの…」


 「…私の心のありようだと?…」


 私は、唖然とした…


 まさか、この矢田の心のありようが、3歳の幼児に見抜かれるとは?


 …油断できん!…


 …3歳の幼児とは、いえ、油断できん!…


 私は、悟った…


 悟ったのだ…


 「…でも、それが、お姉さんなのよね…」


 リンダが口を挟んだ…


 「…どこか、ズルいことをしても、心の底から、憎めない…それが、お姉さんの利点…」


 リンダが、説明する…


 そのリンダの言葉に、バニラが、さもありなんというように、頷いた…


 同意した…


 それから、リンダ=ヤンが、27インチのモニターに映った、ファラド王子と、偽者のリンダ・ヘイワースを見た…


 「…このファラド王子…リンダ・ヘイワースのファンだという噂は、聞いたことがないのよね…」


 リンダが、呟く…


 「…そのファラド王子が、リンダ・ヘイワースと、仲良く映った写真が、ネットに出回る…これが、ウソの証拠…」


 リンダが笑う…


 私は、そんなリンダの笑いを見て、不思議に思ったことがあった…


 そもそも、リンダは、このファラド王子と会ったことがあるか、どうかだ…


 ハリウッドのセックス・シンボルである、リンダ・ヘイワースの知名度は、抜群…


 世界中で、知られている…


 だから、世界中にファンがいる…


 セレブも一般の人間も含めて、ファンがいる…


 そして、なにより、リンダ・ヘイワースは、世界中を飛び回っている…


 その結果、さまざまな人物と会っている…


 だとすれば、当然、この写真に写ったファラド王子と会った可能性も高い…


 その事実に、気付いたのだ…


 「…リンダ…オマエ、このファラド王子と会ったことがあるのか?…」


 私は、聞いた…


 直球で聞いた…


 が、


 その質問に、


 「…さあ、それは、お姉さんの想像にお任せするわ…」


 と、答えた…


 けむに巻いたのだ…


 しかし、その表情は、色っぽかった…


 リンダが、ヤンの姿であるときは、決して、見せない女の顔だった…


 女=リンダ・ヘイワースの顔だった…


 男装して、ヤンの姿をしているにも、かかわらず、ビックリするほど、色っぽかった…


 急に、部屋中が、ピンク色になったようだった…


 だが、


 こんな、男だか、女だか、わからん人間に、負ける矢田トモコではない…


 遅れを取る、矢田トモコではないのだ…


 勝負は、一瞬…


 一瞬だ…


 私は、自慢ではないが、本番に強い女だった…


 練習では、結果を出せんが、本番は、一発勝負…


 結果を出した…


 負けん!


 どんなことが、あっても、こんなヤツには、負けん!


 ファラド王子をゲットしてやるさ…


 私は、固く心に誓った…


 誓ったのだ…


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