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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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24/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 24

「…アラブの女神だと?…」


 私は、呟いた…


 …アラブの女神?…


 初めて、聞く名前だ…


 一体、なんだ? それは?


 考えた…


 なにより、この頭脳明晰で、豊富な知識を持つ、天下のソニー学園出身の矢田トモコよりも、この目の前のバカなバニラが、そのことを、知っているのが、不思議だった…


 理解に苦しんだ…


 が、


 とりあえず、聞くことにした…


 「…バニラ…そのアラブの女神というのは、なんだ?…」


 私は、言った…


 すると、バニラが、すーっと、私に、顔を近付けた…


 「…お姉さん?…」


 「…なんだ?…」


 「…今、私のことを、バカだと思ったでしょ?…」


 なんと、ずばり、バニラが、私の心の中を言い当てた!…


 私は、焦った…


 焦ったのだ…


 が、


 まさか、その通りだとは、言えんかった…


 だから、


 「…知らんな…」


 と、とぼけた…


 「…そんなことは、知らん…」


 私は、必死になって、否定した…


 すると、バニラが、ますます、私に顔を近付けてきた…


 まるで、私を脅すが如く、私に、顔を近付けてきた…


 まるで、男と女がキスをするようだ…


 そして、実に、威圧感は、あったが、その顔は、凄く美しかった…


 ビックリするほど、美しかったのだ…


 冷静に考えると、なにが、なんだか、わからなかった…


 まったくの平凡な矢田トモコに対して、大柄な絶世の美女が、顔を近付けて、私を脅しているのだ…


 普通は、話が、逆だろう…


 男と女の違いはあれども、平凡な男が、絶世の美女を、なんとかしようとして、


 「…オレのモノになれ…」


 とか、なんとか言って、迫るものだろう…


 しかし、これは、真逆…


 この平凡な矢田トモコが、絶世の美女に脅されている…


 よく、わからん…


 実に、よく、わからん展開だった(笑)…


 だから、私は、目の前にバニラの顔が、近付くと、


 「…オマエ…ホントに、美人だな…」


 と、呟いた…


 つい、呟いたのだ…


 バニラは、拍子抜けした様子だった…


 「…お姉さん…また、それ…」


 と、バニラが、文句を言った…


 そして、私から、顔を離した…


 「…まったく、ひとが、顔を近付けて、圧を加えると、すぐ、美人だ、なんだと、ひとを褒めて…調子がいい…」


 バニラがぼやく…


 だから、私は、言ってやった…


 「…オマエ…顔を近付けるのは、逆効果だゾ…」


 「…どうして?…」


 「…どうしてもなにも、そんなキレイな顔を近付けられて、圧に感じる、男も女もいないさ…惚れ惚れするだけさ…」


 私が、指摘すると、しばし、考え込んでから、


 「…そうか…」


 と、気付いた…


 「…だから、オマエはバカなんだ…」


 私は、言ってやった…


 「…バカ、バニラ!…」


 私が、調子に乗っていうと、またも、バニラが、私に顔を近付けた…


 だから、


 「…バカ…だから、オマエはバカなんだ…」


 と、繰り返した…


 私の言葉で、ハッと、バニラは我に返った…


 「…つい、昔からの癖で…」


 「…バカ、バニラ!…」


 私は、言ってやった…


 それから、


 「…そんなことより、アラブの女神について、話せ…」


 と、バニラに命じた…


 すると、バニラが、


 「…それが、他人様に、モノを聞く態度?…」


 と、激怒した…


 言われてみれば、その通り…


 その通りだった…


 だから、


 「…すまん…バニラ…」


 と、頭を下げた…


 「…許してくれ…」


 私が、頭を下げると、途端に、バニラの機嫌が、直った…


 すぐに、満足そうな表情になった…


 実に、単純な性格だ(笑)…


 「…そんなことより、アラブの女神だ…バニラ…」


 と、私は、言った…


 「…アラブの女神って、なんだ?…」


 私が聞くと、


 「…詳しくは知らないの…」


 と、バニラが答えた…


 「…知らないだと?…」


 「…そう…」


 「…でも、オマエは、今…アラブの女神と…」


 「…リンダの一件に、アラブの女神が関わっていると、葉敬が教えてくれたの…」


 「…お父さんが?…」


 「…そう…葉敬も、色々、情報を探ったらしい…葉敬にとって、リンダは、重要な手駒の一つ…台北筆頭のPRに欠かせない人物だから、今、手放すわけには、いかない…」


 「…」


 「…だから、コネクションを駆使して、リンダを狙っているのが、アラブの女神ということだけは、わかった…」


 「…アラブの女神…ということは、相手は、女なのか?…」


 「…それは、わからない…」


 「…どうしてだ? …だって、女神だから、女だろ?…」


 「…普通に考えれば、そうだけど、アラブ諸国では、女の地位が低いの…だから、普通に考えれば、女が、リーダーというのは、ありえないと思うけど…」


 「…けど、なんだ?…」


 「…それは、表面づらというか…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…どこの家庭でも、一見、旦那が、力を持っているように見えて、実際は、奥さんに尻を引かれている夫は、多いでしょ? それと、同じ…だから、本当のところは、わからない…」


 「…」


 「…ただ…」


 「…ただ、なんだ?…」


 「…アラブの女神というのが、集団というか…テロ組織ではないけれど、特定の集団の名称だということは、掴んだ…」


 「…名称?…」


 「…例えば、イギリスの諜報部…映画のОО7の所属するモデルが、MI6だというのは、広く世間に知られた事実でしょ…それと、同じ…」


 「…」


 「…リンダに近付くのが、アラブの女神と呼ばれる集団であるということだけは、わかったけれども、その集団が、どういうメンバーで、誰が、リーダーなのか、皆目見当もつかない…」


 「…」


 「…でも、もしかしたら、アラブの女神だから、リーダーは、女だとか…あるいは、メンバー全員、女の可能性もある…」


 「…」


 「…でも、それは、すべて、想像…推測しているだけ…決定的な証拠は、なに一つない…」


 私は、バニラの説明に、言葉もなかった…


 たしかに、アラブの女神という名前だけでは、相手が誰だか、わかるわけがない…


 「…でも、ヒントがないわけじゃない…」


 「…ヒント?…」


 「…そのヒントが、このファラド王子…」


 バニラが、27インチのモニターに、リンダの偽者と映ったタキシードを着た浅黒い精悍な男を指差した…


 「…どうして、ヒントなんだ?…」


 「…だって、このリンダの偽者と映った写真をネットに流して、リンダと婚約しているなんて、情報を流したわけだから、なんらかの形で、このファラド王子が、関わっていると、考えるのが、普通でしょ?…」


 「…なんらかの形って?…」


 「…例えば、この王子が、アラブの女神の所属メンバーか、あるいは、アラブの女神の標的か? …」


 「…標的?…」


 「…そうよ…標的? …その可能性もある…」


 バニラが、呟く…


 そして、たしかに、バニラの言う通りだと、私も思った…


 このファラド王子が、なにも関係がなければ、リンダとの婚約写真だと偽って、ネットに情報が流れるわけがないからだ…


 「…そして、ファラド王子…今度の日本で、開く、クールのパーティーの主役なの…」


 「…なんだと?…」


 私は、驚いた…


 このファラド王子が、主役とは?


 こんなイケメンが主役とは?


 話が違う…


 とっさに、思った…


 こんなイケメンが、パーティーに出席するならば、私も早く準備せねば、ならん…


 それは、心の準備だとか、精神的なものを、いっているのではない…


 とりあえず、着物…


 和服を発注せねば、なるまい…


 童顔で、巨乳で、六頭身の私の体型を隠すもの…


 それは、着物しかない!


 ジャパニーズ、キモノしかない!


 着物を着ることで、私の幼児体型を隠すことができる…


 そして、もしかしたら、このイケメンの王子と恋に落ちるかもしれん…


 私は、思った…


 この矢田トモコ、35歳…

 

 実は、人妻…


 葉尊の妻だった…


 が、


 同時に、恋多き乙女でもあった…


 だから、どうにも、恋する気持ちは、止めることは、できんかった…


 イケメンを見ると、心がときめくことを、止めることは、できんかった…


 我ながら、奔放…


 恋に、奔放な女だった(笑)…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…ちょっと、お姉さん…」


 と、またも、バニラが、私に、顔を近付けた…


 私は、驚いた…


 ふいに、我に返ると、バニラの顔が、間近にあったのだ…


 いくら、美人でも、目の前に他人の顔があって、驚かない人間は、いない…


 「…バカ、バニラ…そんなに顔を近付けるな…」


 と、私は、バニラに抗議した…


 「…いくら、美人でも、ひとの顔の目の前に、顔を近付けるものじゃないゾ…」


 私が、激しく抗議すると、バニラが、ニヤリと笑った…


 「…相変わらず、このオチビは、気が多いというか…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…今、このファラド王子と、なんとか、なるんじゃないかとか、妄想したでしょ?…」


 ずばり、私の内面を突いた…


 心の中を見切ったのだ…


 私は、焦ったが、当然、それを認めるわけには、いかんかった…


 だから、


 「…知らんな…」


 と、うそぶいた…


 「…それこそ、オマエの妄想だろ?…」


 私が、反論すると、バニラがニヤリとした…


 「…お姉さん?…」


 「…なんだ?…」


 「…このパーティーのときに、私は、このファラド王子と、いっときも、離れない…どんなときも、この王子といっしょにいる…」


 「…なんだと?…」


 「…それが、どういう意味か、わかる?…」


 「…わからんさ…」


 「…だったら、教えてあげる…パーティーには、私は、青いドレスを着てゆくわ…当然、ヒールも履くから、190㎝は、優に超える…」


 「…それが、どうした?…」


 「…一方、お姉さんは、当日、着物を着るつもりでしょ? …着物で、ヒールを履くことはできない…だから、身長159㎝のお姉さんは、160㎝ぐらいにしか、ならない…そのお姉さんが、ファラド王子に近付こうとしても、私は、必ず、ファラド王子と、お姉さんの間に入って、壁になってやる…どんなことがあっても、お姉さんが、ファラド王子に近付くことができないようにね…」


 バニラが、勝ち誇った顔で、私に告げた…


 私は、許せんかった…


 まさか…


 まさか、こんなバニラ風情に、私の恋路を邪魔されるとは、思わんかったからだ…


 「…バニラ…貴様!…」


 私は、怒りで、思わず、両手を握り締めた…


 「…貴様、どういうつもりだ?…」


 「…そういうお姉さんこそ、どういうつもりなの? …お姉さんは、人妻…葉尊の妻なのよ…」


 「…それと、これとは、関係ないさ…私は、ただイケメンが好きなだけさ…」


 「…お姉さん…本音が出たわね?…」


 「…本音だと?…」


 「…お姉さんは、六頭身のオチビのくせに、イケメン好き…それが、お姉さんの正体ね…」


 「…正体だと?…」


 「…そう、正体…平凡なお姉さんが、葉尊のようなイケメンの大金持ちと結婚しても、まだ、他のイケメンをどうにかしようとする…玉の輿に乗っても、まだ、まだ、他のイケメンを欲する…その欲望には、際限がない…」


 「…バニラ…貴様!…」


 私は、怒った…


 怒ったのだ…


 なにより、このバニラの言うことに、間違いはなかった…


 誤りがなかった…


 いわば、正鵠を射られたのだ…


 それが、許せんかった…


 「…バニラ、言っていいことと、悪いことがあるゾ…」


 私は、言った…


 「…言っていいことと、悪いことって? …お姉さん、私に、心の内側を読まれたことが、悔しいの?…」


 「…そんなんじゃないさ…」


 「…じゃ、なんなの?…」


 「…オマエさ…オマエの態度さ…」


 「…私の態度がなに?…」


 「…オマエの歪んだ性根が、気に入らんのさ…」


 「…それを言えば、葉尊というイケメンの夫がいるのに、他のイケメンに手を出そうとする、お姉さんは、なに? 性根が歪んでないの?…」


 「…私の性根は、歪んでないさ…イケメンだって、ただ見たいだけさ…それ以上は、ないさ…」


 「…ウソ…お姉さんは、ウソを言ってる…」


 「…ウソなんかじゃないさ…」


 私とバニラが言い合ってると、パンパンと手を叩く音がした…


 私とバニラは、その音で、思わず、その音がする方を見た…


 そこには、リンダ…


 リンダ・ヘイワースが、立っていた…


 いつものヤンの格好をして立っていた…


 男装して、立っていた…


 「…ほ…本物か…」


 思わず、口を開いた…


 「…本物のリンダか?…」


 「…本物に決まってるでしょ?…」


 リンダ=ヤンが言う…


 「…それにしても、アナタたち二人は、会うとケンカばかり…」


 ヤンが、ため息をついた…


 「…ケンカするほど、仲がいいっていうけど、ホント、アナタたちのためにある言葉ね…」


 …ケンカするほど、仲がいいだと?…


 …バカな…


 …この矢田トモコが、こんなバニラなんかと、仲がいいとは?…


 …そんなこと、あるはずない!…


 …いかに、私が落ちぶれようと、こんなバカと仲がいいはずがない…


 …たしかに、私は、ソニー学園出身だ…


 …偏差値が、決して、高くはない…


 …だが、バニラほど、バカではない!…


 …自信がある…


 完璧な自信がある!…


 だから、私は、


 「…こんなバカといっしょにして、もらっちゃ、困るさ…」


 と、言おうとしたら、先に、バニラが、


 「…リンダ…いい加減にして!…私を誰だと思ってるの? バニラ…バニラ・ルインスキーよ…世界に知られたトップモデルよ…それが、こんなオチビと、いっしょにされて…こんな屈辱、今まで一度も味わったことがないわ…」


 と、血相を変えて、怒鳴った…


 …なんだと?…


 それは、たった今、私が言おうとしたことさ…


 許せん!


 私は、頭に来た…

 

 「…バニラ…オマエ、自分の立場をわきまえろ…」


 私は、言ってやった…


 「…私は、年上…オマエより、十二歳も年上の女さ…その態度は、なんだ?…」


 「…お姉さんが、いちいち、私のやることに、絡むからよ…」


 バニラが、悪びれずに言った…


 「…ふざけるな…貴様!…」


 私が、怒りで、全身を震わせると、ヤンの背後から、小さな娘が現れた…


 「…矢田ちゃん…元気…」


 3歳ぐらいの娘が、聞く…


 「…元気さ…」


 私は、反射的に、言った…


 言いながら、この娘は? と、考え込んだ…


 たしか、この娘は?…


 私が、細い目を、さらに、細めて、考え込んでいると、


 「…マリア…」


 と、バニラが叫んだ…


 「…どうして、ここに来たの?…」


 「…リンダ…いえ、ヤンさんが連れてきて、くれたの…」


 マリアが言う…


 「…それより、矢田ちゃん…遊んで、遊んで…」


 マリアが、私の傍に寄って来た…


 すると、バニラの態度が一変した…


 「…お姉さん…申し訳ありませんでした…」


 と、まるで、土下座せんばかりに、私に頭を下げた…


 「…マリアと遊んでやって下さい…」


 平身低頭だった…


 私は、思わず、リンダ=ヤンを見た…


 リンダ=ヤンが笑っていた…


 そういうことか?と、私は、気付いた…


 ここに、バニラが、来ていて、私と争っているに違いないと、リンダは、思ったに違いない…


 だから、マリアを連れてきた…


 バニラの娘…マリアを連れてきた…


 マリアが、私を好きなことを、知っているからだ…


 「…矢田ちゃん…遊ぼ…」


 と、デスクの椅子に座ったままの私に近寄って来た…


 そして、モニターに映った、リンダの顔を眺めた…


 「…これ…リンダのお姉さん? …ううん、違う…そっくりさん…」


 マリアが呟いた…


 私とバニラは思わず、互いに顔を見合わせた…


 「…まさか、マリアが一瞬で気付くとは?…」


 バニラが苦笑する…


 「…子供は純真…それゆえ、鋭い…だから、一瞬で見破る…」


 バニラが告げる…


 「…そう…子供は、純真…純真だから、その人間の本性を容易に見抜く…邪悪な人間には、決して、近付かない…だから、お姉さんは、子供に好かれる…お姉さんは誰よりも純真で、善良だから…バニラ…それは、アナタも、わかってるはず…」


 リンダの説明に、バニラは、


 「…」


 と、無言だった…


 それから、一転、


 「…でも、やるわね…リンダ・ヘイワースの偽者を使って、婚約情報を流すなんて、想像もしていなかった…」


 と、リンダ=ヤンが、モニターに映った自分の偽者を見て、笑った…


 「…こんなこと、初めて…油断ができない…」


 リンダ=ヤンが、冗談めいて呟く…


 が、


 その言葉とは、裏腹にリンダの目が、怒っていた…


 初めて見る、リンダ・ヘイワースの青い目の怒りだった…


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