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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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21/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 21

「…しかし、今日は、焦ったゾ…」


 私は、その夜、夫の葉尊と、自宅で、食事をしながら、言った…


 「…焦った? …どういうことですか?…」


 葉尊が、聞いた…


 「…リンダさ…」


 「…リンダ?…」


 「…そうさ…今日、リンダとバニラが、昼間、この家に来たのさ…だから、話をしていて、なんとなく、リンダに早く結婚しろ、と、忠告したのさ…」


 「…どうして、そんな忠告をしたんですか?…」


 「…バニラさ…」


 「…バニラですか?…」


 「…いっしょにいたバニラが、お父さんの葉敬との間に娘がいるのを、思い出したんだ…そしたら、リンダも、私といるよりも、男でも探せと思ってな…」


 「…お姉さんといるよりも、ですか?…」


 「…そうさ…私といても、仕方がない…女は、歳を取れば、価値がなくなるとは、いえんが、リンダのような美人は、やはり、不利になる…」


 「…不利に、ですか?…」


 「…そうさ…リンダは、葉尊…オマエと、同じ、29歳だ…だが、それが、私と同じ35歳になれば、やはり、今よりも、美貌が衰える…だから、私といっしょにいるよりも、早く、イイ男を探して、結婚しろと、忠告したのさ…そしたら…」


 「…そしたら?…」


 「…いきなり、私を抱き締めて、私が、好きだと、ぬかすんだ…」


 「…お姉さんが好き?…」


 「…そうさ…お姉さんといっしょにいる時間が好きだと言うんだ…どうかしているだろ?…」


 私が、言うと、葉尊が考え込んだ…


 「…」


 と、黙った…


 だから、


 「…どうした? …葉尊?…」


 と、聞いた…


 すると、


 「…お姉さんは、好かれるんですよ…」


 と、葉尊が穏やかに、告げた…


 「…好かれる? …私が?…」


 「…リンダが、お姉さんと、いっしょにいる時間が好きと、告白したのは、ボクにもわかります…」


 「…わかるだと?…」


 「…ハイ?…」


 「…なにが、わかるんだ?…」


 「…お姉さんといっしょにいると、誰もが、楽しいんです…」


 「…楽しい? …葉尊…オマエもか?…」


 「…ハイ…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 正直、私は、仮に、私が私以外でも、私といても、楽しくもなんともない…


 私は、美人でもなんでもないし、頭は、平凡…


 はっきり、いって、どこにでもいる女…


 世間にありふれた女だからだ…


 だから、


 「…よくわからんさ…私は仮に、自分が、自分以外の他人でも、私といっしょにいて、楽しいとは、思わんゾ…」


 「…それは、お姉さんが、自分のことだからですよ…」


 「…自分のことだから?…」


 「…そうです…リンダのことが、いい例です…」


 「…リンダのことだと?…」


 「…ハイ…お姉さんが、リンダを見て、お姉さんといっしょにいるよりも、早くイイ男を見つけて、結婚しろと、アドバイスをするのは、当たり前というか…」


 「…」


 「…でも、当のリンダ自身に言わせれば、イイ男を探すよりも、お姉さんといっしょにいる方が、楽しいんです…」


 「…私といるのが、楽しい?…」


 「…誰もが、自分のことは、わかりません…むしろ、他人の方が、自分を冷静に見ている…お姉さんが、リンダに、せっかく、そんな美人なんだから、お姉さんといるよりも、早くイイ男を探して、結婚しろと、アドバイスをするのは、至極当然というか…でも、リンダ自身にとっては、そんなことより、お姉さんといっしょにいるのが、楽しいのでしょう…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 私といっしょにいて、なにが、楽しいか、さっぱりわからんが、リンダが、楽しいというなら、それでいい…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 すると、葉尊が、


 「…誰もが、自分のことは、わからないものです…」


 と、続けた…


 「…ボクが、これまで29年生きてきて、お姉さんといっしょにいる時間ぐらい大切な時間は、ありません…」


 なんと、大げさな…


 私は、唖然とした…


 この私といっしょにいる時間が、そんな大切とは?…


 わからん…


 さっぱり、わからん…


 「…リンダも同じです…きっと、バニラも…」


 「…でも、あの二人は、私に意地悪をしたゾ…」


 「…意地悪?…」


 「…そうさ…今度、クールが、アラブの王族を招くパーティーで、私が、そのパーティーに出席をして、なにか、しくじっても、私を助けてやらんと、ぬかすんだ?…」


 「…お姉さんを助ける?…」


 「…そうさ…私は、一般人だ…パーティーに不慣れさ…だから、パーティーに出席して、なにかしくじったら、困ると、思ってたら、私がしくじっても、金輪際、私を助けないと、リンダが、言ったんだ…」


 「…リンダが?…」


 「…そうさ…それで、私が怒ったのさ…リンダとバニラに早く、この家から出て行けと、怒鳴ったのさ…そしたら、リンダが、今も言ったように、お姉さんが好きだと、私に言って、私を抱き締めて…私は、リンダとどうこうなるつもりはないゾ…いくら、世界中に知られたセックス・シンボルでも、私は、至って、ノーマルさ…それに、現に今、すでに、葉尊、私はオマエと結婚している…」


 私が言うと、葉尊は考え込んだ…


 それから、


 「…リンダが、お姉さんと好きというのは、性的な意味は、なにもないと思いますよ…」


 と、注釈した…


 「…ただ、言葉通り、お姉さんといっしょにいる時間が好きなんだと思います…」


 「…私といる時間が好き?…」


 「…そうです…お姉さんは、学生時代も友達が、多かったでしょ?…」


 「…多かったさ…どうして、わかる?…」


 「…お姉さんを見れば、わかります…」


 「…私を見れば、わかる?…」


 「…お姉さんは、いつでも、どこでも、みんなに愛されています…あのリンダもバニラも世界中に知られた存在です…当然ですが、プライドも高い…だから、街を歩けば、目立つし、チヤホヤされて、いい思いも、できるはずです…でも、そんなことより、お姉さんなんです…」


 「…私?…」


 「…リンダもバニラも、本業の女優や、モデルの仕事が、ないときは、大切な時間です…自分のプライベートな時間だからです…でも、その大切な時間を、お姉さんといっしょにいたいのです…二人にとっても、それが、楽しいのです…」


 「…楽しい?…」


 「…お姉さんには、魅力があります…誰もが、お姉さんといっしょにいたいと、思い、お姉さんの力になりたいと、思います…」


 「…私の力に?…」


 「…仮に、お姉さんに百人のファンがいれば、百人分の力を得ます…千人のファンがいれば、千人分の力を得ます…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…仕事がいい例です…」


 「…仕事?…」


 「…たとえば、お姉さんが、仕事で、なにか、困ったり、一人ではできないほどの作業を任されたとします…でも、きっと、お姉さんは、そんな状況になっても、誰かが、助けてくれたんじゃないんですか?…」


 …たしかに、葉尊の言う通り…


 …夫の葉尊の言う通りだ…


 私は、短大を卒業して、これまで、さまざまな仕事=バイトを転々としていたが、私が、困ったときは、必ず誰かが、助けてくれた…


 私は、それを思い出した…


 「…でしょ?…」


 夫の葉尊が、私の様子を見て、我が意を得たりとばかりに、言った…


 「…ひとに嫌われる人間は、どんな職場や学校にいても、嫌われます…だから、どんな状況になっても、誰も助けてくれません…」


 「…」


 「…お姉さんは、そんな人間たちと真逆です…リンダもバニラも苦労人です…」


 「…苦労人…あのリンダとバニラが?…」


 「…誰もが、簡単に現在の地位を得たわけではありません…おおげさにいえば、生き馬の目を抜く世界で、生きてきたわけです…だから、二人とも、ひとを見抜く目はあります…そんな二人も、お姉さんには、甘いというか…とにかく、お姉さんといっしょにいたいのです…」


 「…そうか…」


 私は、答えた…


 この葉尊と話すと、会話は、通じるのだが、どうもイマイチ、納得ができん…


 なにを、どう言おうと、この平凡な矢田トモコといても、ちっとも、楽しいとは、思わん…


 葉敬の愛人である、バニラはともかく、リンダは、あれほどの美人なんだから、イイ男を掴まえて、さっさと結婚しろと言いたい…


 世界中に知られたセックス・シンボルだ…


 世界に知られたリンダ・ヘイワースが結婚となると、そのニュースが、瞬く間に、世界中に知られるだろう…


 世の男たちに嘆きや悲嘆は、大変なものだろう…


 私は、思った…


 リンダ…


 リンダ・ヘイワース…


 そういえば、リンダ・ヘイワースをアラブの王族が狙っているという話は、どうなったんだ?


 やはり、あれは、フェイクニュースというか…


 本当の狙いは、リンダ以外なのか?


 謎だった…


 葉尊は、それを一体、どう思っているんだろうか?…


 聞いてみたくなった…


 「…葉尊?…」


 「…なんですか?…」


 「…アラブの王族が、リンダを狙っているという話だが…」


 私が言うと、珍しく、葉尊の顔色が変わった…


 私は、驚いた…


 いまだかつて、夫の葉尊が、女のことで、顔色が変わったことが、なかったからだ…


 「…リンダは、ボクの大切な友人です…」


 と、葉尊が言った…


 私は、その言葉で、初めて、リンダ・ヘイワースに会ったときのことを、思い出した…


 私が、初めて、リンダ・ヘイワースに会ったのは、夫の紹介だった…


 夫、葉尊の友人である、ヤンとして、会ったのが、最初だった…


 ヤン=男装したリンダ・ヘイワースと、会ったのが、最初だった…


 つまり、葉尊にとって、リンダ=ヤンは、今、葉尊が言ったように、大切な友人だということだ…


 「…だから、アラブの王族がリンダを狙うというなら、ボクは、全力を持って、阻止します…リンダを守ります…」


 葉尊が顔色を変えて言う…


 「…ですが、その情報も眉唾物です…」


 葉尊が、いつもの柔和な表情に戻って、言った…


 「…きっと、お姉さんも、その情報をどこからか、聞いて、今、言ったんだと思います…」


 「…」


 「…ですが、おそらく、それはない…」


 「…どうして、わかる?…」


 「…父の葉敬にとっても、リンダは、大切だからです…」


 「…お父さんにとって?…」


 「…言葉は悪いんですが、父の葉敬にとっても、リンダとバニラは、大切な武器なんです…」


 「…武器?…」


 「…父の経営する台湾の台北筆頭の広告には、リンダとバニラが、よく掲載されてます…世界中に知られたリンダとバニラが、台北筆頭の広告に出ることで、台北筆頭の製品もまた世界中に知られます…だから、現時点で、父は…葉敬は、リンダとバニラを手放すつもりはないと思います…」


 「…そうか…」


 私は、言った…


 言いながら、頭の中で、考えた…


 そういえば、最初は、あのリンダは、もしかしたら、アラブの王族に、強引に連れて行かれるかもしれないと、怯えて、バニラに相談しようとしていた…


 私は、それに、気付いて、二人に除け者にされては、困ると、思い、バニラといっしょにリンダの家に行った…


 それが、発端だった…


 それが、始まりだった…


 あのとき、確かに、リンダは、悩んでいた…


 が、


 今日、昼間、会ったときは、全然、悩んでいなかった…


 むしろ、アラブの王族が、リンダをアラブにお持ち帰りするかもしれないと、いう噂は、ウソだと、断言した…


 その根拠は、世界中に張り巡らした、リンダの情報網…


 世界中に張り巡らせたといえば、大げさ過ぎるが、いわゆる世界のセレブの間では、誰が、リンダの熱狂的なファンか、情報が、共有されていた…


 現に、イギリスのウイリアム王子が、リンダ・ヘイワースの熱狂的なファンだと、リンダ自ら、断言した…


 つまりは、最初、リンダが、悩んでいたときは、まだ、その情報が、リンダの元に届いていなかったということだ…


 私は、気付いた…


 だから、あの時点では、まだリンダは、怯えていたわけだ…


 それに、気付いた私は、ふと、昔、バイトをしたときの経験を思い出した…


 ある会社で、バイトをしていたときのことだ…


 私は、たまたまだが、日本を代表する大きな会社で、将来、出世が、約束されているエリートと、組んで、仕事をしたことがあった…


 そのエリートは、当時は、主任で、いくつかの仕事を抱えていたが、メインは、私との仕事だった…


 はっきりいって、二人で、組んで、朝から、夜まで、一日中、仕事をしていた…


 だから、そのエリートの一日は、すべて、わかった…


 なにしろ、出社から、退社まで、私といっしょに組んで仕事をしていたのだ…


 私は、バイトだから、そのエリートと、対等の身分ではないが、そのエリートの一日の過ごし方は、わかっていた…


 が、


 あるとき、そのエリートが、会社で、同僚と、立ち話をしていたときに、不意に、


 「…○○は、今、危ないんですよ…」


 という話をした…


 さらに、


 「…ここで、頑張らないと、上に上がることは…」


 と、続けた…


 私は、驚いた…


 なんに驚いたかといえば、私は、そのエリートと朝から夜まで、組んで仕事をしていたから、そのエリートが、そんな社内情報に触れる機会があるとは、思わなかったからだ…


 なにしろ、一日中だ…


 一日中、いっしょにいたのだ…


 だが、そのエリートは、私の知らない社内事情に、精通していた…


 これは、一体、どういうわけだ?


 どこから、その情報を仕入れた?…


 私は、考えた


 そのとき、私は、ふと、気付いた…


 考えられるのは、電話だった…


 仕事で、会社の他の人間に電話をかけたときに、社内の人事の噂話を聞いていた違いない…


 だから、知ったのだ…


 そして、それを知っているのは、彼がエリートだからだった…


 将来が嘱望された人間だったからだ…


 だから、この人間には、知らせなければ、ならないと、周囲が配慮していたのだろう…


 そのエリート以外にも、やはり、別の会社で、将来、偉くなることを、約束された人間を見たときも、同じだった…


 要するに、社内の人事に異様に、精通しているのだ…


 人事部に所属しているわけでも、ないのに、なぜか社内の情報に、異様に詳しい(爆笑)…


 当然ながら、誰か、周囲の者が、その人間に、教えているからだ…


 私は、思った…


 そして、不謹慎ながら、同時に、思ったのは、そんな将来を嘱望された人間が、いわゆる出世コースをはずれたら、どうなるか? ということだ…


 きっと、そのときは、情報が手に入らなくなるに違いない…


 私は、思った…


 当たり前だが、周囲の人間の態度が違ってくる…


 だから、仮に、情報は得ても、それまでの半分か、それ以下に変わるのではないか?


 私は、ふと、思った…


 そして、それは、あのリンダにも、当てはまる…


 リンダ…


 リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボル…


 いわゆる、美の化身…


 世界中の男の憧れだ…


 世界中の男が、リンダと一夜に共にしたいと、夢見る…


 世界中に知られた美人だ…


 が、


 その美貌が、衰えれば、どうだろう?


 リンダは、今、29歳…


 私が、間近に見ても、驚くほど、美しい…


 が、


 例えば、40歳になったら、どうだろう?


 先日、顔に皺が、一本あるのを見つけて、大騒ぎしたぐらいだ…


 やはり、40歳になれば、老けるだろう…


 美容整形をして、皺をなくすことは、できるが、若さを維持することは不可能…


 できない…


 と、なれば、リンダのファンも激減するだろう…


 私は、思った…


 そうなれば、リンダに情報が入らなくなるのではないか?


 リンダの力の源泉は、その美貌だ…


 さっき上げた、将来を嘱望されたエリートと、同じだ…


 エリートが、出世街道から外れれば、情報が入らなくなるのと、同じで、リンダもまた、情報が入らなくなるのではないか?


 ふと、気付いた…


 いつのまにか、リンダのことから、過去に私が接したことのある、エリートのことを、思い出した…


 まったく、今現在の私と関係のない過去のことを思い出した…


 いつものことだった(笑)…


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