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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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19/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 19

…目的は、リンダではない?…


 私は、考え込んだ…


 この目の前の絶世の美女ではない…


 私は、思った…


 今は、男の格好をして、わざと、ヨレヨレの服を着て、その美貌を隠している…


 が、


 あのバニラ同様、正式に、リンダ・ヘイワースとして、パーティーにロングドレスを着て、出席したりすると、その美しさに驚く…


 文字通り、圧倒される…


 私は、男ではないが、パーティーで、華やかなドレスをまとった、リンダ・ヘイワースを目前にすると、ただただ、圧倒される


 とても、私と同じ人間とは、思えない…


 たしかに、日本人の私と人種が違うが、それにしても、違い過ぎる…


 その美貌、手足の長さ…どれをとっても、同じ人類とは、思えない…


 ドレスアップした、リンダ・ヘイワースを目の前にすると、ただ、ただ、その美しさに圧倒されるのだ…


 が、


 しかし、


 アラブの王族は、そんな美しいリンダ・ヘイワースが、目的では、ないと言う…


 だったら、一体、なにが、目的なのか?


 私は、思った…


 ジッと、目の前のヤン…リンダを見ながら、考え込んだ…


 目の前のメガネをかけ、変装したリンダを見ながら、考え込んだ…


 すると、


 「…お姉さん…真剣ね…」


 と、目の前のヤンが、声をかけた…


 「…当り前さ…」


 私は、答えた…


 「…だって、リンダが、目的じゃないんだろ? …だったら、一体、どんな目的なんだ? リンダほどの美人目当てならば、納得するが、他に目的があると、なると、皆目見当もつかんゾ…」


 私が、息せき切って言うと、ヤンが、面白そうに、


 「…だから、アラブの王族は、目的は、リンダ・ヘイワースだと、いう噂をわざと流したんじゃないかな…」


 と、言った…


 「…どういう意味だ?…」


 「…私がいうのも、なんだけれども、目的が、リンダ・ヘイワースというのは、実にわかりやすい…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…ハリウッドのセックス・シンボルとして、世界中に知られたリンダ・ヘイワースを、狙っているとか、一夜を共にしたいとでも、言えば、実にわかりやすい…なにより、誰も、疑問を持たない…」


 「…」


 「…事前に噂として、流すのに、実に、うってつけ…」


 「…だったら、ヤン…いや、リンダ、アラブの王族の本当の目的は、なんだと思うんだ? 当たりは、付いているんだろ?…」


 「…まあね?…」


 ヤンが笑った…


 「…なら、話せ…ヤン…」


 「…お姉さんに?…」


 「…そうだ…」


 「…でも、お姉さんに話しても…」


 「…なんだと?…」


 私は、怒った…


 「…なぜ、話せん…オマエと私は、親友じゃないか?…」


 「…親友って? …一体、いつから、お姉さんと私が、親友になったの?…」


 「…今さ…たった今さ…」


 「…今?…」


 「…そうさ…私とオマエは、因縁がある…だが、それを乗り越えて、今は、親友になったんだ…そうだろ? …バニラ?…」


 私は、言った…


 「…バニラ?…」


 目の前のヤンが、絶句した…


 「…そうさ…オマエは、リンダじゃない…バニラさ…バニラがヤンに変装したのさ…」


 「…なにをバカなことを…」


 「…隠すな…リンダが、ヤンに変装したときは、自分のことは、ボクと呼ぶ…が、今、オマエは、私だった…それで、気付いたのさ…」


 私は、断言した…


 すると、目の前のヤン…バニラが、絶句した…


 それから、笑いながら、


 「…ホント、このお姉さんには、叶わない…」


 と、言って、メガネを外して、素顔を晒した…


 それから、髪をかき上げた…


 すると、いつものバニラがいた…


 バニラ・ルインスキーがいたのだ…


 「…バニラ…どうして、こんなことをした?…」


 私は尋ねた…


 「…お姉さんを試したのよ…」


 「…試す?…」


 「…使い物になるか、どうか?…」


 「…使い物になるか、どうかだと?…」


 私は、焦った…


 驚いたのではない…


 焦ったのだ…


 なにか、ある?…


 とんでも、ないことがある!


 私の背中に冷や汗が走った…


 身長、159㎝の六頭身の体型に、冷や汗が走った…


 私の大きな胸も揺れた…


 動揺したのだ…


 みっともないほど、動揺したのだ…


 すると、予想外のことが、起こった…


 私たち二人以外の誰かが、部屋にいることが、わかったのだ…


 この家は、私の家…


 私と葉尊の住むマンションだ…


 私と葉尊以外、いるわけがなかった…


 しかし、今、明らかに、ひとが、いる気配がした…


 だから、私は、


 「…誰だ? そこにいるのは?…」


 と、怒鳴った…


 「…姿を見せろ!…」


 大声を出した…


 だが、なんの反応もなかった…


 だから、私は、


 「…出てこないなら、こっちから、行ってやるさ…」


 と、言って、気配がある方に歩き出した…


 私は、正直、臆病者だが、このときは、それを忘れていた…


 そんなことは、すっかり忘れて、そこに誰がいるかの方が、気になったのだ…


 すると、


 「…わかったわ…」


 と、いう声がして、いきなり、人影が現れた…


 私は、その姿を見て、絶句した…


 そこには、ヤン…


 ヤンがいた…


 リンダ・ヘイワースの男装した姿があった…


 「…ほ、本物?…」


 思わず、声をかけた…


 「…そう、本物…」


 ニコリとして、目の前のヤンが笑った…


 「…本物のヤン…リンダ・ヘイワース…」


 「…リンダ・ヘイワース?…」


 私は、繰り返した…


 私は、驚いたが、リンダが、そこにいるのは、不思議ではなかった…


 なぜなら、リンダは夫の葉尊と親しい…


 また、葉尊の父、葉敬に世話にもなっている…


 だから、おおげさに、言えば、ファミリー…


 私と、同じファミリーだ…


 だから、このマンションのキーを持っていても、不思議ではなかった…


 だが、やはり、このリンダが、そこに隠れていたのは、驚きだった…


 「…一体、なんのために?…」


 私が呟くと、私の肩を背後から、ガツンと掴まれた…


 思わず、反射的に、背後を振り返った…


 そこにいたのは、バニラだった…


 「…お姉さんの力を試すためと言ったでしょ?…」


 バニラが、呟いた…


 そして、


 「…合格よ…」


 と、付け加えた…


 「…合格だと?…」


 「…お姉さんの能力は、衰えてない…」


 「…衰えてないだと?…」


 「…以前も、私が、リンダになりすましているのに、気付いた…だから、今回は、私が、ヤンになりすました…」


 …たしかに、二人は、似ている…


 バニラの方が、リンダよりも、身長が、高いが、顔の造作が似ているのだ…


 ただ、普段は、リンダは、おとなしめ…


 真逆に、バニラは野性的で、売っている…


 いわば、イメージ戦略…


 昔で、いえば、オードリーヘップバーンと、フランスの有名女優、ブリジット・バルドーのようなものだ…


 オードリーヘップバーンが、品の良いお嬢様なら、ブリジット・バルドーは、セックス・シンボルとして、売り出す…


 売り方が対照的…


 だから、二人は、被らない…


 ファン層が、まるで、違うからだ…


 と、そこまで、考えて、ふと、このリンダとバニラの二人を思った…


 二人とも、本当の素顔は、顔の作りが似ている…


 だから、売り出すために、わざと違う売り出し方をしたのかも? と、気付いたのだ…


 なにより、二人とも、葉敬に世話になっている…


 だから、もしかしたら、二人が、売り出すときにも、葉敬が、なにか、意見を出したのかもしれない…


 アイデアを出したのかもしれない…


 本来、顔の作りが似ているからこそ、メイクで、ごまかし、いわゆる、おとなしめ系と、野生系と色分けしたのかもしれない…


 ふと、そんなことを、思った…


 「…オマエたちは、一体?…」


 私が、言うと、二人が、笑った…


 「…リンダ・ヘイワースと、バニラ・ルインスキー…」


 二人が、自分の名前を呼んだ…


 「…共に、女優とモデルとして、世界中に知られている…」


 「…」


 「…でも、もし、二人が、同一人物だったりしたら…」


 「…バカを言うな…二人とも、たった今、私の前にいるだろ?…」


 「…お姉さん?…」


 「…なんだ?…」


 「…お姉さんの今、見ていることは、幻…」


 「…幻だと?…」


 「…葉尊と葉問と、いっしょ?…」


 「…葉問?…」


 すっかり、忘れていた…


 葉問は、葉尊の一卵性の弟だと、思っていたが、実は、葉尊のもう一人の人格だった…


 葉尊は、二重人格者…


 葉尊の中には、葉尊と、葉問が、存在する…


 葉尊は、真面目…


 葉問は、洗練された伊達男…


お洒落で、女好きだ…


 いわば、真逆…


 実際は、葉問は、幼い時に、事故で、亡くなった…


 そして、その原因は、葉尊だった…


 弟の葉問が、自分のせいで、亡くなったことに、苦悩し、自分を責めた葉尊は、いつしか、自分の中に、葉問を作り出した…


 自分とは、完全な別人格の葉問を作り出した…


 私も、最初は、気付かなかったが、いつしか、二人が、同一人物では? と、気付いた…


 なぜなら、二人が、同時に、私の前に現れたことが、一度もなかったからだ…


 が、


 そのことに、不審を抱いた私に気付いた葉問は、わざと、私の前に、自分と似せた人物を登場させて、私の疑念を払しょくした…


 私は、それを思い出した…


 「…バニラとリンダ…オマエたちは、一体?…」


 私は、繰り返した…


 「葉尊と葉問は、表裏一体…」


 リンダが、呟く…


 「…それと、同じ…」


 「…同じだと?…」


 「…私とリンダも同じ…」


 バニラが、続ける…


 「…葉尊と葉問…私とリンダ…互いに真逆…自分にないものを、相手が持っている…」


 「…」


 「…葉尊にクールの経営はできるけれども、女を扱うことはできない…真面目過ぎる…」


 「…」


 「…でも、葉問なら、できる…私やリンダと肩を並べて、歩いて、恋人のフリをすることができる…」


 「…一体、なにが、言いたい?…」


 「…お姉さんには、黙って見ていてもらいたいの…」


 「…どういうことだ?…」


 「…アラブの王族…まもなく、来日する…でも、その目的もまだよくわからない…」


 「…」


 「…だから、リンダも私だけじゃなく、葉尊も、そして、葉問にも、協力してもらって、戦うことになる…」


 「…戦う? …どういうことだ?…」


 「…アラブの王族の狙いが、わからない…ひょっとして、クールを狙っているとか、それとも、親会社の台湾の台北筆頭を狙っているとか…」


 「…まさか?…」


 「…そのまさかも、ありうると、葉敬は、考えているの?…」


 バニラが、続ける…


 「…だったら…」


 私は、言った…


 「…だったら、お父さんは、どうして、日本で、アラブの王族を接待しようとしたんだ? …そんな危険があるのに…」


 「…虎穴に入らずんば虎子を得ず…」


 リンダが言った…


 「…リスクを取らなければ、成功しない…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…昔、ある女優が、私に言ったことがある…」


 「…なんて、言ったんだ?…」


 「…あるとき、ハリウッドから、オファーが来た…でも、例えば、そのオファーの価格は、日本円でいえば、一千万だった…」


 「…一千万?…」


 「…そう…そして、その女優は、そのオファーを受けようか、真剣に悩んだ挙句、断った…」


 「…どうして、断ったんだ? …オファーを受ければ、一千万もらえるんだろ?…」


 「…でも、その女優は、考えた…」


 「…なにを、だ?…」


 「…そのオファーを受ければ、自分の市場価値は、一千万円と決まってしまうと…」


 「…」


 「…だから、断った…ホントは、喉から手が出るほど、その仕事が欲しいのに、断った…」


 「…」


 「…そして、その後、どうなったと思う?…」


 「…どうなったかって?…」


 私は、しばし、考えた…


 が、


 考えても、さっぱり、わからんかった…


 だから、


 「…わからんさ…」


 と、答えた…


 すると、リンダは、嬉しそうに、


 「…今度は、三千万円のオファーが来た…」

 

 と、語った…


 「…だから、すぐに、そのオファーを受けた…三千万なら、納得できる…だから、そのとき、つくづく、一千万円のオファーを受けなくて、よかったと、思った…」


 「…」


 「…つまり、それが、私やバニラの仕事のリスク…たとえ、その仕事が欲しいときでも、我慢しなければ、ならないときもある…葉敬も同じ…」


 「…お父さんも同じだと?…」


 「…葉敬は、言わずと知れた、台湾の台北筆頭のオーナー経営者…クールの親会社のオーナー…」


 「…」


 「…でも、当然のことながら、日本は、台湾よりも、大きい…国際的な地位も強い…だから、日本の総合電機メーカー、クールを買収した…そして、それを足掛かりに、もっと、世界で、自分の会社の地位を高めようとした…そして、そのために、クールで、アラブの王族を接待しようとした…でも、ここに、リスクが生じた…」


 「…リスク? …どんなリスクだ?…」


 「…もしかしたら、アラブの王族は、クールの買収や、その親会社の台北筆頭を買収しようとしているんじゃという噂が、葉敬の耳に入ったの…」


 「…台北筆頭の買収だと?…」


 「…アラブの諸国が、石油が、枯渇した将来を見据えて、色々、動き出しているのは、お姉さんも知ってるでしょ?…」


 「…知ってるさ…」


 ホントは、あまり知らんかったが、とりあえず、そう答えた…


 私は、そういう女だ…


 私は、そういう人間だ(笑)…


 「…だから、ホントは、日本で、クールを窓口にして、アラブの王族を接待するのは、リスク…葉敬にとっても、危ない橋を渡ることになる…」


 「…」


 「…でも、その危ない橋を渡らない限り、商売のチャンスはない…」


 「…どうしてだ?…」


 「…アラブの王族は金持ち…桁外れの大金持ち…それを客として、迎えることは、至上の喜び…これ以上のビジネスチャンスはない…」


 「…」


 「…でも、そのビジネスチャンスは、危険と隣り合わせ…もしかしたら、自分の会社も買収される危険もある…」


 「…」


 「…だから、今日、お姉さんの能力を試した…」


 「…私の能力?…」


 「…バニラがヤンに変装して、それを見破れるか否か…試した…」


 「…」


 「…それと、葉問…」


 「…葉問…」


 「…葉敬は、総力戦を挑もうとしているの…つまり、葉敬のファミリー全員で、アラブの王族に立ち向かおうとしているの…」


 リンダが、顔色を変えて宣言した…


 私は、驚くどころではなかった…


 気絶する寸前だった…


 あまりにも、話が大き過ぎたのだ…


 この平凡な矢田トモコにとって、大き過ぎたのだ…


 と、同時に、ふと、葉問を思い出した…


 葉問は、夫の葉尊の別人格だが、カッコイイ…


 もの凄く、カッコイイ…


 もしかしたら、またあの葉問と会えるかもしれない…


 そう考えると、私の大きな胸が期待に高まった…


 高まったのだ…



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