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矢田トモコ冒険譚 35歳のシンデレラ アラブの女神編  作者: トモサン


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103/192

35歳のシンデレラ アラブの女神編 103

矢口のお嬢様が、大きな口を開けて、笑う…


 私そっくりの顔で、大きな口を開けて、笑った…


 私は、正直、背筋が寒くなった…


 すると、


 「…矢田…そんな嬉しそうな顔をするな…」


 と、またも、皮肉を連発した…


 嫌みを連発した…


 が、


 もはや、私は、お嬢様の嫌みに、惑わされることは、なかった…


 すでに、このお嬢様の行動パターンは、読んでいる…


 6年前にも、煮え湯を飲まされた…


 そのときの、苦い思い出がある…


 だから、お嬢様の行動=嫌みに、惑わされることもなく、まずは、


 「…あったのですか?…」


 と、聞いた…


 「…なにが、あったんだ? …矢田?…」


 「…お嬢様、ごまかさないで、下さい…」


 「…ごまかす? アタシが?…」


 「…そうです…」


 私が、勢い込んで言うと、


 「…矢田…」


 と、矢口のお嬢様が、またも、ニヤリと、大きな口を開けて、笑った…


 「…あれば、アタシが、今、盗聴器を取り外して、手に持っているだろ?…」


 「…と言うことは、なかったんですね?…」


 「…そうだ…」


 お嬢様の言葉を聞いて、ホッとした…


 まさかとは、思うが、自宅に盗聴器が、仕掛けられたとあっては、堪ったものでは、ないからだ…


 が、


 私のそんな思いに、お嬢様は、冷や水を浴びせた…


 「…安心するのは、まだ早いゾ…矢田…」


 「…安心するのは、まだ早い?…」


 「…そうだ…」


 「…どうして、早いんですか?…」


 「…自宅に盗聴器を仕掛けるまでも、ないと、相手が、思ったかも、しれんからだ…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…矢田…オマエに聞けば、いい…」


 「…私に?…」


 「…そうだ…」


 「…」


 どういう意味だ?…


 「…つまり、それほど、オマエの身近な人間をアタシは、疑っているということだ…」


 矢口トモコが、その大きな口を開けて、言った…


 だから、迷わず、私は、


 「…リンダですか? …バニラですか?…」


 と、聞いた…


 私の言葉に、


 「…どっちだと、思う?…」


 と、矢口のお嬢様が、からかうように、聞いた…


 「…リ、リンダだと、思います…」


 私は、すかさず、答えた…


 「…リンダさんか?…」


 矢口のお嬢様が、楽しそうに、言う…


 「…矢田…どうして、オマエは、リンダさんが、盗聴器を仕掛けたかも、しれんと、思うんだ?…」


 「…それは、リンダが、他人だからです…」


 「…他人? どうして、他人なんだ?…」


 「…バニラは、義父の…葉敬の愛人です…その子供のマリアは、夫の葉尊の血の繋がった妹です…だから、バニラは、一族です…他人じゃ、ありません…」


 「…そうか…」


 「…だから、私は、リンダが、盗聴器を仕掛けたと、思ったんです…」


 私が、言うと、矢口のお嬢様は、黙った…


 「…」


 と、なにも、言わなかった…


 それから、しばらくして、


 「…矢田…」


 と、私に、声をかけた…


 「…なんでしょうか?…」


 「…だが、リンダさんは、オスマン殿下のお気に入りだゾ…オスマン殿下のお気に入りのリンダさんが、どうして、オマエの家に、盗聴器を仕掛けねば、ならんのだ?…」


 「…それは…」


 そう、尋ねられると、答えに窮した…


 正直、答えが、見つからんかった…


 すると、


 「…矢田…オマエの言うことは、わかる…」


 と、矢口のお嬢様が、言った…


 「…たしかに、リンダさんと、バニラさんを比べれば、リンダさんを、疑うのは、わかる…」


 「…違うのですか?…」


 「…矢田…オマエは、バカか?…」


 「…バカ? …どうして、この矢田が、バカなのですか?…」


 「…考えてみろ! 今、ここで、盗聴器は見つかったか?…」


 「…いえ…」


 「…だったら、誰が仕掛けたも、なにも、ないだろ?…」


 矢口トモコが、笑った…


 もう何度目か、わからないが、その大きな口を開けて、笑った…


 その、大きな口を見ながら、ようやく、この矢田にも、この矢口トモコの狙いが、わかった…


 どうして、この矢口トモコが、盗聴器を仕掛けた犯人が、誰か、私に、聞いたのか、わかったのだ…


 要するに、カマをかけたのだ…


 私が、誰を疑っているのか、カマをかけたのだ…


 …食えない女だ…


 とっさに、思った…


 …煮ても焼いても食えない女だ…


 心の底から、思った…


 ひょっとすると、たった今、この盗聴器発見機を持って、わざわざ、私の住む部屋を、歩き回ったのも、演技かも、しれないと思った…


 わざと、この部屋に盗聴器が、仕掛けられていると、思わせるために、私の目の前で、そんな行動を取ったのかと、疑ったのだ…


 すると、今度は、このお嬢様の目的を考えた…


 わざわざ、この家に、突然、やって来た目的を考えた…


 当然、なにか、目的がある…


 当たり前のことだ…


 目的もなく、突然、この矢田の家に、やって来るはずが、ないからだ…


 一体、その目的は?


 考えた…


 すると、当然ながら、あのセレブの保育園での、ことを、思った…


 あのとき、この矢口のお嬢様は、セレブの保育園で、園児たちに、お菓子を配った…


 当たり前だが、事前に、あのセレブの保育園の関係者に、お菓子を配ることを、提案し、了承を得たに違いなかった…


 あのAKBの恋するフォーチュンクッキーを、踊ることも、そうだ…


 セレブの保育園の関係者に、了承を得ずして、あんな真似は、できるわけがなかった…


 ということは、だ?


 一体、誰に、このお嬢様は、セレブの保育園の関係者に、会えるように、橋渡しをして、もらったか、だ…


 セッティングをしてもらったか、だ…


 私は、それに、気付いた…


 当たり前だが、いきなり、あのセレブの保育園に電話をかけて、今度、園児たちと、お遊戯大会を開きたいなんて、普通は、言えない…


 普通は、できない…


 当然ながら、誰か、橋渡しをした人物が、いる…


 いわゆる、コネ…


 誰か、仲介した人物が、いるに、決まっている…


 となると、その人物は、誰か?


 考えた…


 すると、脳裏に、自分でも、意外な人物の名前が、浮かんだ…


 これまで、思っても、みない人物の名前が浮かんだのだ…


 それは、葉尊…


 私の夫の葉尊だった…


 どうして、葉尊なのか?


 なぜなら、私は、以前、葉尊に呼ばれ、葉尊が、勤務する、クール本社の社長室で、この矢口トモコと、会ったことがある…


 あのとき、葉尊は、


 「…お姉さん…そっくりのひとがいます…」


 と、喜んで、私を本社に、呼び寄せた…


 私と、矢口のお嬢様を会わせるためだ…


 その結果、私は、このお嬢様と、クール本社の社長室で、6年振りに、再会した…


 私としては、二度と会いたくない相手だったが、この矢口のお嬢様に、とっては、どうだったろうか?


 もちろん、夫の葉尊に、このお嬢様は、以前、妻の矢田さんと、面識があると、言いたかったのかもしれない…


 が、


 それだけでは、なかったのかもしれない…


 夫の葉尊と知り合うことで、大げさにいえば、人脈を得る…


 例えば、葉尊の母違いの妹、マリアが、あのセレブの保育園に通っていることを、事前に、調べ上げていたとしたら、どうだ?


 なにより、後で知ったことだが、お嬢様が、社長を務める激安スーパー、スーパージャパンは、私の義父の葉敬が、買収を狙っているそうだ…


 このお嬢様のことだ…


 葉敬のことを、できる限り、調べ上げたに、違いない…


 その結果、私のことが、わかった…


 この矢田トモコが、葉敬の息子、葉尊の妻であることを知った…


 だから、きっと、それを契機に、私に接近したに違いなかった…


 そのために、夫の葉尊に接近したに違いなかった…


 すべては、葉敬に対抗するためだ…


 自分のスーパー、スーパージャパンが、買収されかねないことに、対抗するためだ…


 私は、思った…


 だから、


 「…葉尊ですね?…」


 と、突然、大声で、言った…


 「…葉尊氏?…彼が、どうかしたのか?…」


 「…お嬢様…ごまかさないで、下さい…」


 「…矢田…アタシが、なにを、ごまかすというんだ?…」


 「…お嬢様を、マリアの通うセレブの保育園に、紹介した人物です…」


 「…紹介した人物?…」


 「…だって、そうでしょ? …お嬢様が、あのセレブの保育園に現れたのだって、誰かの紹介がなければ、あの場に、立てなかったはずです…しかも、あの壇上で、AKBの恋するフォーチュンクッキーを踊ろうなんて、提案をするぐらいだから、当然、お嬢様を、あのセレブの保育園の関係者に紹介した人物は、相当の大物に決まっています…そもそも、お金のある人物の紹介がなければ、お嬢様は、あの舞台にMCとして、立てなかったに相違ありません…そして、それも、夫の葉尊なら、できます…」


 私は、勢い込んで、言った…


 考えられない…


 あるいは、


 考えたくないことだったが、夫の葉尊が、この矢口のお嬢様を、あのセレブの保育園の関係者に紹介したと、考えるのが、自然…


 実に、自然だった…


 そして、そう考えれば、あのとき、葉問が、突然、現れたのも、また納得した…


 あのとき、リンダに化けたバニラと闘ったファラドの前に、突然、葉問が、現れたのも、また納得できた…


 葉尊のもう一つの人格である、葉問…


 葉尊が、知るところは、また、葉問も知るところになる…


 つまりは、あのセレブの保育園で、なにか、起こることを、事前に知っていたということだ…


 あるいは、


 なにか、起こるかもしれないと、知っていたということだ…


 私が、そこまで、考えたとき、


 「…矢田…オマエも、案外、バカじゃないな…」


 と、例によって、上から目線の、お嬢様の声が、聞こえてきた…


 「…そうだ…葉尊氏だ…オマエの夫だ…」


 矢口のお嬢様が、断言した…


 「…葉尊氏に、頼んだ…すると、快く、紹介してくれた…」


 矢口のお嬢様が、大きな口を開けて、笑った…


 たしかに、このお嬢様が、夫の葉尊に頼まれれば、葉尊は、断れなかったに違いない…


 この矢口トモコは、私の友人…


 ホントは、友人でもなんでもなく、ただの知り合いなんだが、この調子のいい、お嬢様は、そう、葉尊に、自分を紹介したに違いない…


 そして、なにより、その外見…


 この矢口トモコは、私、矢田トモコにそっくり…


 外見が、瓜二つだ…


 姉妹に見られても、おかしくはない…


 いや、


 おかしくはないのではなく、誰もが、姉妹に思う…


 血の繋がりがあると、考える…


 それほど、似ている…


 ホントは、赤の他人で、なんの血の繋がりがないにも、かかわらず、だ…


 そんな、私そっくりの外見を持つ、この矢口のお嬢様に、なにかを、頼まれれば、夫の葉尊も、断れなかったに違いない…


 この矢口のお嬢様の頼みを断ることは、私の頼みを断るのも、同然だからだ…


 だから、断れない…


 それを、この矢口のお嬢様は、狙ったに違いなかった…


 そして、なにより、その依頼が、たいしたことではないことも、大きいに違いない…


 ただ、セレブの保育園に、自分を紹介してくれと、頼まれただけだ…


 しかも、この矢口のお嬢様は、スーパージャパンの社長…


 日本中に知られた、激安スーパーの社長だ…


 社会的地位もある…


 だから、いかに、セレブの子弟の通う保育園でも、紹介するのに、躊躇う人物ではない…


 ゆえに、紹介できる…


 葉尊は、そう考えたに違いないし、また、葉尊が、そう考えると、このお嬢様は、見抜いたに違いなかった…


 だから、お嬢様は、あの場に立てた…


 あの場で、園児たちに、お菓子を配ることが、できた…


 そういうことだ…


 と、ここまで、考えて、気付いた…


 夫の葉尊のことを、だ…


 夫の葉尊が、この矢口のお嬢様を、マリアの通う、あのセレブの保育園に紹介したのが、事実だとすれば、その時点では、夫の葉尊は、まだ、実父の葉敬が、この矢口のお嬢様の会社、スーパージャパンの買収を画策していることを、知らなかったことになる…


 普通に、考えて、自分の父が、買収を考えている、会社の当事者のために、なにかをすることは、ありえない…


 考えにくい…


 いわば、敵…


 相手は、敵だからだ…


 敵のために、塩を送ることは、考えにくい…


 ずばり、ありえない…


 が、


 絶対ではない…


 なぜ、絶対ではないかと、いえば、葉尊が、スーパージャパンの買収に反対している可能性もあるからだ…


 もしも、事前に、葉尊が、実父の葉敬が、スーパージャパンの買収を計画していることを知っていて、あえて、スーパージャパンの社長である、この矢口トモコを、あのセレブの保育園に紹介したとすれば、葉尊が、スーパージャパンの買収に反対しているということではないか?


 それゆえ、スーパージャパンの社長である、矢口トモコに力を貸した…


 そう読めるのではないか?


 あるいは、


 それと、これとは、別と考えることも、できる…


 仕事と、プライベートは、別と考えるように、実父の葉敬の、スーパージャパンの買収と、矢口のお嬢様を、セレブの保育園に紹介するのは、別と、考えることも、できる…


 が、


 普通に、考えて、その可能性は、低い…


 低いと言わざるを得ない…


 それは、例えば、私が、誰か、友人と、ケンカしたとする…


 絶交したとする…


 そして、夫の葉尊も、また、その友人を知っていたとする…


 葉尊の元からの友人ではなく、あくまで、私を介して、知っていたとする…


 と、すると、どうだ?


 私が、その友人と絶交すれば、やはり、夫の葉尊も、その友人とは、微妙になる…


 微妙な関係になる…


 だから、例えば、街中で、偶然、会っても、顔を背けるとか…


 そういう行動を取りかねない…


 あくまで、妻が、その友人と絶交したに、過ぎないのだが、夫の葉尊も、その友人と、これまで通り、付き合うことは、無理…


 っていうか、できない…


 そういうことだ…


 私は、矢口のお嬢様の顔を見ながら、そんなことを、考えた…


 私そっくりの顔を見ながら、そんなことを、考え続けた…


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