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この小さな花があの海に届きますように  作者: 富田 来蔵 / Kizō Tomita


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第19話「雨上がりの虹の行方」

雨上がりの空。雲の隙間から柔らかな日差しが差し込み、

海面を金色に照らしている。

仁はふと響と航の方を見る。二人は楽しそうに海鮮を頬張り、笑顔で話していた。


「いこっか、ヒトシ」


「そうだな。日差しが、とてもきれいだ」


会計を済ませる間、エミリーは意を決したような表情で航に話しかける。


「ワタル、コーチから伝言。『いつでも待ってるから、気が向いたら来てね』って」


「こっちが勝手にやめたのに、そんなことできるわけ……」

すかさず仁がおどけて口を挟む。


「まーったく、おまえは人気者だからな。ほっとかれるわけないだろ」


「確かに、伝えたからね」


そう言いながら、仁とエミリーは「フライングフィッシュ」の

扉の外へ歩いていった。



響はグラスの氷を静かに回す。

航は、その音を聞きながら席を立とうとしたが、やめる。


「エミリーって、本当にわかんない。お兄ちゃんも、なんで何も言わなかったの?」


「まあな、でも最初から仁はそういうことだったと思う」


「最初からって……なんで思いをすぐ伝えなかったの?」


「だって、エミリーは最初ほとんど日本語話せなかったんだぞ」


「あー、あのバカ兄。ちゃんと英語勉強しないから」


航は思わず息を吐いた。そういうところが、昔から仁だった。


「結局、エミリーは言葉が分からないから、俺と話すしかなかっただけだ」

「あいつら、両方ともまっすぐだ。本当にお似合いだよ」


響は、エミリーの気持ちはそれだけじゃなかった気がしていた――


「そうね、私もお兄ちゃんを応援したい。良いと思う」

そう思う自分が、少しずるいような気もした。


「俺は、仁がすごいと思う」


航は少し間を置いて言葉を続けた。


「あいつにはブレがない。逃げている俺とは大違いだ」


「私は、迷って当然だと思う」


響はすぐに返す。


「航は、物心ついた時からずっと泳いできたんでしょ?」


「まあな……」


正直、俺のすべては水泳しかない。

結局、失うのが怖いだけなのかもしれない。


そう言って、氷の溶けきったアイスコーヒーを一気に飲み干す。

その味は、やはり少し薄かった。


「航は、ぶれてなんかない」


響は言葉を選ぶように続けた。


「むしろ、こんなにも一途に、

一つのことに真剣に向き合えた人の方が少ないと思う」

「だからね……」


小さく息を吸い、響は続ける。


「航は、もっと自信を持っていい。逃げてなんかないよ」


「わかった」

航は小さく頷いた。


「自分のことは、自分で決める。したいことは、したいようにする。それだけだ」


そう言うと、席を立ち上がる。

二人は外に出て、空に向かって伸びをした。

晴れ間にきらきら光る中、虹がゆっくりと空に架かっている。


濡れた砂浜をゆっくり歩くと、エミリーと仁がこちらを見ている。

二人はゆっくり近づいてきた。


「航、何かいいことあったか。いい顔になってるな」


「そうか。俺はいつでもこんな感じだ。仁こそ、にやにやしっぱなしじゃないか」


「それは、お前らの方だろ。お熱いことだな」


仁は繋いだ航と響の手を見て答えた。

「それじゃあ」と言い残し、航たちは別れた。



仁とエミリーは砂浜を歩き、虹が静かに消えゆく空を見上げる。

エミリーがぽつりとつぶやく。


「ヒトシ、気にしてるよね……」


「まあ、妹はあんな感じだし、航とは昔からの付き合いだし、気にするな」

仁の言葉に、少しほっとしたようにエミリーがうなずく。


「うん、ありがとう。良かった、ヒトシ」


不安げに目を伏せるエミリーに、仁はまっすぐ視線を向ける。


「改めて言う。お前が好きだ、エミリー。俺と付き合え」


そう言って、仁はエミリーの頬に軽くキスをした。


“Thank you, but… not there.”

エミリーは小さく微笑み、指先で自分の唇を示す。

“Here.”


そのまま二人は長いキスを交わした。

虹は二人を祝福するかのように、静かに空に溶けていった。


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