嵌められた
それは突然の出来事だった。
『ギルド』で組んだ即席パーティで遺跡を調査し終えた帰り道の最中、ガコン、と。
アレクの背後でスイッチが押される音がしたのだ。
アレクが振り返れば、そこにはにこやかな顔をしてスイッチを押している少年と、他のパーティメンバーがいる。
そして、アレクが困惑するよりも早く、事態は起きた。
石組みの遺跡の壁にいくつもの穴が開くと、そこから一斉に矢が発射されたのだ。
そして、それを予期してたかのようにアレクを除いた少年らの周りにだけ、魔法の障壁が張られる。
アレクの職業は『斥候』、所謂罠の発見や、敵の接近を察知を主な仕事とするサポート職、つまり、この状況ではどうしようもない。
最後の抵抗とばかりに羽織っていた『黒龍の隠れ蓑』で身を包むが、身体を全て隠しきれるような面積は無い。
両足に合計7本もの矢が突き刺さる。
「ぐっ・・・」
痛みから叫びだしたくなるが、そんな事をすればモンスターを呼び寄せる事になるため、歯を食いしばって我慢する。
すると、魔法障壁が解かれ、パーティのリーダーであった少年がアレクの元に歩いてきた。
「流石です、アレクさん。普通の『斥候』であれば、もう死んでいてもおかしくない」
青色の髪の毛をした優しそうな少年、リウイは賞賛の篭った声音で呟く。
「どういう事だ・・・あれは罠だと教えていた筈だが」
苦しげな声音でアレクは呟く。
リウイは「ええ、わかっていますとも」と、返して腰から剣を引き抜いた。
そこまで見れば、アレクとて相手が何をしようとしているのかは理解できる。
殺すつもりだ。
役に立たない脚を無理矢理動かして、咄嗟に飛び退くがそれだけで意識を失いそうな激痛が走る。
だが、アレクに意識を失っている暇など無い。
リウイの背後にいた二人の少女、赤い髪のレナと金髪のリーザが追撃で魔法を放ってきたのだ。
無詠唱で放たれた炎と氷の魔法は、それでも人を殺害するには十分な威力を持ってアレクに直撃する。
「っ、がああああ!!!」
右腕は焼け落ち、左足が凍りつく。
最早、耐えることも出来ずに叫び声をあげてしまうアレクに、モンスターの事を気にする余裕は無かった。
そして、更に信じられない事態がアレクの身体に発生する。
残っていた腕に黒い斑点が浮かび始めたかと思うと、ドンドン醜く形を変えていくのだ。
それと同時に身体も小さく縮んでいき、背中から何かが生えてくるような異様な感触がある。
「なっ・・・これは・・・いや、ちょうどいいか。二人とも、不慮の事故により冒険者『アレク』は魔物、『小悪魔』へと変わってしまった、この場で処理する」
「了解です」
「わかったよ、リウイ様」
アレクには意味がわからなかった。
いや、恐らくは世界中を見渡したところでこの状況を理解できる奴など居ないだろう。
醜く変わっていく身体で、必死に逃げる。
片腕が無ければ、片足も動かないので無様な物だが、不幸中の幸いか小さくなってゆく身体を動かすのは先程までより楽だった。
ちょこまかと、地を這いずる虫のように迫る魔法を避ける。
後ろから迫り来る濃密な死の予感に怯えながら、アレクは適当に見つけた遺跡の罠をめちゃくちゃに起動した。
そして、弓矢やら槍やらと色んな物が起動される中、彼の足元に穴が開く。
「くそ!撤退するよ!どうせ、アレクはもういないんだ!高額な金を払う必要も、報酬を分ける必要も無い!」
そんな声を背後に、アレクは遺跡の地下へと墜落していった。