モンスターへの変貌
パラリ、そんな音と共にこめかみを軽く叩く感触で目を覚ました。
アレクは起き上がると周囲を確認するように見渡す。
見えるのは先程まで居た遺跡の上層部、探索で踏み込んだ下層部、そのどれとも違う石組みの壁ばかりだ。
不思議な事に、手には松明も何も持っていない筈なのにさっきまでよりもよく見える。
いつもよりも低い視点、異形へと変わり果てた左腕と右足。
そして何より、背中に生えた小さな翼。
逃げる間際に聞いたリウイの言葉、アレクは自分がモンスター、『小悪魔』へと変わってしまった事を冷静に認識した。
原因はわからない、が、予想はつく。
この遺跡、『アステル』は発見されてから50年以上経つというのに、未だに全貌がわからない程、謎の多い場所だ。
罠の一つに人をモンスターを変えるものがあってもおかしくない。
『斥候』としてだけでなく『モンスター学者』としての一面も持つアレクは、思考の波を漂いかけて、無理矢理帰ってくる。
今は、安全の確保が先だ。
そう考えて、『斥候』用の『スキル』、《サーチ》を発動、周囲にモンスターが居ないかどうかを確認する。
敵が居ない事がわかり、アレクは安堵の溜息をもらした。
そして、ついでとばかりに現在の自分がどうなっているかを確認する為に冒険者としての、基本『スキル』、《メモリア》を発動しようとする。
《メモリア》は自分の名前や、状態などを示せる『スキル』だ。
他者にも見せられる事から、自分の身分証明などに使われる。
他にも、討伐したモンスターが表示されるため、クエストのクリア報告にも使われる事が多い。
だが、発動しようとして、アレクは自分が声を出せない事を初めて自覚した。
《メモリア》は、《サーチ》とは違い詠唱を必要とする『スキル』だ、声が出せなければ発動出来ない。
アレクは何度か試した後で、自分はモンスターなのだという事を思い出した。
人間、アレク自身も含めて、彼らが使う言葉は『シュルティ』と呼ばれる、言葉を司る神、『ヴァーチ』により生み出されたものだ。
そして、モンスターを憎む神である『ヴァーチ』が生み出したものは、幾ら知性があろうとモンスターでは使う事が出来ない。
アレクは、モンスターの研究をしていて良かったなぁと思いながら、知性のある人型のモンスターなどが使う言葉、『アルコーン』で詠唱を呟く。
「『我を示せ』」
すると、『アルコーン』文字でアレク自身の情報が空中に光の文字で表される。
名前:アレク・ヘカテ
種族:『小悪魔』
年齢:17
状態:衰弱、右腕左足欠損、貧血
どうやら、アレクは呪いなどで変えられたわけではなく、根本的に種族が変わってしまっているようであった。
戻る方法がわからない事に落胆しつつも、アレクは《メモリア》を解除、とりあえずは傷を治す事にする。
モンスターはどんな種族であろうと、自己再生系の『スキル』を兼ね備えているのは有名な話だ。
が、再生に特化しているわけでもない『小悪魔』が欠損した手足を治せるとも思えない。
と、なれば方法はひとつだけ。
『進化』だ。
モンスターは基本的にモンスター同士では争わない。
恐らく、モンスターを食うより人間や動物を食った方が美味しいからだ。
本能的にモンスター同士、同種喰らいはしないのだろう。
ただ、時々、モンスターの中にも亜種は現れる。
マズイにも関わらず、嬉々として仲間を食べ続けるのだ。
まるで、それが強くなるための近道だと知っているかのように。
そして、そういった存在がモンスターから、魔物へと進化し、知性を持った化け物へと変わっていく。
で、あるならばだ。
アレクはそれを自らの意思で行えばいい。
いつも通りにモンスターを殺し、普段ならば持ち帰る素材をその場で喰らう。
恐らく、『小悪魔』系統の進化ならば、いつか飛べる種族になる。
飛べるようになったら、天井をぶち抜いてでも再び、町に戻るのだ。
アレクをこんな目に合わせた奴らに復讐をする為に。
アレクは瞳に黒い炎を滾らせて、天井を睨んだ。




