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第六十三話 懐かしい人々

 クラス会当日、私たちは十分遅れぐらいで、会場に着いた。

「そんな時間通り、きっちり行くこともないだろ?」

 と、匠が家を出るのを遅らせたせいでもあるけど。凛音に店の前で連絡すると、店の外に出てきてくれた。

「うわー、楓、綺麗!」

 凛音がまんざらお世辞でもなさそうに、目を見張る。今日の私の服装はシンプルなミニ丈の白に近いベージュのワンピースに、紺のストールとシンプルだけど、ハーフアップの髪形と、「清楚で知的な女医風メイク」は匠の手によるものだ。一緒に店に入ろうとする匠を、私は押しとどめる。

「匠は、もう五分してから、入ってよ。一緒に来たって思われたくないから。」

「なんだよ、それ。」

 匠はぶつぶつ言うけど、素直に足を止め、その隙に私は凛音と腕を組んで、店に入った。

 会場に入ると、空気が一瞬止まる。

「……誰かと思ったら、望月?」

 男の子のつぶやく声が聞こえる。私は急に恥ずかしくなって、凛音の隣に腰をかける。

 ちょっと会場の空気が重苦しくなって、私はクラス会に出席したこと、やや後悔する。……あんな転校の仕方して出て行ったあとに、こんな不意打ちで現れたら、みんなどうしていいか、わからないよね?

「……海外行ったって聞いてたけど、いつこっちに戻ってきた?」

 隣の席の男の子に、そう尋ねられる。

「大学は、こっちに戻ってきたの。」

 私は答えると、ふうん、と男の子は黙り込んで、私の姿を上から下までじろじろ眺める。

「……大学は、どこ?」

 それに答えようと口を開けようとすると、キャーッという悲鳴が会場を包んだ。

「元気だった?みんな。」

 王子様スマイルを浮かべた匠が、店に入ってきたのだ。私は吹き出しそうになる顔をこらえて、横を向く。女の子の大歓迎を受けて、会場は騒然とする。男の子は当然、面白くなさそうだ。匠はあんなキャラやってたせいで、高校の男友達はほとんどいない。

「相変わらず、みんな綺麗だね。描いてあげたいけど、今日はスケッチブックも鉛筆も無いんだ、……ついでに携帯も忘れちゃった、ごめんね。」

 しらじらしい匠の声が聞こえる。……匠の携帯は、私のカバンの中にしっかり入ってる。電車の中で、匠に預けられたのだ。

「どうせ、連絡先よこせって、女子がうるさいだろうから、楓、預かっておいて。」

 そう言われた。

 匠は女の子に囲まれて、

「匠くん、髪伸びたね!すごく似合う!」

「この間、賞取ったの、新聞で見たよ!」

 とか、いろんな声をかけられている。そんな中、幹事の凛音が声を張り上げる。

「はい!みんな揃ったから、自己紹介するよ!……自己紹介っても、名前は知ってるだろうけど、大学とか現在の近況をひとりずつコメントしてね!」

 凛音の仕切りで、同窓会はスムーズに進んでいく。私の番が来て、少し緊張するけど、私が大学名を言うと、会場がどよめいた。

「え?医学部?医者になんの?望月?」

 隣に座る男の子……佐山くんが、驚いたように声を上げる。

「うん……一応、その予定。」

「そっか……、実はさ、俺、最近、腰が痛いんだよね。これって、なにが原因?」

「さあ……、腰痛って、骨から来るものだけじゃなくて、内臓系の疾患から来るものもあるから、湿布とかでごまかさないで、ちゃんと内科にかかったほうがいいよ。」

 そう言うと、そうか…、と佐山くんがうなずく。佐山くんの隣に座る男の子は、

「俺はさ……最近、腹痛が時々するんだよね。」

 とか話しかけてくる。医学部に行ってるだけで、まだ、その辺の大学生と変わらないんだけどな、と思いながら、話を聞いてあげる。

「私はまだ学生で、医者じゃないし、診断とかできないから、ちゃんと身体に不安があるなら、お医者さんにかかったほうがいいよ。」

 と言うのだけど、あとからあとから、健康相談が止まらない。膝が痛いの、耳が痛いの、いろいろ訴えてくる。そのほとんどが男子だ。みんな二十歳と若くても、健康に対して、いろんな不安を抱えてるもんなんだな、と私は感じ入る。予防医学をやりたい私は、恰好の研究材料とばかりに、割り切ってみんなの健康相談を聞く。

「……そっか、聞いてもらうだけでも、結構安心するな。連絡先、聞いてもいい?また相談に乗ってほしい。」

 話のあとには、必ず言われる。

「まだ、ただの大学生だから、たいしたアドバイスできないよ?あと、ちゃんと診察受けて、その結果を教えてくれると、研究に役立つから、ぜひ教えてね。」

 そう言って、男の子たちと連絡先を交換する。同窓会が盛り上がっても、私の周りは健康相談を求める男子ばかりだ。医者ってすごいな、嫌われものだったはずの私でも、こんなに必要とされるんだ、と改めて思っていると、凛音が、

「ちょっと!あんたたち、いい加減にしなよ。ドクター楓の健康相談は、もう終了!」

 と、その場から私を連れだした。

「いや、まだドクターじゃないしね。……でも、みんな、若いのにいろいろ健康に不安を抱えてるんだな、って勉強になったよ。」

 私がそう言うと、凛音はため息をついた。

「楓って、そういうとこ、ほんと馬鹿だよね。無防備っていうか……。匠くんが楓をクラス会に出したがらない理由もわかるわ。」

 と意味の分からないことをいう。

「今日は、楓は何しに来たの?」

 凛音に尋ねられる。

「えっと、帆乃夏と話すためだった。」

 私は当初の目的を思い出す。幸い、帆乃夏は匠の取り巻きには加わってなかったので、凛音と二人で帆乃夏に近づき、再会を喜びあう。

「久しぶりだね!あの日以来?」

「そうだね…。」

 バスケの冬の大会を最後に、帆乃夏には会っていない。

「まだ、あっちでもバスケ見に行ってんの?」

「行ってる行ってる!最近は彼氏と一緒に行ってるよ!」

「へえー!彼氏の写真見せてよ!」

 凛音が言うと、帆乃夏は携帯に収めてあるツーショット写真を見せてくれた。

「へえ!帆乃夏の彼にしちゃ結構イケメン!どうやってゲットしたの?」

「どういう意味よ、もう。」

 凛音の失礼な発言に、帆乃夏がパンチする真似をして、笑う。

「……実はね、この人、友達の彼氏だったんだけど、取っちゃった。」

 と帆乃夏はあっけらかんといって、私はあっけにとられる。

「どうやって?ちょっと聞かせなさいよ!」

 と凛音がつっこんだので、帆乃夏が話してくれたんだけど…。帆乃夏が大学に入って、初めての友達の彼氏だったこの人を、帆乃夏は最初からいいな、と思っていたらしい。そうしたら、友達が、ほかの男の子と浮気しているのがわかり…、そして。

「その友達の浮気現場に、わざと彼氏が遭遇するようにセッティングしたの。」

 とニヤッと黒い笑みをを浮かべて、帆乃夏が言って、その表情に、私はちょっとぞくっとする。そう言えば、匠が帆乃夏は平気で友達を陥れる子、って言ってたっけ、と思い出す。……でも、浮気したのは、そもそも、その子が悪いんだもんね。

「それで、ショック受けてるこの人を、私が飲みに連れだしたり、バスケの試合の観戦に誘ったりして、それで、だんだんと、ね。」

「へえー、やるぅ。」

 凛音は楽しそうに言っている。私が言葉もなく驚いてると、凛音がじろっと私を見て言う。

「あのね、これぐらい普通だからね!黙ってても、イケメンが次から次へと寄ってくる楓には、この女子の努力がわかんないのよ!」

 と言われてしまう。

「え……、楓、荒川くんと別れたあと、また彼氏できたの?またイケメンなの?どんな人?写真見せて!」

 帆乃夏に突っ込まれてしまう。

「ごめん……、写真、持ってない。」

 私はうつむく。……この会場にいるんだけど、とは恥ずかしくて言えない。

「あとで撮って送るから、帆乃夏、連絡先交換して?」

 そう言って、帆乃夏と連絡先を交換する。凛音はそれを見て、ニヤニヤしている。帆乃夏がほかの友達に呼ばれて行ってしまった後、凛音と私は、会場の隅っこで話をする。

「どうよ、匠くんとの生活は。」

「ほとんどキッチンに立たせてもらえない以外は、不満はないかなあ。」

「そうなんだー。うらやましい。ていうかもったいない。私も楓のような嫁が欲しいのに。料理上手なのにね!」

 そう言っていると、隣に佐山くんが来て、座った。

「あ……佐山くん、また健康相談?」

 とか私が言うと、

「あー、いや。なんか世間話でもしようかな、と思って。」

 と佐山くんが言ってくる。

「……しかし、望月、綺麗になったな。あのころ、なんでこんな地味な子が荒川とつきあうんだろうと思ってたけど、やっぱ、アイツ、見る目あったんだな。」

 とか佐山くんに言われて、私は返答にこまる。

「荒川くん、元気かな?私、転校してから、ずっと会ってないからな。」

 と小さな声で言うと、

「なんか、プロに入ってから大きいケガして、そのあと、なかなか調子が上がらないみたいだな。俺もよく知らないけど、期待ほどの活躍はできてないって聞いたわ。」

「そっか……。なかなか難しい世界だね。」

「だなあ……。」

 なんとなく佐山くんとしんみりする。タケルには、憎たらしいほど元気でいてほしい、っていうのは、私の自己満足なんだろうな。……今でも、小松さんと一緒にいるのかな?私は東北にいるという、タケルに思いを馳せる。

「でもさ、望月、なんで医者になろうと思ったわけ?」

 佐山くんに聞かれる。

「うーん、私、初恋の子が突然死して、それがきっかけで、そういう悲しいことを未然に防ぎたいって思うようになって、それで、かなあ。」

「そっか。そういう悲しいことを抱えてたから、なんか、高校の時の望月って、翳があったんだな。でも、その時から比べて、ずいぶん変わったな。」

「そうかな?」

 私は首を傾げた。 

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