第七十六話「対話」
スパイダーマンザライド無くなんの最悪なんだけど
壊斗は、どこかへと向かうトパーズに、黙ってついて行った。
「カイト連れてきたぞ」
トパーズは、そっと扉を開き、中にいる皆にそう知らせた。
「カイトッ……良かった……」
エメルは、久しくみた壊斗の顔を見て、安堵したのか涙を零した。
「クマ……ひどいな」
壊斗の見た目から、数日は眠れていない事が見受けられた。その事を、結輝が静かに指摘した。
「……話、始めようぜ」
…
「この二日間、色んな事が起こった」
トパーズは、何から話すか。と指で膝をトントンと打ち付けた。
「まず初めに、カイトに誤解させねぇよう、先に話しときてぇ事がある」
壊斗は、黙って頷いた。
「死んじまったランコとサトルだが……オレ達は最初、ユウキがやったんじゃねぇかって思っちまったんだ。……じゃねぇと辻褄が合わねぇと思った。だから、暫くオレの《縄盾》で縛りつけておいた。その後、無事に誤解は解けたけどな」
「……どうして誤解が解けた?」
「それは……後だ。今はとりあえず、誤解は解けた。ただそう思ってくれ。他に優先すべき話がある」
「マドカを、殺した奴らの事か……?」
「……口で言うより、実際に見てもらった方が早ぇ」
そう言うと、トパーズは一枚の紙切れを壊斗に手渡した。
「何だ、これ……」
「この手紙、マドカの口に挟まってたんだ」
───そういえば……確かに何か挟まってたような……
壊斗は、円香の口に何かが挟まっている事自体には気づいていたが、それが何なのかまでは考えられなかった。そんな余裕は無かった。
「まずは、一通り目を通してみてくれ」
壊斗は、言われるがまま折り畳まれた紙切れを開き、目を通した。
『ガーネット、もとい、クザキカイトへ。5月6日、夕刻。グランヨークの旧オフィス街で待つ。そこには一人で来ること。来ない、もしくは仲間を引き連れて来た場合、これと同じように、お前の周りの人間が消えることになるだろう』
壊斗は怒りに身を震わせていた。
「5月6日、明日だ。一応、お前の意志を聞きたかったから、蹴ってでも起こした。……悪かったな」
トパーズは、壊斗に謝る。すると、横から結輝が割って入った。
「……壊斗。お前がどうするか、目を見れば分かる。……けどな、これだけは分かってて欲しい。この手紙は確実に罠だ。日時を指定してくるって事は、何かしらの策を練ってる筈だ。念入りな準備をしてるに決まってる。……このまま行った所で、蜘蛛の巣に自ら突っ込むようなもんだ」
結輝は冷静に分析し、壊斗に言い聞かせた。
「───でも」
「"今"、では無くても良いんじゃないでしょうか」
男は「失礼」と話に割り込む。
「……アンタ……前、どこかで……」
「……覚えていてくれましたか」
メガネの男は微笑んだ。
「自己紹介が遅れましたね。私、『相模原幸志郎』と申します。以後、お見知り置きを」
「……この人は、暫くの間、俺たちに協力してくれるそうだ」
「こいつは強ぇし、頭も良い。良い戦力になってくれるだろうぜ」
トパーズは、唾を飲み込み、言葉を続けた。
「オレとしては……オレたちとしては、行かないで欲しい。あまりに無謀過ぎる。オレは、今じゃなくても、いつか必ず報復をしてやろうと思ってる。ただ……」
トパーズは一呼吸おいた。
「ただ、もしそれでも行くってんなら、必ずオレたちに相談してくれ」
「指定されたのは夕刻。再度話し合う時間は十分にある」
結輝も、トパーズの話に乗っかった。
するとそこで、エメルが「待って」と話を止めた。
「私は……これ以上カイトの……皆の傷つく姿は見たくないよ」
エメルの目には涙が浮かんでいたが、壊斗に悟られないよう、目を逸らし、必死に声色を整えた。
「……分かった、分かったよ」
壊斗は、俯き、そう返答した。
「───円香は……」
暫く沈黙が続き、壊斗が顔を上げて尋ねた。
「……そこのベッドに寝てる」
トパーズが親指し示した方角に視線を移すと、人形のように隣のベッドに腰掛ける昌幸と、布団で眠る円香の姿があった。その、いつもと何ら変わりのない円香の寝顔に、壊斗はいくつもの記憶がフラッシュバックした。
『アナタ、ドナタですか』
『私もその旅に連れてってください』
『私、今が一番楽しい……! 皆と一緒だから……!!』
壊斗は、声を殺して泣いた。話を続けようとしても、涙が止まらなかった。そんな壊斗の背中を、トパーズが優しく摩った。
「……キレイなままだろ? エメラルドが、こまめに回復してやってたんだ。だから、今の今まで死後硬直で身体が固まる事も、腐る事も無かった」
そんな言葉が耳に入らない程、壊斗は声が漏れるくらい泣いた。自力で抑えられなかった。
それから暫くした後、壊斗は泣き止み、皆に謝った。話を止めてごめん。と。そして、この一言を言い残した。
「最後に一言言わせてくれ。円香は、このまま東雲家に送り届ける。確実に。それと……右月さんに貰った金の残りも全て返却する。俺たちにこの金を使う資格は無い」
扉の閉まり際にそう言い残し、自室へ戻った。
「……本当に行かせたくなければ、あのまま明日が過ぎるまで、壊斗を起こさなければ良かったんじゃないか」
「……分かってて聞くな。オレたちは、カイトに頼む事は出来ても、強制する事は出来ねぇ。そんな事……出来る訳ねぇだろ」
トパーズは生気無く言葉を吐いた。
「大分、言葉を選んでいたようですが、あの人の事、本当に工崎さんに伝えなくて良かったんですか?」
「……あぁ。それこそ、今すぐに殺し合いが始まっちまう」
…
翌日、トパーズは、嫌な予感と共に目を覚ました。ホテル内のどこを探しても、壊斗の姿はなく、電話を掛けても、全く繋がらなかった。
「くそ……やっぱ、行っちまったか」
トパーズは、眉間にシワを寄せ、震える唇を隠すように手で覆った。
「皆、カイトはやっぱり行っちまったみてぇだ。コウシロウも居ねぇ。きっと、カイトが連れて二人で……」
「結局、こうなんのか……」
結輝も、大きなため息をつく。
「……エメル。俺が前に言った事、ちゃんと覚えてるか?」
エメルは、事前に結輝に言われた事を思い出した。
…
『敵は、あそこで円香を降ろしたんだ。俺たちがこのホテルに住み着いている事を知られている。このままこのホテルに滞在するのはあまりに危険だ。だから、敵に気づかれないでここから離れる為に、別のホテルを手配してある。そして、万が一に備え、安全に移動する為、タクシーを裏口に待機させる。俺たちと別れたら、敵に気づかれないよう、すぐに乗り込め。ただし、これはあくまで最悪の場合だ。全員揃ってタクシーに乗れる事を祈るしかない』
『うん、分かった』
…
「……うん、大丈夫。しっかりと覚えてるよ」
「……よし、行こう。トパーズ」
「───ユウキ。最終確認だが、本当に行く気か? オレだって、運転くらい……」
「あぁ、行くさ。囮にでも使ってくれ」
「いや、断言しろ。死なねぇって。そう言えねぇなら、絶対についてこさせねぇ」
トパーズ真剣な眼差しに、結輝は一瞬キョトンとした顔になった。
「……分かった。絶対死なねぇよ」
「よし。まだ夕刻まで時間はある。すぐにカイトとコウシロウを連れ戻すぞ」
「だな」
「ホテル内にも敵が待ち伏せしてる可能性がある。オレたちはエメラルドたちがタクシーに乗り込むのを見届けてから、車に乗り込む。だったな?」
「その通りだ」
トパーズが先頭を歩き、万全の注意をはらいながら、エメルたちがタクシーに乗り込むところまで見届けた。
「……エメラルド、マドカたちを頼んだ」
三人がタクシーに乗り込む前に、トパーズはそう声掛けをした。
「分かった」
タクシーが発進したのをしっかりと見届け、トパーズ達は、すぐに自分たちの車を発進させた。




