第五話「未開の地、メリュドルス」
店を出た後直ぐに俺はフードを被り、エメルに帽子を被らせた。
「これからどうするの?早速このお金使っちゃう…?」
エメルは悪そうな顔で言う。
「いいや そんな事しない」
「え、いくら珍しいからって、コレクションするつもりなの?私たち無一文じゃない…」
「ふっ 分かってねぇな オークション会場に持って行くんだよ コレクターに高値で売りつけてやる」
壊斗はゲス顔でそう言い放つ。
「でもさ、これ記念品でしょ?そんな事しちゃって大丈夫かな?」
「そうか?だけどこれグアイスが王から直接受け取った訳じゃないんじゃね?つまり流通してたんだよ」
「そんなの裏の悪い人が絡んでるに決まってるよ 私たちじゃどうも出来ない」
「くっそ…じゃあこの玉どうすればいいんだよ…」
「普通に使うしかないよ」
「オークションは駄目で普通に使うのはいいのか」
「オークションがダメだと思ったのは大々的にお金儲けしようとするのが良くないんじゃないかなって思っただけ 普通に使う分には大丈夫だと思うけど…」
「訳分かんね…」
「ねぇカイト この先どうするの?旅にでも出る?」
「ここから離れた所に家を建てる そこに暮らす」
「二人きりで!?」
「そうだよ お前が付いてきたいって言ったんだろ 嫌なら俺一人で住む」
「分かった!見捨てないで!」
ギュルルルと音が鳴る。音を鳴らした正体はエメルだ。出会った時から今まで何度も腹を鳴らしていた。
「そういえば腹減ったな…エメルはどうだ?」
「私もペコペコ…」
「じゃあ飯でも食いに行くか」
俺たちは折角貰った金を使うべく高そうなレストランに入った。
「いらっしゃいま… ごほん お客様 このレストランのドレスコード… 相応しい服装をしてきてください お帰りを」
追い出された。この世界もドレスコードなんてあんのかよ 中性的な街並みしてる癖に。
仕方なく俺たちは普通のレストランに入店した。
「いらっしゃいませ〜お好きなお席にどうぞ〜」
「やっぱりこんぐらいの店の方がいいな」
俺がそう言うとエメルはそわそわしだした。
「どうした?」
「私 外で食べるの初めてだから凄く楽しみなの…!」
「…そうか」
帰る家がないって言ってたし、家出少女か?でも命を狙われてるって言ってたし…何があったんだろうか。
飯時にそんな話するのも野暮だと思い、後で聞くことにした。
エメルと俺は食べる物を決め、店員を呼ぼうとボタンを探した。が、見つからない。直接呼ぶタイプの店らしい。
「すいませーん」
「は〜い少々お待ちください〜」
待つこと数分────
「大変お待たせ致しました ご注文お伺いします!」
文字が読めない為、写真を指さす。
「俺はこれとこれで エメルは?」
「はははハンバーグおおお願いしますすす」
エメルはガチガチに固まりながら注文をした。
「ソースはデミグラス オニオンの二つから選べますけどどちらになさいますか?」
「おおおおおお任せで」
「はい!かしこまりました!ご注文は以上で宜しいでしょうか?」
「はい お願いします」
待つこと数十分────
「おまたせしました!デミグラスハンバーグとマルゲリータピザとトマトとモッツァレラのカプレーゼになります!」
エメルは目をキラキラさせながら俺の方を見てくる。
「食っていいぞ?」
「わぁぁ いただきます!」
エメルは相当腹が空いて居たのか凄まじいスピードで食べ始める。
熱々のピザを四等分し、エメルに一切れ分ける。
「エメル ピザ一切れやるよ」
「ほんと!?やった!」
エメルは忙しなく動かしていたフォークを止め、ピザを食べる。
にゅーんと伸びるチーズを見ていると、我慢が出来なくなり俺もピザを頬張る。
「!?うま!」
数日ぶりの食事に、感じたことの無い感覚に陥る。
パンの食感、濃厚なチーズに肉汁溢れるサラミ。普段食べるよりも味が濃く感じ、舌や頬、体全体が刺激される。
「最高だ…」
正直今なら何を食べても美味しく感じるだろう。
飯のありがたみを実感していると、突然エメルが苦しみ出す。
「大丈夫か!?」
「お…みず…」
「ほら水だ!」
急いで水を渡す。
「ぷはー!危なかった…」
「数日ご飯を食べてなかったから詰まっちゃって…」
「飯の前に水を飲まないと駄目だぞ」
俺たちは飯を終え、レストランを後にする。
「先に土地を探しに行こう ここから離れた所が良いな」
俺は通りすがりのキリン人に声をかけた。
「すみません ここから離れた田舎…というか人が誰もいないような土地って何処かありますか?家を建てたいんですけど」
「田舎…確か南にずっと行くとメリュドルスって所に着くはずだよ ただね…あそこの近くには森があって"蝿"が出るって噂だよ だからメリュドルスに住もうなんて人は疎か行こうと思う人はまず居ない そんな所まで行かなくたってメリュドルスから数キロ離れた所に数人しか居ない村があったはずだよ そこに家を建てれば良いんじゃない?」
「メリュドルス…行ってみようか」
「話聞いてた?辞めた方がいいよ!」
「辞めときます 行くぞエメル!」
「もう! 僕はどうなったって知らないからね!」
俺たちはその"メリュドルス"に向かうことにした。
街を抜け、何も無い道を歩く。
「カイト 私疲れちゃった…おんぶして〜」
「おんぶ? どうやるんだっけ」
おんぶをするのは中学の時以来だ。
「小さい相手にはしゃがむんだよな確か」
俺はしゃがむとエメルが背中にのしかかってきた。足を腹の辺りに絡めてくる。
「立ちにく! よいしょ!」
立ち上がる時、少し力んでしまった。
俺は空を飛ぶ鳥と目線があった。と言うより、簡単に言えば空高く飛び上がっていた。
「うぁぁぁ!」
俺はジェットコースターが大嫌いだ。急降下する乗り物が得意ではない。タワーオ〇テラーなんか一度乗っただけでトラウマと化し、何があっても二度と乗らないと決意するほどだ。
絶叫マシンなんて比じゃない程の内蔵が浮く感覚。ジェットコースターは床に足をバタバタさせたり屈んだりしがみついたりすれば何とか耐えられるが、生憎掴む物も蹴る地面も存在しない。しかもエメルをおぶっている為慎重に着地しなければならない。
腹に力を入れ、何とか喋ることが出来た。
「エメル!しっかり捕まってろよ!」
地面着地までおよそ5メートル地点で手を鳥のようにばたつかせる。
咄嗟の判断でいけると思った。
するとさっきと同じ高さどころかそれよりも高く飛び上がってしまった。
俺は少しづつ手をばたつかせ、徐々にばたつかせる手の振りを小さくする。
無事に着地できたが、地面が洒落にならない事になっていた。
着地出来る幅の間隔をあけ、細めた目の様に二つに抉り取られていた。運が良い。
穴を覗いて見た。暗いからかもしれないが、底が見えない。もしこの穴に落ちてしまったら上がってくることは不可能だろう。
「すごく楽しかった!」
エメルはご満悦だ。俺は大嫌いな感覚の中頭を働かせなければならなかったというのに。
「俺は最悪だった これが楽しめるお前が羨ましいよ」
着地地点には足形がついていた。だが驚いたのは最初に飛んだ所だ。地面がめり込む形で深々く抉れていた。少し踏ん張っただけで。
この力、マジで危険だ。自分で制御出来るまで…いや無理そうだな。力が少し収まるまで大人しくしていなければ。
「早く行くぞ メリュ…なんとかに」
「メリュドルスだよ!」
エメルは相当疲れていたのか直ぐに眠ってしまった。多分精神的な疲れだ。初めて会った時も元気そうではあったが足元がふらついていた。
「それにしても どれだけ歩いた?流石に疲れた 何処かで休憩しようかな」
休息を取ろうと考えていると、突然後から人の良さそうなお婆さんが声をかけてきた。
「貴方 どうしたの? 随分と服が汚れちゃってるじゃない! 家に来なさい 洗濯してあげるわ お兄さんも一緒に来てちょうだい!」
"兄"という単語が出た後だろうか。エメルが急に起き出し、酷く脅えだした。
「体調が悪いみたいね 急ぎましょ 家はすぐそこよ」
家に案内された。ここがあのキリンが言ってた村か?
「さぁ早くお上がり お嬢ちゃん 先にお風呂に入ってきなさい 服の替えは昔私の娘が着てた物があるわ」
「ありがとう…」
眠そうにエメルは答え、お婆さんと一緒に風呂に向かって行った。
一分も経たずにお婆さんだけ戻ってきた。
「…何であんな事になるまで放って置いたの! 顔が真っ青だったじゃない! 服がボロボロだったし血もついてたわ!」
「すみません 家出してきたみたいで 偶然街で会って放って置けなくて連れてきたんです 確かに傷の手当ぐらいしとけば良かったですよね」
「あら そうだったのね てっきりあの子のお兄さんかと思ってたわ ごめんなさい 私早とちりしちゃったみたいね」
「大丈夫です 俺もまだ詳しく事情を聞けてませんし」
「それは二人きりの時に聞いてあげなさい 会ったばかりの婆さんが居るより少しでも一緒にいた貴方が聞いてあげた方がいいわ」
「? わかりました」
お婆さんに言われて思ったが、服には確かに血がついてた。だがエメル自身は傷1つ無かった。服の中に傷があるのかもしれないが、脱げだなんて言うのはエメルに悪い。
それかこの世界の人々は特殊体質で傷の治りが早いとかか?今のところ魔法とかも出てきてないし、この世界にはそういった類のものは無いのかもしれない。又は使える人が滅多に居ないとか。
「お風呂ありがとう…ございました」
タオルを巻いたエメルが戻ってきた。
「これに着替えてね あ!お兄さんはちょっとここで待ってて」
「ッッ!!」
突然後から人の良さそうなお婆さんが声をかけてきた。エメルは口を抑え、過呼吸になった。やっぱりだ。"兄"と何かがあったんだ。家出の原因はそれか?
「やっぱり体調が悪そうね 風邪ひいちゃったのかしら」
「俺の事 名前で呼んでください 多分俺の呼び方に何か問題があるのでしょう」
「わ わかったわ 貴方の名前は?」
「バ…壊斗です」
何だ? 一瞬別の名前が頭に浮かんだ気が…
「カイトくんね ちょっとここで待ってて頂戴」
エメルとお婆さんは居間から出ていった。
「さっきはごめんなさいね 嫌な事思い出させちゃったかしら…」
「い いえ 気にしないで」
「───うん!身体に傷は無いみたいね!はぁ〜良かったわ」
「早く着替えちゃいなさい すぐご飯を用意するわね」
エメルは窓から外を見る。辺りはすっかり暗くなっていた。
「はい!クリームシチュー出来たわ!さぁお食べ」
「ありがとうございます! あ…すみません米ってありませんか?」
折角用意してもらったのに流石に失礼だったかも。
「コメ?…何かしらそれ…?」
まさかこの世界ピザやシチューはあっても米は無いのかよ!? 確かにエメルがハンバーグを頼んだ時も米は付いて無かったが。メニューにも無さそうだったし。
「何でもないです 頂きます」
クリームシチューをパンで食べるのは初めてだ。とりあえずお婆さんの食べ方を真似る。クリームシチューにパンを浸して食べている。
エメルはスプーンでシチューを口に運び、その後パンを食べる。という食べ方をしていた。
「おいしい…」
パンで食べるのも悪くは無いが、米が恋しい。
レストランの時よりは落ち着いていたが、やはりエメルはがっついていた。確かにこのシチュー滅茶苦茶美味い。
『ご馳走様でした!』
「カイトくん お風呂入っちゃいなさい」
「良いんですか?ありがとうございます!」
お婆さんが風呂まで案内してくれた。
「ここよ ごゆっくり〜」
「ありがとうございます」
脱衣場で服を脱いで風呂に向かう。その途中──
「鏡まであるのかこの世界は… って流石に舐めすぎか」
そう言って一人笑いながら鏡を覗き込む。するとそこには"自分に限りなく似た別人"が映り込んでいた。
「え… 何これ…」
顔は自分のもので間違いなかったが、髪や体つきはまるで別人のものだった。肋が見えるほど痩せては無かったし、髪をセットした覚えも染めた覚えもない。…よく見ると瞳の色も違う。
髪色や瞳は赤黒く…少し濃い小豆の様な色ををしており、髪型は耳かけかきあげヘアー。俗に言う『ガイルヘア』で、右目に少し髪が掛かる位の長さだった。
それに、小学生以来残り続けている足の甲の傷も綺麗さっぱり消えていた。
俺は異世界転移したんじゃなかったのか?
謎が増える一方で、すっかり疲れてしまい、考えるのを辞めた。
「…」
ズボンを脱ぎ、パンツを下ろす。
「…は?」
壊斗の声質にしては、少し甲高い声を出して驚いた。
「ちんこ小っちゃ…」
壊斗のブツ。壊斗のリトル壊斗が縮んでいた。壊斗はちんこの大きさだけは友達の間でも評判であったし、一つの自慢でもあった。だが、今の壊斗の物は人差し指程のサイズしかない。
「嘘ぉ…」
引き戸を開けた。するとそこには丸太風呂がぽつんとあるだけの露天風呂があった。
「え、シャワーは… ないか…」
この世界、テレビはあるくせにご飯やシャワーは無いのか。いや待て、ここが田舎だからというのもあるだろうか。元の世界でも田舎に行った事がなかったから分からないが。
体に丸太の中のお湯を掛け、丸太風呂に浸かる。
「気持ちいい…」
周りはすだれで囲まれていたが、露天風呂だった。夜風が気持ちいい。
数十分は浸かっていただろうか。風呂から上がり、脱衣場で体を拭く。
「───無い…」
ふと鏡に映った自分の体に目をやると、背中の傷が消えていた。
「これって… もしかして俺の体じゃない…?」
「お風呂頂きました〜」
バスタオルを首にかけながら居間に居るおばあさんに声をかけた。
「ごめんなさいね 男物の着替えが無くて もう遅いし今晩は泊まっていきなさい エメルちゃんは家出してきたのよね?きっと両親が心配しているはずよ 明日には家に帰った方が良いわ」
「…心配なんかしてないよ それに喧嘩したって訳じゃないの …今はあまり親の話はしたくない」
「…もし、話せるようになったら カイトくんに話してあげてね 凄く心配してるみたいだから」
「な、何言ってるんですか! …辞めてくださいよ」
そこまで心配してるって訳じゃ無い。…はずだけど。
「…うん 分かったよ」
「でね、客人用の部屋は一つしかないのよ だからエメルちゃんは私の部屋で一緒に寝ましょう」
「…カイトとが良い…」
か細い声でエメルがそう言う。
「…それもそうね カイトくんはそれで良い?」
「いや… 俺は別に良いんですけど エメルは良いのか?」
「…うん その方がいい」
「じゃあもう寝ましょうか」
『おやすみなさい』
「はい、おやすみなさい」
寝室にて。
「じゃあそろそろ寝るか やっぱベットは一つしかないな… 俺は床かなんかで寝るからベットはエメルが使えよ」
「…床は硬いよ? 一緒に寝よ」
子供って会って一日でこんなにも懐くものなのか? と壊斗は思った。
「あ〜… 分かった でも枕はエメルが使いな?」
「うん」
「…じゃあ明かり消すぞ」
部屋は黒く染まり、窓からは自然の月明かりが入ってくる。
「…あまり人に話しちゃいけないかもしれないけど 壊斗には話しておくね …実は私、能力者なんだ」
「───え?」
唐突にそんな事を告られ、思わず聞き返してしまった。
「見てて」
エメルは前腕辺りを口ではむっと咥え、ピッと肉を歯で噛み切った。
「…っ!」
エメルは声にならない声を漏らす。
「何してんだよ!」
「…見て…て」
少しずつ血が滴り落ちていた傷が、瞬く間に治っていった。残された血だけが二の腕に伝う。
俺は咄嗟に枕元にあるティッシュでエメルの血を拭う。
「それが… 能力?」
「私の能力は回復 最近また新しい力が使えるようになったの 自分の傷が直ぐ自然に治るっていう」
「じゃあもしかして服に血がついてたのに体は無傷だったのも…」
「この力のせい あんまり深い傷だと治るのが遅いんだけどね」
エメルはえへへと照れ笑いをする。
「それに能力は普通一人一つしか持てない 私は異彩者なんだぁ」
エメルは徐に過去の話をし始めた。
「…私の家はすごく貧乏でね 捨ててある食べ残しや雨水を回復…浄化させてそれを食べて過ごしてたの…」
…まだ子供なのにそんな生活をしていたのか。と壊斗はエメルに対しての同情心が湧きあがる。
「そうか ごめんな 辛いことを思い出させちゃって」
「…うん 大丈夫だよ 私が話したくて話したんだし…」
「じゃあ寝ようか おやすみ エメル」
「おやすみ カイト」
2023年6月11日 追記:壊斗の髪型の表現をより分かりやすくしました。




