第四話「世界で一番強い生物」
「ここか…」
世界一強い奴の店は外装は黒、看板は赤といった危険な香りプンプンのデザインをしていた。エメルに聞くと『弱い奴お断り』と書いているらしい。
「入ろうか」
ドアを開け、店内に入る。
「あ いらっしゃい …ってお前見るからに弱そうだな 看板読めねぇのかよ 出てけクソ雑魚」
「いきなり何すか 俺力には自信があるんですよ 相手はアンタか?」
「んな訳ねぇだろ 最近噂を聞きつけてグアイスさんに一目会おうと冷やかしに来る奴が多くて迷惑してんだ 早く帰れ 坊主」
「グアイス? 誰すか」
「世界で一番強い生物 ヴァイワ・グアイス だろ?まさか知らねぇで来たのかよ!?引退前までテレビで引っ張りだこだった元プロボクシングチャンピオンだぞ!?」
この世界にテレビがある事に驚いた。
「そんなこと聞いてねぇよ 勿体ぶらねぇで早く出せよ まさかビビってんのかぁ グアイスさんはよぉ」
「あぁ?誰に口聞いてんだ糞餓鬼」
「まぁ良いじゃねえか 強気な奴は好きだぜ俺は 相当自信があるみたいだな」
「グアイスさん…!」
おいおい待てよ こんな化け物が出てくるなんて聞いてねぇぞ…
受付の裏からは人間とは思えない程の筋肉量、体格の黒人が出てきた。こんな奴漫画でしか見た事ない。
「…力比べって何をするんだ?」
「今日は"腕相撲"だ」
「腕相撲?そんなので決めるのか?」
「不満か?勝負はこっちが決めるんでな 文句があるなら帰っていいぞ」
「そうすぐ帰らそうとするな」
「すみませんグアイスさん… で お前は何が不満なんだよ」
「いや 不満って訳じゃねぇけど 一瞬で決まっちゃうなって思ってよ 俺の圧勝で」
こういう見るからに悪そうな奴は大抵煽るとキレる。煽ってやる気を出させてちゃっちゃと賞金ゲットして国から出たい。
「参加を認める これにサインしろ」
紙とペンを渡された。
署名欄に名前を記す。説明書きか何か書かれていたが、読めないのでスルーする。
「お前はもうこれにサインしちまったんだ 今更辞退なんてさせねぇからな」
付き人が横からちゃちゃを入れてくる。
「…そんなことしねぁよ 早く始めようぜ」
「じゃあまずボディチェックからだ」
手を頭の所に組ませられ、体の隅々まで入念に触られる。
「何も隠してねぇみたいだな よし 準備が出来たら台に腕を置け」
腕相撲専用台に肘を乗せる。
グアイスががっしりと俺の手を握る。
俺は自然に任せ、グアイスの手に触れる。触れるだけだ。握らない。少しでも力を入れるとグアイスの手が折れてしまうかもしれないからだ。
「じゃあ始めるぞ レディー ファイト!」
掛け声と共にグアイスは全体重をかけ、踏ん張る。
俺は昔から腕相撲が弱かった。流石に女には負けなかったが、クラス1強いと言われている女とクラス1弱いと言われている男達と腕相撲をしたら惨敗した。指相撲と押し相撲なら負けた事は無かったけれど。
そんな俺が全身を分厚い筋肉に包まれたバケモンの様な奴との腕相撲に耐えている。まるで信じられない。
俺はほんの少しずつ、細心の注意を払い腕を横に傾ける。その動作に全神経を注ぐ。
一分は経過した。世界一地味でつまらない腕相撲だったと思う。勝敗は言わなくても分かるだろう。
「嘘だろ…?イカサマだ!グアイスさんがこんな骨と皮しかない奴に負けるはずねぇ!」
「そんな訳ないよ!私見てたもん!」
エメル…初めて口開いたな。
「ボディチェックはしただろ? これが結果だ 俺は何のイカサマもズルもしてない」
「…お前 手抜いてただろ」
グアイスは神妙な顔つきで言い放つ。
「あ バレた?」
てへっと舌を出す。
「と言うより 力なんてろくすっぽ入れてねぇはずだ」
「間違いねぇ お前は"あの女"に近しい強さを感じた」
「あの女?」
思わず聞き返してしまった。これは長話されるパターンだ。早くこの国から出たいのに。
「グアイスさんは一度だけ負けた事があるんだ ある女によ 俺はその場に居なかったから詳しくは知らねぇんだけどな」
「あれは十年前…」
回想に入りやがった。てか負けた事あるなら世界で一番強い生物じゃないじゃん。という疑念は置いておく。
「俺はその日キッズボクシングジムのゲストとして呼ばれた 一人 子供を選んでその子と戦い接戦を演じて負けて欲しいってな ショーの様なもんだ 俺はそのジムに一人だけ女の子が居ることに気づいた 俺はその子を選んだ 女に負ける方が盛り上がるだろ?すげぇってよ」
「俺はその子に『かかってきな』って言ったんだ 俺の計算では
その子の攻撃を何回か交わしてパンチを打ち込む が それを外してしまい最後に女の子の一撃を食らい 倒れるって言うスパンだった」
「ルールは何でもありだったが そいつはパンチをしなかった いきなり飛び後ろ回し蹴りをしてきたやがった 驚いたさ まさかボクシングジムの試合でパンチより先に先に蹴りが飛んでくるなんてな」
「その子にしてみれば様子見の蹴りだったんだろう 何とか腕でガードすることは出来たがあまりの痛さと驚きで体制を崩してしまった 少女は飛び付いてきて俺の服の裾を掴み床に倒した そんでチョークスリーパーをかましてきやがった 抜けようとしたが腕力が強すぎて抜けれなかった 会長が止めてくれなかったら俺はそこで失神していた タップなんかするつもり無かったからな 初めてだった 攻撃をまともに食らったのもダウンしかけたのも 俺は試合の時わざとパンチをを外して煽りまくって攻撃を何度も躱して飽きたら顔面に一撃を食らわす ってやり方だった 俺より強いやつになんか会ったことは無かった」
「休憩を挟んで第2ラウンド目が始まった 俺は怒りに満ち溢れていた こんなガキに負かされそうになったのかってよ そっからはぶっ倒す事だけを考えていた 殴り殺してやるって思った ゴングが鳴った瞬間に襲いかかったんだ もうボクシングをしようなんて思わなかった ただ勝てりゃいいって思っていた」
「俺は捕まえれば勝てると思った そのまま肋を折ってやるつもりだった 今思えばガキ相手にマジになってる俺が恥ずかしい だがその考えは実現しなかった 見事に避けられたよ あれは人間の判断力とスピードじゃなかった 隙を突くようにボディブローをしてきた とてつもなく重いパンチだった 少なくとも俺が戦ってきた奴の中で1番だった 息が出来なかった だが痛みなんて気にしてる暇無かったからよ バックブローをしたんだ 小さい体の奴にも当たるように斜め下にやったんだ」
「結果はダメだった 簡単に躱された しかもジャンプでだぜ?人間の脚力じゃねぇぜ あいつは俺の顎を思いっきり蹴り上げた つま先を丸めてな そこで意識は完全に途切れた 脳震盪を起こしてぶっ倒れた 気づいた頃にはジムのベンチに横たわってた 後から聞いた話だがその女の子は七歳だったみたいだ それにその日は体験入会だったみてぇだ 習い事も未経験だったらしい どこで技を覚えたんだかな 俺はショックで数日は寝込んだよ その後は直ぐにプロを引退した チャンピオンベルトも当然返却したし家にあるボクシング関係の物は全て捨てた ボクシング以外の格闘技関係の物もだ 格闘技から足を洗いたい もう関わりたくはねぇって思ったからだ」
「ただ今日十年ぶりに試合がしてぇって思ったぜ お前とだ ボクシングのルールは分からねぇか?総合格闘技でも何でも良い お前と戦えれば何でも 俺と戦おう」
「悪いがそんな時間はないんだ 早くこの国を出なくちゃならない それにもし俺と戦ったらアンタは死ぬ」
「頼む お願いだ」
必死に縋りよってくるグアイスをあしらった。
「何か壁が固くて安全な部屋みたいなの無いか?俺自身この力をあまり理解してないんだ ぶっ壊れるかもしれないけど」
「この店の地下室なら安全だ 俺が殴っても傷一つ付かねぇ」
俺たちは地下室に移動した。
「壁を指で軽く突く 壊れても文句言うなよ?」
「あぁ いくらあんたでも壊れる事はないと思うぜ 世界一硬い素材で出来てるからよ」
「この世界の世界一は信用出来ねぇんだけど」
俺は皆を離れた所に行かせ、壁を人差し指で少し強く突いてみる。
予想の遥か上な結果に壊斗は目を見開き、狼狽える。
壁には穴が空く所か円形に抉れていた。衝撃波かなんかか?この力を一刻も早く封印したかった。このままじゃ普通に生きていくのもままならない。
壊斗を含めその場にいた全員が目をまん丸にして数秒間固まった。
「こりゃ俺がどう足掻いても勝ち目は無さそうだな」
「ほらよ 商品のダイヤ玉だ」
無色透明な玉を受け取る。
「ダイヤモンド王国開国記念に作られた物だ 価値は黒玉10個分!コレクターが血反吐を吐いてでも欲しがる代物だ これを金として使う奴なんて居ねぇぜ」
「ありがとう」
これで家を買うことは出来るだろう。この世界の物価価値が分からない以上、憶測でものを言うのは良くないが。
俺たちは店を出る。
「よしエメル 早くこの国から出るぞ!」
「うん!」
「優勝賞品も無くなっちまったしこの店畳まなきゃいけないっすね」
「あぁ もう"負けた奴の臓器を奪う"なんて汚ぇ商売しなくて済むんだな」
「契約書に書いてあったんですから サインした時点で同意したも同然ですよ」
「しかも最近買うぐらいなら自分で取るって連中が増えだしたから大した金になんなかったですもんねぇ ここが足の洗い時ですね」
「俺 もう一度ボクシングやろうと思う」
「え!?まじですか!?」
「あの頃よりも強者は増えてるだろうしな ただよ 俺みたいな汚れた人間がまたボクシング始めても良いんだろうか」
「グアイスさんは悪くねぇっすよ 俺が巻き込んだ 悪い道に進ませた グアイスさんが気を病む事は無いんです それに格闘技やってる奴の殆どは人を殴るのが好きだからやってるんです グアイスさんより遥かにやばい過去を持ってる人も少なくない」
「…そうか じゃあ試合 特等席で見てくれよ」
「勿論です!またあの対戦相手を一撃でダウンさせるグアイスはんを見てみたいっす!」
「俺的にはもっと白熱した試合もしてみたいもんだがな」
二人は拳と拳でグータッチをした。
とある城内にて。
「入室しても宜しいでしょうか?」
扉を三回ノックし護衛隊の二人がそう尋ねる。
「あぁ」と王が応じる。
「失礼します!ご報告にあがりました」
「何だ?」
「我々に不敬を働いた者が現れました」
「で?」
「それが…」
一人が言葉を詰まらせた。するともう一人の隊員が代わりに報告を始めた。
「不覚ではありますが、取り逃してしまいました ですが! 早急に見つけ出し処罰をしに参ります!」
「… そうか そいつの特徴は?」
「えっと… 髪色は赤に近しい色をしておりまして、右目に髪が掛かっており白い服を身にまとっておりました」
「ほう そうか もう良い おいお前」
王は控えていた傍付きに声をかける。
「こやつら二人を処刑台へ送れ 罪人を取り逃したのだ 生かしてはおかん 情報は聞き出したしもう用はないしな」
「…ま、待ってください!私は関係ありません!こいつが!こいつが取り逃したんです!私がいない間に!」
今まで黙っていた方の隊士が口を開いた途端に戯言を口走った。
「死を前にして怖気付いたか 見え透いた嘘をつきおって お前は今しがた罪人の詳しい特徴をベラベラと喋っていたでは無いか」
「…っ それはこいつに聞いたんですよ!」
「おい!人のせいにすんなよ!お前が」
「仮にお前の言っていることが本当だったとして 生かしておく必要がどこにある? お前に何が出来る? そもそも護衛隊は数が増えすぎた 金も減る一方だしな 使えん奴は始末していった方が良いはずだ そうだろ?」
「わ」
「喋るな 死人に口なしだ 貴様はもう死んだも同然 私に意見をした時点で貴様の死刑は決定事項だ おいお前 さっさとこいつらを私の前から消せ 不愉快だ」
「承知致しました」
傍付きはいとも簡単に二人の隊士を小脇に抱えた。
「おい! はなしやがれ! おいクソジジイ!もし俺が死んだらお前の前に化けて出てやる!呪い殺してやるぞ!」
「…その者だけをそこに縛り付けろ もう一人はそのまま処刑台へ連れて行け」
「はッ」
傍付きは喚き散らしていた方をその場で縛り付け、もう一人の隊士を抱え、処刑台へと向かっていった。
「お前はこの私が直々に殺してやる」
「んー!んッ!」
口を塞がれた隊士が声を漏らす。
「お前は今からどうやって死ぬと思う? 爪を剥ぎ指を切り落とし四肢の皮を剥ぎ肉を剥ぎ骨を断つ その後は目玉を指で刺す 飽きたら潰し抉り出す 歯を全てへし折った後は生殖器だ 穴に針を入るだけ入れる これも飽きたら削ぎ落とす 次に腹を裂く 内蔵を一つ一つ取り出す 胃とかはその場で切り開くんだ 中に入っていた物がドロッと出てくるんだ …で飽きたら踏み潰す まぁそうだな… 全て終わったらそのまま放置する 急所は全て外す 完全に息絶えるのは結構な時間が経ってからであろう 拷問は楽しい ただ汚れるし臭いしであまりやらないんだが… お前は運が良いなぁ」
「ンッ!!!!ンッー!!!」
隊士は泣きながら辺りをのたうち回り必死の抵抗を見せた。




