第三話「私の名前は」
「えぇ!?何してるの!?」と少女はあたふたした。
「土下座だけど…」
壊斗は そんなにに驚くことか? と心の中で思った。
「まさか断られるなんて思わなかったよ!」
「悪いけど 他を当たってくれよ 俺そういうの向いてないからさ」
壊斗はそう言って立ち去ろうとしたところ、後ろから手を握られた。
「お、お願い…!帰るお家も無いし…それに…あなた一人だとしても もう国から狙われてるんだよ? 護衛隊に意見しただけで重い処罰を与えられるのに…暴力を加えるだなんて… もう手遅れみたいだし…それなら私が居ても居なくても変わらないと思うの ね…?こんな"いたいけ"な女の子を放っておくの? 助けてよ…お願い…」
相手も相当焦ってるのかしつこいしウザイ。というか 意見しただけで処罰って何だよ。…確かに、このまま狙われ続けて、アイツらに捕まれば俺は終わる。
…最悪だ。俺はただ普通にしてただけなのに。人助けなんてするんじゃなかった。って そんな正義感強い方でも無いけど。
この力がどこまでの可能性を秘めてるか分からないけど、この子供を庇いながら アイツらから逃げることは出来るのか…?
…今の俺には半端ない力があるんだ。もういっそ この国ごと潰してやろうかな。
────いや辞めておこう。権力に溺れる奴は必ず失敗する。ってどこかで聞いた。この力には何かリスクがあるかもしれないし、迂闊に乱用したくない。使ってる最中にこの力が消えでもしたら、そこでお終いだ。
ただこの子供の言う通り、こんな小さな女の子を見殺しにするのも気が引ける。
…決めた。
「…わかった この力が続く限り 俺が君を守る」
言葉通りの意味だ。この力が消えたら、そこで終わり。
少女の顔が見る見るうちに明るくなった。
「本当!? …ありがとう!」
とりあえず、この場から離れなきゃ。今すぐにこの国から抜け出そう。
「出来るだけ離れたところに逃げたいけど…金がない どうしよ」
「ならするしかないね」
「何を?」
「一攫千金」
少女はにやりの悪人のような顔で言った。
「どうやって」
「…」
少女は何の柵もないのか、黙りこくった。
「街の人に聞いてみるか」
俺は優しそうなヤギ人に尋ねてみた。
「あのすいません ここら辺で金を一瞬で稼ぐことの出来る所って知ってますか?」
「…そんなこと僕が知ってるように見える? 服装を見てくれよ 金がないんだよ」
「…」
やっぱり 金に関しては怖そうな人の方が詳しそうだよな。
次に強面のゴリラ人に尋ねる。
「ここら辺で一攫千金を狙えるのような所ってありますか?」
「…あ?」
突然変な事を聞かれ、少し戸惑っている様子だ。
「あ〜 あるにはあるんだが… 兄ちゃんには無理だと思うぞ」
「教えてください!」
「…まぁいいぜ この道を真っ直ぐ行くとバリーズって飯屋があるんだよ そこを左に曲がると黒と赤の看板の店があんだ。そこに世界で一番強い生物って言われてる奴が居る そいつと力比べで勝てば賞金が貰えるらしい 噂にゃダイヤ玉が貰えるらしいぜ 価値は黒玉10個分だぜ!? 一回チャレンジしてみようとは思うけど、俺でも無理そうだ」
ダイヤ玉という物の価値を知らないが、この人の言いぶりを見れば、価値が高いことは想定出来る。
「ありがとうございます!」
「でもやめた方がいい 参加料は無料だがもし力比べに負けると恐ろしい目に遭うしい 兄ちゃん見るからに弱っちそうだしよ」
「大丈夫です そのダイヤ玉ってやつ 手に入れてきますよ」
目的地に向かう途中、あることに気づく。
「そういえば俺、国に狙われてるんだったよな」
少女は「今更!?」と驚く。
「変装したいな…君の分も」
「そう…だね」
「じゃ、買いに行くか」
壊斗はポケットの中を触り、ジャラジャラと音を立てた。
二人は変装する為に服屋に寄った。中世的な街並みの癖して、今っぽい服屋だった。
「店員さん 手頃な帽子ってどこにありますか?」
「はい…一番安いものですと、こちらになります」
店員の後を追うと、帽子コーナーに立ち止まり、灰色のニット帽を二つ手に取った。
「これ買います」
「お会計が黄玉四個になります」
「え?」
「黄玉四個です」
馴染みの無さすぎる単語に思わず聞き返してしまった。
「あー黄玉っすね ちょっと待っててください」
ポケットから巾着袋を取り出した。さっき貰った緑色の玉が五個の他に、黄色い玉が丁度三個入っていた。
「…一つ辞めます」
壊斗は自分の分を元の棚に戻すよう店員にお願いした。
「では黄玉二個になりますね」
「どうぞ」
黄玉二個を手渡しした。
「丁度頂戴致します ありがとうございました〜」
「…似合ってんじゃん」
「あ、ありがと…」
少女は少し照れたように俯いた。
ただ、壊斗は少し思うところがあった。
さっき飲んだ…覚えのないけど、コーヒーで黄玉ってのを一個渡したら、緑玉が五個返ってきた…つまり、黄玉より緑玉の方が価値が低い事になる。
でも、この店で一番安い帽子は黄玉二個…もしかしてブランド品か何かか?
壊斗は、無駄金をはたいてしまったと後悔した。
「俺の分はもっと安いとこで買おっかな。それに…君の洋服もボロボロだし、ついでに買おう」
「え…勿体ないよ…!」
「いいから」
次に入ったのはさっきよりも小さく質素で洒落た店に入った。パッと見は古着屋。案外こういう店の方が高かったりするけど、まぁ見るだけだ。高ければ買わなきゃいい。
「…これで良いか」
今着用しているものよりも、一回り大きいサイズの黒いパーカーが壊斗の目に止まった。
値札を見てみると、黄玉1と記載されていた。うん、さっきより安い。一通り目を通した中でも、これが一番手頃な価格だった。それに質感も良い。
「これにしよっと。次に君の分…」
「わ、私はこのままで良いよ…!」
「遠慮すんなって。どうせ後で稼ぐんだから」
そう言って聞かせると、少女は渋々無地の服を選んだ。
値札を見ると、緑玉5と書かれている。
壊斗はそれらをレジに持っていき、購入した。
「金無くなっちゃった〜」
「ごめんね…私のせいで…」
「いや さっきも言ったけど気にすんなって。稼ぎ行こうぜ」
壊斗はさっき買った黒パーカーを元々着ていた白パーカーの上に着用し、前のチャックを閉め、深々くフードを被った。
しかし、一文無しなのは少し不安だ。早く世界で一番強い生物との力比べに勝たなければ…
なんて思った瞬間、周りの動きが止まった。
「…また神か 何の用だよ」
(あ〜 これは録音音声だ この世界の言語は君の暮らしていた所とは違う だから自動翻訳機能を付けておいたよ 言葉や文字は勝手に訳してくれるけど この世界にしかない言葉は訳してくれない そこの所はよろしく頼むね 以上 あ、待って 思い出した お金についてなんだけどさ 『黒→白→赤→青→黄→緑』の順に価値が下がっていくんだよ 緑玉十個で黄玉一個、黄玉十個で青玉一個といった感じで価値が同じになるから、玉十個で価値が一つ上がるんだ ややこしいよね)
再び時は動きだした。
「…なんだそれ」
そんなことより大事なことを思い出す。
「あ…完全に聞き忘れてたけど君の名前は?」
少女に問いかけてみる。
「私の名前は………エメル…」
「エメル…苗字はないのか?」
「…うん」
この世界、苗字というものは無いのか?と不思議に思った。
「俺は工崎壊斗だ 宜しくな」
「クザキ…カイト…?」
「苗字がクザキ 名前がカイト だよ」
「カイト……宜しくね!」
エメルと名乗る少女は照れ隠しのようにニット帽を深々く被る。
こうして俺とエメルは変装をし、賞金を手に入れるために店に向かうのであった。




