第九話「ダイヤモンド城」
トパーズは今、ダイヤモンド城に帰還するため上空一万メートル地点を飛行している。
盾のことだが、すっかり元通りに治った。トパーズの《黄盾》は壊れれば壊れる度に耐久度を増す。という仕様だ。それに壊れたとしても時間経過で勝手に元に戻る。
試しに《黄盾》と唱えてみたが、何事も無かったかのように完治した盾を出すことが出来た。
確認が済み、飛行について改めて実感する。
「しっかしパンジーの能力はすげぇよなぁ まるで鳥になった気分だぜ」
トパーズは王とパンジーのお陰で飛行を可能としている。
パンジーの能力は《飛行》である。自由に空を飛ぶことが出来るが、上手く飛ぶには相当な鍛錬が必要だ。
次にダイヤモンド王の能力の一つ 《能力の付与》は、自分の取得している能力と一部の別の人間の能力を、他者に与えることが出来る。貸すと言った方が正しいか。ただし、付与した能力を自分で使ってしまうと《能力の付与》は解除される。そして付与出来る対象は一人のみで付与できる能力も一つだけ。この能力の最大の欠点だが、自分自身に付与することは出来ない。
それと忘れてはならない、トパーズが通信のように会話していた少女、ジャスミンについてだ。彼女の能力は大まかに二つ。《以心伝心》と《追跡》だ。
《以心伝心》とは、心と心で会話をすることだ。トパーズはあえてあの場では壊斗達に聞こえるように口に出して喋っていたが、本来心と心で会話をすることが可能の為、わざわざ口に出して会話をする必要は無い。然し複数人と会話をすることは出来ず、あくまで一人だけを対象にしている能力だ。
続いては《追跡》についてだ。この能力は自分の血縁者、つまりDNAを使い、血縁者の居場所の特定を行う。然しデメリットを上げるとすれば血縁者以外の居場所を特定することは出来ない。だがこれをメリットに変換することも可能だ。血縁者のDNAを物や人に付着させることによって血縁者以外の位置を特定することが可能となる。ただこれにもデメリットが付いてくる。DNAで位置の特定を行うため、抜け毛や飛沫などといった些細なものにまで引っかかってしまう。つまり移動し続ける対象を追跡することは困難だ。
最後に肝心のトパーズの能力だ。四兄弟の能力の一つ《黄盾》盾を召喚することが出来るという分かり易い能力だ。盾は素材を自由自在に変えることが出来、万能性だけで言うなら四兄弟トップと言っても過言ではない。四兄弟は一人ずつ剣、槍、盾、弓を所持しており自由に出し入れすることが出来、使わない時は異空間にしまっておくことが出来る。
能力を説明している間にトパーズは城へ到着した。
門の前に立つ。すると門番が声をかけてくる。
「お帰りなさいませトパーズ王子!」
「あぁ 早く通してくれ 急いでるんだ」
「はッ!」
あまりにも巨大すぎる玄関が打開かれた。
トパーズは急いで王、ダイヤモンドの元へ向かった。ある能力を借りる為に。
城内を走り続けて数分、たどり着いた父の部屋を三回ノックし、入室を許可された。
「失礼します 父さん ただいま戻りました」
そこには性行為に及んでいるダイヤモンドの姿があった。
「ああ ご苦労」
「…また別の女の人と子作りですか」
「まだ"能力"を持った子が足りんからな 興が醒める 早く私の視界から消えろ」
「時間を開けてまたお伺いします お話がありまして…」
ダイヤモンドは無言で腰を動かし続けた。
数十分、トパーズは自室で行為が終わるのを待っていたがその時間は気が気ではなかった。
「くっそ… 早くしろよ…」
足を組み、幾度も足踏みを繰り返す。それ以外、何もする気が起きない。
丁度良い時間を置き、再度ダイヤモンドの元へ向かった。
さっきと同じようにノックをし、入室する。
「失礼します」
「…話とは何だ 簡潔に短く話せ」
ダイヤモンドは机の上で指をトントンとした。
「…実は 護衛隊の隊員に暴行を加えたとさえる人物を殺める事に成功しました ですが 能力使いなのでしょう 首を切り落とす事ができませんでした」
トパーズは自身でさえ説明がつかない言い訳を始めた。
「能力使い? 我々以外に能力を使う者が居るというのか?」
「左様です」
勿論これはトパーズが今考えた嘘だ。壊斗はトパーズに自分の能力についての説明はしていない。
「信じられん… 今までで一度もなかった 見たことも聞いたこともない」
だがダイヤモンドは確認をしなかった。幾らでも確認の方法を持っていたはずだが、自分の息子を、信用しすぎたのだ。
「お前の言うことだ 嘘はないのだろう 私の能力を借りて証拠を取りに行きたいと?」
「はい」
「良いだろう 《能力消去》を付与する」
銀色の様な光とともに、能力の付与が完了した。
「…私の能力を知ってる者はお前ら四兄弟だけだ 執拗い様だが他言は許さんぞ」
「はい 重々承知しております」
無事《能力消去》を付与して貰えたようだ。
「父さん 手間をお掛けさせてしまい申し訳ありません」
「…ああ それよりも今すぐ証拠を持って帰ってこい …罪人に血や唾か何かしらを付けてきたんだろうな? 死体は人の目につかない所に隠したんだろうな? もし誰かに別の場所へ運ばれていたら…」
「…っはい! 血を付けましたし念の為唾も吐きかけておきました! それと死体は人の目につかない場所にちゃんと隠しました…!」
トパーズは冷たく言い放たれた言葉に冷や汗が溢れ出した。
ダイヤモンドが死体の事について聞いたのはラピスラズリの《追跡》には制限があるからだ。あまりに遠い場所を追跡することは出来ない。だから今すぐ行けと言ったのだ。
「ならばラピスラズリに居場所を教えて貰え 早く行け」
「承知しました 行って参ります」
「…待て エメラルドは連れ戻したか?」
「珍しいですね 父さんがアイツを名前で呼ぶなんて」
「くだらん話は辞めて質問に応えろ」
「すみません! 実は… 死んでましたよ 見るも無惨に」
「…本当か?」
今まで無表情だったダイヤモンドが表情を変えた。
「ええ 間違いなく ではこれで失礼します」
トパーズ静かに扉を閉めた。
目的であったジャスミンの部屋に着き、扉をノックし、部屋に入れてもらった。
「あれ? やっぱり帰ってきたの? お疲れ様 エル!」
「その名前で呼ぶんじゃねえよ 誰が聞いてるか分かんねぇだろ」
実はトパーズとジャスミンは従兄妹であり、幼なじみである。
「あはは ごめんね それにしても今日のお仕事も疲れた〜 …って 腕どうしたの!? エメラルドちゃんに会ったんでしょ!? 何で治して貰わなかったのよ!」
「消去」と、そう小さく唱えた。能力を消す時の呪文のようなものだ。
「いや それどころじゃ無かった 色々あってな 応急処置もしたし… また会いに行った時にでも治して貰うわ …ところでさ 話変わるんだけどよ お前、父さんの事どう思ってる?」
「王様のこと? とても良い王様だしとても尊敬しているわ」
父さんが変わったキッカケは、多分母さんの死だ。母さんが死んでからエメラルドに少しづつ暴力を行うようになった。それが原因で一緒に暮らしていた母さんの親族はこの城から出ていった。そのせいで父さんはラピスラズリ達に"何か"をした。その現場を見てしまったからだ。
「俺は父さんが大嫌いだ エメラルドが居ない今、代わり見てぇに俺らに暴力を振るってくるしな お前も… 前殴られた顔の傷は大丈夫か?」
「…王様の事を悪くいうのは辞めて 私がこの事を王様に報告すればあなたは不敬罪になるのよ? 言葉には気をつけて」
「知らねぇよ オレはアイツを敵に回す事にした 復讐を誓ったんだよ だからお前にも協力して欲しい …お前を救い出したい オレと一緒に来い!」
「はぁ… せっかく忠告してあげたのに… もう駄目 以心伝心」
消したはずの能力を当たり前かのように発動させるラピスラズリを見て、トパーズはパニックに陥った。
「喋るな!」
トパーズは咄嗟にジャスミンの首を絞め上げた。
その瞬間、ジャスミンのニヤリと笑った。
トパーズは"最悪"を想像してしまい、気が動転してしまった。
…気づいた時には、地面に頭が転がっていた。
「うわぁぁぁっ! 何だこれっ!」
盾から発せられた螺旋状の斬撃により、ジャスミンの首はいとも簡単にスパッと切断された。
切断された首からは鮮血が脈を打つように噴出する。それはとても赤く、鮮やかで、どちらかと言うとオレンジに近しい色をしていた。
これがトパーズの行った行動の一連の流れだ。意識があろうが無かろうが、トパーズ自身の行いだ。
何も殺したかった訳じゃない。焦りや緊張が引き起こした悲劇だ。
「…え? ジャスミン…? 何で…」
呼吸が荒くなる。そんな中でトパーズが思った事はただ一つ。
「…まず今はこの場から早く逃げなきゃ」
ジャスミンの亡骸の内、頭だけを抱えこんだ。
トパーズは自分の体を使い、部屋の窓を割りその場から逃亡した。
トパーズは城壁内に流れている川に飛び込み、体に飛び散った返り血を洗い流した。
ジャスミンの頭の血は既に止まっていた。と言うより、血は切断された首から出たものがほとんどで、頭からはあまり出なかった。
自身の頭を冷やすことで落ち着きを取り戻したトパーズは、《黄盾》を召喚し、素材を布に変換する。それにジャスミンの頭を包み、異空間にしまう。
「なんでこんな事に… メイシア…」
淡々と作業をこなすトパーズではあったが、涙がとめどなく溢れ出ていた。この場から早く逃げなければと自分の下行いを償わなければの二つの感情が彼に押し寄せる。
異空間にしまっておくものは、どれほどの時が過ぎたとしてもそのままの状態で出てくる。だから腐る心配は無いのだ。
体中が水浸しのまま、思い出の場所に向かって走る。
思い出の場所とは、ジャスミン… メイシアとよく遊んだ公園のことだ。
そこには見慣れた大木が一本、そびえ立っている。頭を地面に優しく置き、木の下の地面を無作為に掘り始めた。そこにメイシアの頭を埋めた。
「メイシア… ごめん この罪は一生背負って生きていく だから… 安らかに眠ってくれ」
トパーズは"バン"の元へ急いだ。
メリュドルスに到着したのは三日間休まず走り続けた後であった。




