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僕に回復魔法をください。  作者: シロツメヒトリ
サイドベルの章2
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65.「ダン老人」

 聖騎士たちがどこかへ逃げていくと、ダン老人は来ているローブに付いている埃を払い、立ち上がった。

 老人というので、もっと高齢であることを想像していたのだが、実際は60代くらいに見えた。

 ダン老人は、少し警戒するような目つきで、こちらを見ながら言った。


「礼は言っておこう。

 君たちは何者だね?」


 僕たちは簡単に自己紹介をした。

 僕の自己紹介に、ダン老人は少し驚いたようだったが、ティアの自己紹介を聞き、納得がいったようだった。


「学者になりたての軟弱な小僧が来ると聞いていたが、”漆黒の旋風”が従っているなら、あんなやつらなど屁でもないな。

 いずれにせよ、助かったよ。ありがとう」


 ダン老人は、そう言って初めて笑顔を見せた。

 どうやら、ケビン経由で僕の情報はダン老人に伝わっていたようだ。


「ダン老師。

 あいつらは、何を狙ってたんです?」


 ティアが珍しく敬語を使って聞いた。

 どうやら、知り合いらしい。

 彼女が敬語を使うのは、マーテル先生やリゲル長老に対してくらいだった。

 暗黒教団内でも地位のある人なのかもしれない。


「これだよ」


 ダン老人は、力なく笑い、懐から茶色いものをいくつか取り出した。

 それは、球根だった。


「これを育てると花が咲くんだがね、以前この花を、さる高貴な方に送ったところ、大変に喜ばれてね。

 それ以来、この花は有名になり、高価な物となった。

 その後で、この花はアーティファクトであることが証明されてしまった。

 この世界のどこにも、この花のような花は存在しなかったんだ。

 見つけた時は、庭先に咲いていただけだったのだがね」


 つまり、あの聖騎士たちは、ダン老人の持つ高価な球根を強奪しに来たということなのだろう。

 しかし僕は、ダン老人の説明に、少し違和感を覚えた。


「その花は、何でアーティファクトになったんです?

 この世界のどこにもないだけなら、新種としてもいいような気がしますが」


 僕がそう聞くと、ダン老人は目を見開き、その後、愉快そうな顔になった。


「ケビンが君のことを面白いことを言うと言っていたけど、正しくそうなんだな。

 いや、君の言う通りだよ。

 アーティファクトと新種を区別する方法は、厳密には存在しない。

 ただ、単純に新種というよりも、アーティファクトと言った方が神秘性が増すからという理由だと思う。

 さる偉い学者が、ある日、この花のことをアーティファクトだと言ったので、そうなってしまっただけだ。

 まあ、その結果、私の学界内での地位も上がり、この花にも破格と言うべき値段が付いた。

 こんな球根ひとつで、小国が買えるのだ。

 まだ咲くかどうかも分からない球根でね」


 ティアが驚きの目で球根を見る。


「へえ。こんな球根で国が買えるんですか」


「ああ。ただ、こういう物の値段は長続きしない。

 今でも同じ値段が付くかどうかは分からんがね」


 僕は、ダン老人の話を聞き、チューリップ・バブルの話を思い出したが、実際、同じようなことが起こったのかもしれない。 


「この球根は、何かの薬になるんですか?」


 僕は、ダン老人の専門が薬草学ということを思い出して、聞いた。

 すると、ダン老人は急に笑い出し、ひとしきり笑った後で、絞り出すように言った。


「あっはっは、すまない、いや、確かにそう思うよな。

 だが、残念ながら、この球根には、今の所、薬として有効な利用法は見つかっていない。

 元々は薬の原料にもなるかとも思っていたんだが、あまりに高額になってしまったので、薬にする気が失せてしまったのだよ。

 いくつか、今までに薬草についての論文を書いたが、この球根に比べてしまえば、あまりめぼしいものはないかもしれないね」


 ダン老人の話に、ティアが意外そうに聞く。


「あれ? ツル毒はダン老師が見つけたって聞いたけど?」


 僕は、その言葉にギョッとした。

 それが本当なら、この老人は実はすごい人なのかもしれない。

 むしろ、他の薬の内容が気になるところだ。

 しかし、ダン老人は、笑うばかりだった。


「その通り。あのツル毒は、私が発見・・した。

 別に、作り方を開発した訳じゃない。

 南の少数部族に伝わっている、伝来の矢毒の製造法を、聞きだして本にまとめただけだ。

 ただ、ああいうものだし、世間に広めたりはするつもりはないし、ましてや論文になどはしていない。

 リゲル老師には、有効的な使用を願って本を差し上げたがね」


 対して、ティアの何気ない発言が、ダン老人の目の色を変えることになった。


「あたしさ、ここにいる聖騎士にツル毒を食らわせたんだけど、ここにいるカナンに助けられちゃったんだよ。

 まさか、あんな方法で……」


「なんだって!」


 それから、真剣な表情のダン老人にしがみつかれた僕は、ツル毒の薬理作用である筋弛緩についてと、その時の対処法について説明した。

 ダン老人は、僕の説明を一字一句聞き逃さないように、ある時は質問を交え、興味深そうに聞いていた。

 その反応から、ダン老人も薬理作用については深くは知らなかったことが推察された。

 人工呼吸の話をしたら、非常に驚いていたし。

 この世界では、やっぱり人工呼吸は一般的ではないらしい。

 話の途中から、ミューズが赤くなるのが分かった。

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