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僕に回復魔法をください。  作者: シロツメヒトリ
サイドベルの章2
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56.「冒険者ギルド」

 長老、マーテル先生、グレンに別れを告げると、僕たちはサイドベルへ向かった。

 相談の結果、しばらく、そこを拠点に情報収集をしようということになったのだ。


「情報収集なら冒険者ギルドでしょ」


 という、ティアの意見を容れてのことだった。

 実際、冒険者ギルドは、この世界のほとんどの都市に存在し、それぞれの地域に根を下ろしている。

 日本には存在しないものなので、なんともイメージしづらいが、あえて例えるなら『全国チェーンの派遣会社』というのが、一番しっくりくるのではないだろうか。


 冒険者といえど、収入は必要である。

 この世界では、町を一歩でも外に出れば魔獣がうろついているため、それらを狩って食べれば、ある程度は食には困らない。

 ただ、身の回りの物を整えるには、どうしても現金が必要だし、そもそも冒険者と言えど魔獣を普通に狩れる程の実力を持った者は限られる。

 この3人は普通に狩っていたけど、それは異常なんです。

 さらには、どの魔獣が食べられるのか、といった知識も必要となってくるため、食事を確保するだけでも現金なしに生活を維持することは難しい。


 さらに、冒険者は冒険者というくらいだから、町を転々とすることが多い。

 自分のホームグラウンドとしている町以外でも、現金収入は必要である。

 しかし、ある程度の技能があったとしても、新参者に仕事を依頼するほど、世の中は甘くない。

 これは、この世界に限らず日本にも言えることで、研修医や新任の医者があまり信用されないのと同じことだ。

 逆に、腕が確かな冒険者には、仕事を依頼したいという一定の需要が存在する。


 そこで出てくるのが冒険者ギルドだ。

 冒険者は冒険者ギルドに登録をし、冒険者ギルドは登録された冒険者に仕事を斡旋する。

 冒険者ギルドの主な役割は、冒険者の質の保証と仕事の仲介である。

 つまり、市民の皆さんは困ったことがあると冒険者ギルドに依頼する。

 冒険者ギルドは、その依頼を適切と考えられる冒険者に割り振るというわけだ。


 そのような性質から、冒険者ギルドには様々な情報が集まる。

 ティアの言うことも、もっともなのだ。


「光の教会が、今後どのように動くかも気になる。

 聖騎士の話では、騎士団長の独断専行だろうってことだけど、違った場合は、アルデンの町を解体する必要も出てくるかもしれない。

 光の教会の内部の情報は聖騎士にお願いすることとして、今は第3者の情報が欲しい」


「今さらっと言ったが、君は私に教会の内調をさせるつもりか!?」


 ティアの発言に、ミューズが反応した。

 確かに、ある意味では裏切り行為に当たる行動は、あまり気分的によろしくないかもしれない。

 もしかしたら、教会の教義とかにも触れるのかもしれない。


「いやなのか?」


 ティアが聞く。

 僕やリリーも、ミューズを見つめた。

 今回ばかりは、アルデンの町の人たちのためにも、ティアの味方になった方がよいと思った。

 実際、今回の騎士団の襲撃により少なくない命が犠牲になっている。

 光の教会の中で、アルデンの町の情報が知れ渡っているようであれば、同じような悲劇を繰り返さないためにも、アルデンの町は解体すべきなのだろう。

 3人から見つめられ、ミューズは追い詰められるように言った。


「分かったよ!

 探ってくればいいんだろ!?

 ああ主よ。これも多くの命を助けるためなのです」


 ミューズは、わざとらしく天に祈りを捧げている。

 そんなミューズに、ティアは軽い抱擁をして、「ありがとな」と呟いた。

 ミューズは顔を真っ赤にしてティアを振りほどき、「うるさい!」と言った。

 僕とリリーは、そんな様子を見て、微笑み合った。


「というわけで、カナンとリリーも冒険者ギルドに登録しよう」


 というわけで、サイドベルに到着した僕らは、冒険者ギルドの前に来ていた。

 ミューズは、光の教会のサイドベル支部に顔を出すとのことで、別行動となった。


 冒険者ギルドは、商業都市サイドベルのメインストリート沿いにあり、それなりに大きな建物である。

 少なくとも、アルデンの町にあった、どの建物よりも大きい。

 グレッグの屋敷といい勝負だ。

 小さな学校ぐらいの大きさはある。


 僕たちはティアに先導される形で、ギルドの中に入った。

 初めて見た冒険者ギルドは、酒場のように見えた。

 テーブルが並び、恐らく冒険者と思われる様々な年代の男女が、時に談笑したり、時に熱い議論を交わしたり、時に口論したりしながら、それぞれのテーブルを囲んでいた。

 実際に、昼間から酒を飲んでいる連中もいるようだ。

 冒険者ギルドというだけあって、男の比率が高いかもしれない。

 キョロキョロする僕とリリーに、ティアが言った。


「冒険者ギルドはパブみたいになっているところが多いんだ。

 ギルド員の交流の場になっている。

 パーティのメンバーを募ったり、商談をしたりね。

 ここの酒は意外とうまいんだよ。

 人によっては一日中、入り浸っている奴もいるんじゃないかな。

 あと、あとで説明するけど、ギルド員以外の人間が、直に仕事の依頼をしにくることもある。

 仕事を受けるのはギルドを介さなくてもいいんだ。

 そこらへんの細かいことは、ギルドの職員が教えてくれるかもしれない。

 聞いてみて」


 ティアが促す先には、カウンターがあった。

 その奥には酒樽や瓶が並んでおり、どう見てもバーのカウンターのようにしか見えないのだが、そこに立っている人は若い女性であり、特にタキシードに身を包んでいるということもなければ、シェイカーを振っているということもなかった。

 女性は、飾り気の少ないワンピースに、ティアと同じくらいの長さの肩ほどの赤毛で、酒場の店員としては地味な格好だが、役所の職員としては派手な格好だった。


「ようこそ、サイドベル冒険者ギルドへ」


 営業スマイルを顔に、受付嬢と思わしき彼女が言った。

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