57.「ギルドマスターとサブマスター」
「あら、ティアじゃない。久しぶり。
ギルドの仕事を手伝ってくれにきたの?」
「メリー、久しぶり。
仕事の手伝いになるか分かんないけど、今日はギルド員候補を2人連れて来たよ」
メリーと呼ばれた受付嬢に、ティアが僕たちを紹介する。
どうやら、顔見知りのようだ。
「こっちの弱っちそうな男が、カナン・タキザワ。
こう見えて、色々なことを知っていて、色々と助けになっている。
けど、弱い。
で、こっちのかわいいエルフが、リリー・シェファーフィールド。
なんと、四属性すべての精霊魔法を使える。
かわいい顔して、対魔獣戦では、あたしよりも強力かもしれない」
なんだか弱いことを強調されてしまった。
まあ、確かに弱いからいいんだけど。
うん、過度の期待はしないほうがいい。
リリーは、はにかんだように笑っている。
なんだか紹介に差別を感じるよね。
僕らの紹介の後で、ティアはこちらを向いた。
「で、この赤毛の美人さんが、メリー・ライアン。
ここサイドベル冒険者ギルドの良心で、困ったことがあれば何でも聞くといい。
ただ、あんまりちょっかいを出し過ぎると、ファンのギルド員に闇討ちされるかもしれないよ?」
ティアはそう言って、意地悪げな笑みを僕に向けた。
ちょっかいは出さないまでも、確かにメリーは美人さんであった。
ファンがいると言われても、素直に信じられる。
優しげな表情に加え、包容力のありそうな雰囲気には、のめり込んでしまう人もいるのではないだろうか。
「ティア、お世辞を言っても何も出ないわよ?
カナンにリリーね? よろしく。
私は、メリー。サイドベル冒険者ギルドのサブマスターと受付をやっています。
”漆黒の旋風”ティア・アールゲインに過分な紹介を頂いて光栄だわ」
メリーがそう言うと、ティアが少し赤くなった。
「やめろよ、メリー。
その恥ずかしい呼び名は、禁止って言ったろ?
ケビンも面白がって広めるんだもんな。
いい迷惑だよ」
ティアは本当に迷惑そうに言ったが、僕はよくティアを表している名前だと思った。
そんな二つ名が付いている辺り、ティアは冒険者ギルドでは有名人なのだろう。
そう言えば、ギルドカードのレベルも高かったっけ。
「ふふ。
そうね、そのケビンも紹介しないとね。
3人とも、付いてきて」
メリーはそう言うと、カウンターの脇にある扉を開け奥に入って行った。
僕たちはメリーに付いていく。
扉の奥には、いくつか扉があった。
中でも中央の扉は、木製だがやや重厚な造りであり、メリーはノック後に、それを開けて奥へと進んだ。
そこには、僕より少し年上と思われる彫りの深い顔をした男性が、パイプをくゆらせながら書類仕事をしていた。
メリーが話しかける。
「ケビン、お客さんよ。
ギルドに入会希望みたい。
ティアのお墨付きだから、かなり期待できるんじゃないかしら」
ケビンと呼ばれた男は、ペンを動かす手を止め、こちらに目を向ける。
目が、ひとつしかなかった。
右目がなく、右目があるべき瞼と瞼の間からは、肉芽のようなものがはみ出しており、過去に何らかの外傷によって、右目が失われたことが推測された。
どうしても失われた目の方に目が行きがちだが、そんな僕らの反応を観察するように、左目が隙なく様子を窺っている。
わざと痛々しい右目を見せることで、僕らを試しているかのようだった。
ケビンは顔はにこやかに、けれども決してこちらから目を離さずに、こちらへ歩み寄ってきた。
その様子が少し怖かったのか、リリーが僕の服の裾を掴んだのが分かった。
「ようこそ、サイドベル冒険者ギルドへ。
ギルドマスターのケビン・アッシャーマンです。
ティアさんの紹介とは珍しいですね。
同業者の方ですか?」
その質問にはティアが答えた。
「いいや。
こっちのかわいいのがシャーマンのエルフ。
リリー・シェファーフィールド。
そして、こっちの男が、カナン・タキザワ。
――なあ、カナン。
どうせ、いつかはバレるんだし、あんたの素性について、話しちゃってもいいだろ?」
返答の途中で、質問の矛先がこちらに向いた。
僕は、少し悩んだが、確かにすぐにバレるだろうと思い、自分で話すことにした。
「自分で話すよ。僕は、異世界人だ。
前にいた世界では、医者っていう、人の病気を治す仕事をしていた」
僕の発言に、ケビンとメリーが、へえ、と少し反応をした。
異世界人は、珍しいのだろう。
実際、1年近く異世界にいる訳だが、自分以外の異世界人に会ったためしがない。
僕以外の異世界人は、みんな、自分の素性を隠しているのかもしれないが、噂すら聞かないのは、異世界人自体が珍しいということの反証となっていると僕は考えていた。
「イシャですか。
初めて聞く職業ですね。
これは、久々に仕事のしがいがありそうだ」
ケビンが、嬉しそうに僕に近づいてきて、僕を舐めるように、色々な角度から観察を始めた。
仕事のしがい?
どういうことだろう?
僕が助けを求めるように視線を送るが、ティアもメリーもニヤニヤと笑うばかりで、助けてくれる気配はない。
僕は、不安そうに僕を見上げるリリーと顔を見合わせ、これから起こることに一抹の不安を感じた。




