47.「カナン」
「貴様、カナン・タキザワだな?」
リーダーらしき聖騎士の男が、僕に剣を突き付けながら聞いてきた。
ギクリとした。
僕は平然を装いつつ答えなかったが、僕の反応で、彼は理解したらしかった。
「やはりそうか。
私は神聖騎士団イストーリア支部隊長のゲオルグ・ロックブールだ。
ロドウェル聖騎士から報告を受けた通りの風貌だな。
異界の知識と称する、世迷言を吹聴していると報告を受けている。
事実であれば、異端審問にかけねばならない」
そう言って、さらに剣を僕に近づけてきた。
ロドウェルとは、ミューズの姓だ。
ロドウェル聖騎士とは、ミューズのことだろう。
そう言えばミューズにも、こうやって剣を突き付けられたことがあった。
聖騎士には、人にものを尋ねる時に、剣を突き付けるという文化があるのだろうか?
お近づきになりたくない文化だ。
ミューズは僕のことを教会にアーティファクトと認定させたと言っていた。
しかし、このゲオルグとかいう聖騎士は、僕のことを、そうとは取っていない様子だ。
むしろ、異端者扱いだ。
教会内も、一枚岩ではないということだろうか?
それとも、アーティファクト認定された人間は、皆、こんな扱いを受けるのだろうか?
「やめろ!」
そんな勇ましい声が聞こえ、小さな人影が後ろから飛び出した。
グレンだった。
手にはナイフを持ち、驚くほどの跳躍力で、ゲオルグの喉元に飛びかかった!
ゲオルグの首は前面はむき出しになっており、刃が届けば致命傷を与えられる!
「ふん」
しかし、ゲオルグは鬱陶しげに手を振るうと、その手は難なくグレンを弾き飛ばした。
グレンは地面を転がり、そのまま地面に突っ伏した。
動かなくなった。
「鬱陶しいガキだ。
身の程を知れ」
ゲオルグがグレンを見下ろし、忌々しげに言った。
グレンは突っ伏したまま、起き上がってこなかった。
「グレン!」
僕は彼の元に駆け寄ろうとするが、剣に阻まれて、それも出来なかった。
代わりに、リックがグレンの元に駆け寄った。
リックがグレンを仰向けにさせると、グレンはあちこち擦りむいてはいるものの、小さくうめき声を漏らし、生きていることが分かった。
ホッとした。
「よくもグレンを!」
チェンとリヒャルトが2人して叫び、懐からナイフをそれぞれ取り出した。
2人の身体から比べると、大きすぎるくらいのナイフだった。
今度は、2方向からゲオルグに襲い掛かろうと構えた。
「ああ、うるさいな!
貴様らは、馬鹿か? 馬鹿なんだろ?
死人が出ないと分からないんだな?
だったら、そうしてやろうじゃないか!」
そう言って、ゲオルグは剣を一閃させた。
剣は、呆気なく、腹部を貫いた。
僕の腹部を。
――え?
剣は、綺麗に僕の腹部を貫いていた。
臍部より、やや左側から、背中の右側に掛けて。
背中に、突き抜けていた。
僕は、あまりのことに理解が追い付いていかなかった。
ゲオルグの剣に、僕が、刺された?
「カナンさん!」
悲痛な叫び声を挙げ、リックが駆け寄ってきた。
力が抜けていった。
いつの間にか、僕は仰向けに倒れていた。
剣に貫かれたまま。
現実感がなかった。
腹部を見下ろした。
やっぱり、刺されていた。
「カナンさん!
しっかりして下さい!」
リックが遠くから呼びかけてきた。
いや、遠くではなかった。
すぐ目の前にリックの心配そうな顔があった。
そう、遠くに聞こえていただけだった。
「ふん。殺されないとでも思ったか?
私は聖騎士団の支部隊長だ。
異端審問の判決を決定する権限を持っているのだよ」
ゲオルグが、さらに遠くでそう言った。
リックだけでなく、孤児院の子供たちが、皆、僕の元に駆け寄ってきた。
口々に僕の名前を呼んだ。
皆、とても心配そうな顔をして、そして、どうしていいか戸惑っている顔をしていた。
僕は、力が入らず、遠くから、それらの声を聞くしかできなかった。
大丈夫だと言うために口を開くことすら出来なかった。
「くっ! カナンさん!
よくも、カナンさんを!」
リックがそう言って、ゲオルグを睨みつけた。
ゲオルグは、その様子を嘲笑った。
「よくも、どうすると言うのだね?」
リックは、ゲオルグを睨みつけながら立ち上がり、手で十字を切ると、祈るような姿勢になった。
「そうですね!
見せてあげましょう!
カナンさんに助けてもらったお蔭で、見つけることのできた、究極の奇跡を!」
そう言ったリックの全身が、光に包まれていった。
「究極の奇跡……だと!?」
ゲオルグは驚愕に目を見開いた。
リックの口から、聞いたことのない祈祷が発せられた。
「『天にまします我らの父よ。
父と子と聖霊の御名において。
我が前に約束の地を示せ。
乳と蜜の流れる場所を。
すべての災厄と、すべての幸福を』」
「なんだ、その祈祷文は……!?」
ゲオルグは、すかさず、もう1本剣を抜き、その剣をリックに向けた。
しかし、それは遅かった。
リックを中心に光がほとばしり、光は辺り一帯を吸い込むように広がっていった。
リックは、奇跡の言葉を宣言した!
「《カナン》……!!」
辺りが光に包まれた。
光はすべてを包み込んだ。
そして、同時に、僕の意識も、遠くへ消えて行った。




