46.「歓迎会」
その日はハニーパイで、ささやかなパーティを開いた。
ハニーパイ以外にも、ここら辺で取れる野菜をベースにした色々な料理が出てきた。
ティアとミューズが結構、頑張ったらしい。
せっかくだからリリーの歓迎会にしようということになった。
リリーにとっては、こんなに大勢で食事をするのも初めてだったし、大勢に祝ってもらうのも初めてだったようで、とても感激していた。
リリーはすっかり気を取り直したようで、僕も安心した。
ティアとミューズは、お互いの料理に軽いダメ出しをしながら食べていた。
最近は、随分、安心して2人を見ていられるようになった。
一触即発だった頃が嘘のようだ。
リックは、一時期に比べると、かなり食べるようになった。
若干、肉付きも良くなったような気がするが、むしろ、ぜい肉は減り、筋肉が付いてきているように見えた。
今のところ、リックの無茶に見えたリハビリも、彼にとってプラスに作用しているようだ。
リヒャルトとチェンは食事中も騒いでいた。
グレンとミシェルはリリーやミューズに、ちょっかいを出して喜んでいた。
マーテル先生が、それらをたしなめると、4人は瞬時に席に戻った。
ほかのみんなも、思い思いに食事に手を伸ばし、美味しそうに食べていた。
僕も、そんな様子を眺めつつ、食事に手を伸ばした。
しばらく魔獣の肉やスパイスの強すぎる保存食ぐらいしか口にしていなかったせいもあり、こういう普通の食卓の食事が、やたらと美味しく感じた。
そんな感じで、再び平穏な日常が戻ってくるはずだった。
それを恐らく、ここにいる誰もが望んでいたし、何よりも僕が一番それを望んでいたように思う。
しかし、その終局の訪れは、あまりにも早く、突然だった。
翌朝、僕は何かが倒れるような音と、焼けるような臭いで目が覚めた。
窓から、熱気と赤い光が入ってくる。
僕は、ただ事でない気配を感じ、すぐさま孤児院の外に出た。
町が、火に包まれていた。
孤児院にこそ、まだ火は移っていなかったが、辺りの建物には、ほとんど火が付いていた。
ハマスさんの店は、何かに引火したのか、他の建物と比較して火の勢いが強かった。
一部の建物は倒壊し、これから焼け落ちそうになる建物もあった。
火と火の間を、人々が逃げ惑っていた。
良く見ると、周囲の崖の上から、火が何本も飛んできているように見えた。
どうやら、火矢で射かけられているようだ。
そういえば、倒れている人に矢が突き刺さっている。
流れ矢にやられたのだろうか?
「カナン先生!
どこへ行くつもりですか!」
呼ばれた声に振り返る。
僕を呼んだのはリックだった。
彼は孤児院の面々を連れていた。
「一体、これは……?」
僕の問いに、リックは唇を噛む。
「分からないです。分からないですけど……。
この町に対して、こんなことをしてくる連中は、光の教会の奴ら以外、考えにくいと思います」
リックはそう言って、僕の額を見る。
そこには黒い文様が刻まれている。
普通に考えれば、部外者である僕が光の教会の人間を連れ込んだと考えるだろう。
リックは、何かを諦めたかのように先を続けた。
「ティア姉さんたち実戦部隊は崖の上の射手を潰しに行きました。
ぼくたちは、子供たちを連れて一旦逃げるように言われています。
行きましょう」
そういえば、マーテル先生や年長組の何人かがいないし、そもそもティアやミューズやリリーがいない。
彼女らも実戦部隊ということなのだろう。
僕は子供たちの頭を撫でてやりながら、リックの後に続いた。
リックは振り返り、行き先を説明した。
「町を出た森の中に、非常用の物資を蓄えてある倉庫のような洞窟があります。
とりあえず、そこまで避難しましょう」
アルデンの町は崖に取り囲まれており、外と行き来できるのは1か所だけだ。
僕たちは上に警戒しながら、そこに向かって歩いて行った。
幸い火矢の数は、さほどでもなかった。
今の町の延焼の具合を考えると、射手は、もっと大勢いたはずだ。
相当数を実戦部隊が潰したのだろう。恐れ入る。
「こっちです」
町の入り口に辿り着いた僕たちは、リックの先導で森の中へ向かう。
ここら辺になると、周囲はかなり暗かった。
町の火のために夜はもう明けていたものと勘違いしていたが、そんなことはなかったようだ。
歩きだそうとしたところで、急に森の中から人影が複数現れた。
暗がりに隠れていたようだ。
僕とリックは、子供たちをかばうように前に出る。
しかし、人影は多く、僕たちは取り囲まれてしまった。
「火に燻されて、ネズミたちが出てきたようだな」
聞きなれない男の声が、そんなことを言う。
人影の中央部から姿を現したその男は、ミューズと同じような銀色の甲冑を身にまとっていた。
いや、声の主だけではない。
僕たちを取り囲む人影は、皆、同じような甲冑を身にまとっていた。
この銀色の甲冑が聖騎士に与えられるものだということは、ミューズから聞いて知っていた。
どうやら、僕たちは聖騎士たちの一団に取り囲まれたらしいと分かった。
彼らが、このアルデンの町を焼いた首謀者であるのは明らかだった。




