第51話 願いと祈りの肉料理 6
シルバーウィークですね。
お休みの方、そしてお仕事の方も
天候などどうぞお気をつけて。
「ねぇ、どうやってこんなに大きな物を動かしてるの?」
「王都から来たの? 王都っていーっぱい人がいて美味しいものもたくさんあるって本当?」
「えーっと、ニーナ様の御力なんですけど、うーん……。魔法、っていうことにしていいんでしょうか……」
子ども達がしげしげとケータリングカーや仁奈達を見つめ、次々に問いかける。
年齢も近いロビンが一番話しかけやすいのだろう。先程から、子ども達に質問攻めだ。弟妹のいるロビンは慣れているのだろう。子どもにも丁寧に説明をしていく。
そんな様子を微笑ましく笑って見ていた仁奈達の耳に、バタンという大きな音が届く。先程の修道女ノアが慌てた様子でこちらへと走ってきたのだ。
「ど、どうしたんだ?」
「うーん、まだ何か言い足りないことがあるのかもねぇ」
キースの言葉にオスカーの眉間には皺が寄る。
オスカーとてノアを不快に思っているわけではない。剣を使った戦いではなく、女性からの抗議に生真面目なオスカーは対応に悩むのだ。
一方、仁奈は先程のやり取りを忘れているかのように笑顔を見せ、手を振る。
「あ! ノアさん。ちょうどいいところに! ちょっと聞いておきたいことがあるんです」
「え……あの、何でしょうか……」
息を切らし、仁奈達の元まで駆けてきたノアは突然の問いかけに戸惑いながら、そう尋ねる。
「アニーちゃんの食事の制限って、お肉以外にありますか? 例えば、生姜であったりネギなんかの香味野菜もダメでしょうか?」
「えっと……、そうですね。お肉など消化のしにくい食材やニンニクなどの刺激の強い食材は避けております」
ノアの答えに仁奈は納得したようにうんうんと頷く。
「なるほど……。生姜は風味付け程度にした方が良さそうですね。ネギも同様ですし、細かく切るなどの工夫をしてみます」
「……あの」
その言葉に目を瞬かせ、何かを問おうとするノアだが、仁奈はにっこりと笑うと、問題ないというかのように話を続ける。
「生姜は少量でしたら食欲増進や消化の促進が期待できるんです。ただ、あくまで風味付けで生姜自体は取り除きますね!」
「――ニーナ様、多分説明が足りていないかと……」
あっけにとられているノアの態度に気付いたロビンがそっと、仁奈をサポートする。料理になると夢中になってしまうのは仁奈の癖だとオスカーとキースは視線を交わし、肩を竦めて笑う。
「え、あっ! すみません! ちょうど聞きたいことがあったときに、ノアさんがいらしてくださったので……!」
「い、いえ……。私こそ、突然すみません……」
先程、強い言葉で仁奈達を拒んだノアとしてはむしろ、歓迎するかのように迎えられたことへの戸惑いの方が強いのだ。
仁奈はニコニコと微笑んだまま、ノアに向き合うと再び、彼女を驚かせる発言をする。
「アニーちゃんの願いであるお肉料理を今から作りますね」
仁奈の言葉に子ども達からは歓声が上がる。
「わぁ! お肉料理だって!」
「それって俺達も食べられるの?」
「もちろんだよ。アニーちゃんからお願いされて、今日はここに来たんだもの」
「よ、よろしいのですか? あのような失礼な態度を私は取りましたのに……」
アニーの体調を想い、仁奈達を拒絶したノアだが、アニー自身は仲間である教会の子ども達に、そして世話をしてくれるノアに食事を食べてほしいと願ってくれていたのだ。
それを知ったノアは自分の言葉と勘違いに気付き、慌てて教会を飛び出した。
しかし、目の前の少女はそんなことを気にした様子もなく、子ども達への料理を作ってくれるという。
謝罪と感謝を告げようとするノアだが、続く仁奈の言葉は彼女をさらに驚かせるものだ。
「あとはアニーちゃんへの料理も一緒に作りたいと思っているんです」
にっこりと笑う仁奈だが、ノアは驚きで目を見開く。
「……アニーのも、ですか?」
「あの、もちろん消化に良くアニーちゃんの体に負担にならないものにしますので!」
なぜか楽しげな仁奈に圧倒され、ノアはこくりと頷くことしかできないのだった。
*****
ケータリングカーに戻った仁奈達はさっそく調理の準備を始める。
とはいっても、何を作るか知っているのは仁奈だけだ。
バンダナをし、手を洗う仁奈の近くでロビンが興味津々といった様子で緑の瞳を輝かせる。
「それで何を作られるんですか?」
「肉を使った料理だろう? 私の予想では赤ワインを使ったシチューなんかがいいと思うよ」
「それは予想ではなく、キース様が召し上がりたいものでは……」
車内に戻った三人が好き勝手なことを言うが、これもまた異世界ケータリングいつもの光景だ。
仁奈が冷蔵庫を開けると中には豚肉の塊、生姜やネギ、人参やキャベツなどが入っている。ロビン達が想像していたよりも食材は少ないようだ。
「おや、どうやらシチューじゃないみたいだね」
「ふふ、でも皆さんも食べたことがある料理ですよ」
冷蔵庫を覗いたロビン達は小首を傾げ、考え込む。
「……今まで異世界ケータリングで食べたことがある料理ですか?」
「違います」
「いや、ニーナ嬢は自分が作ったとは言っていない。つまり、俺達が普段食べ慣れている食事の可能性もあるだろう」
ロビンの答えが外れ、次に答えるのはオスカーだ。
「あ! いい線言ってますね」
どうだと言わんばかりの表情でオスカーがキースを見ると、彼は不敵な笑みを浮かべる。
「推測が甘いねぇ。いいかい? ここは教会、そして子ども達への肉料理なんだよ。そして、食材が冷蔵庫にあるものだけとは限らない……冷蔵が必要のない食材がある可能性も否定できないだろう」
「なるほど……。悔しいがそれも一理ありますね」
「どうですか? ニーナ様!」
盛り上がる三人に仁奈は優しく微笑む。
「全然違います」
「へ?」
仁奈は冷蔵庫を再び開けて、豚肉の塊とネギや生姜を取り出した。
それを作業台の上に置くと、三人を見てピッと人差し指を立て、意味ありげに口元を緩める。
「思い出してください。このあいだ、王城の厨房で三人とも食べていますよ」
仁奈の言葉にロビン達がハッとした表情になる。
つい先日、王城の食堂で彼らは仁奈がアダムに教えたという肉料理を食べたばかりなのだ。
「茹で豚、茹で豚ですね!」
「そう、正解です! これなら皆で食べられますから」
アランが作った茹で豚は柔らかく、脂の旨味とネギのソースの風味も香りのよいものだった。
しかし、仁奈はノアに「アニーも食べられるものを作る」そう言っていた。
「あの……ニーナ様……」
「うん? あ、ロビン君はテーブルの用意とかをオスカーさんとしてくれる?」
「は、はい!」
茹で豚とは別に料理を作るには食材が少し心もとなく、ロビンには見える。
食材が足りるのかと尋ねようと思ったロビンだが、仁奈の言葉に促され、オスカーと共に準備支度を始めるのだった。
もう9月も後半に近付き……
大人になると季節の移り変わりが早く感じられますね。




