第49話 願いと祈りの肉料理 4
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ローズピンクの車体が異世界の青空を飛ぶ。
久しぶりに自分を呼ぶ声が聞こえ、仁奈はロビン達と共に異世界ケータリングの活動を終え、王都に戻る途中だ。
今回は少し離れた海沿いの街に呼ばれ、ワープで戻ったため、キースとロビンは上機嫌である。
「いやあ、楽しいねぇ」
「わかります! ふわって浮くのがいいんですよね!」
異世界ケータリングで活動してもワープをするとは限らない。
水陸両用、おまけに空まで飛ぶケータリングカーはよほどの長距離でなければ、さほど時間をかけずに目的地に行けるためである。
「……少し静かにしてくれ」
一方、ワープが苦手なオスカーはげんなりとした表情で車内でしゃがみ込んでいる。青い顔をするオスカーを心配そうに見つめた仁奈だが、彼の側にしゃがみ込もうとした瞬間、足を止める。
それに気付いたオスカーが仁奈を見上げ、逆に気遣う。
「俺は問題ない。なにかあったのか?」
「……呼ばれています!」
仁奈の言葉に三人の視線が彼女に集まる。
「異世界ケータリング、再出動します! ……いいですよね?」
仁奈の問いかけにもちろんだというようにキースとロビンは頷く。
オスカーはしゃがみ込んだまま、頷くもののその視線には不安が宿る。
キースが期待して目を輝かせているのとは対照的だ。
「……それで? ニーナ、ワープは必要かい?」
仁奈は視線を運転席へと向ける。自動運転のケータリングカーだが、長距離移動の場合にのみ、ピカピカと赤いスイッチが光るのだ。
ぱっと運転席を覗き込んだ仁奈の答えをキースとオスカーは二人とも期待が混じった瞳で見つめる。
まったく反対の期待を込めた二人の視線を気にせず、仁奈はすぐに結論を出す。
「ワープ、不要です!」
「……素晴らしいな。よし、すぐにその依頼者の元に行こう」
すっくと立ちあがったオスカーは不安から解放されたのか、顔色もぐっと良くなっている。
「はい! 異世界ケータリング、出動です!」
仁奈の声と共にケータリングカーが動きだし、ロビンはどの辺りだろうと窓の外を覗いている。
しかし、仁奈はソファーに座ったもののどこか腑に落ちない様子で考え込む。
そんな違和感の理由を仁奈達が知るのは、ケータリングカーが現地に到着した後になる。
*****
ケータリングカーが降りたのは、朴訥としたのどかな風景の広がる場所だ。
おそらく、街ではなく村なのだろう。周囲に見えるのは教会に納屋などで周囲を歩く人もいない。
「……誰もいませんね」
「そうですね。でも、ケータリングカーは今まで間違えたことはないですし……。私もここで合ってると思うんです」
「あぁ、おそらくはあの教会の関係者なのではないか?」
きょろきょろと辺りを見回すロビンと仁奈に、オスカーが教会を指差す。
木造の教会以外には人がいそうな建物はない。
「そうだね。とりあえず、人のいそうなところで話を聞いてみようよ」
そう言うとキースがさっそく教会へと向かう。
慌てて仁奈もそちらへと向かうのだが、先程抱いた違和感はまだ消えない。
呼ばれたのはここで間違えない――しかし、これまでケータリングカーで呼ばれたときとの大きな違いがある。
それは仁奈だけが感じられる違いなのだ。
もやもやとした気持ちに晴れぬまま、仁奈は教会へ歩き出す。
「うーん、礼拝堂には誰もいないね。おそらく、向こうの居住区に行った方がいい」
「あ、本当ですね。こっちに人が居そうですね!」
子ども達の元気な声が聞こえてくるため、孤児院が併設されているのだろう。
日本でもこちらの世界でも教会に足を踏み入れることがなかった仁奈は、この風景を新鮮に感じ、気持ちが急いだのかロビン達より少し早くドアの前に辿り着く。
木製のドアの上には金属製の黒いベルがついており、糸を引くとそれが鳴る仕組みのようだ。
「じゃあ、これを引きますね!」
そう言って仁奈が軽く糸を引くとカランカランと金属製のベルが鳴る。
思いのほか、大きな音に仁奈が驚いていると、こちらへと駆けてくる足音と鍵を開ける音が聞こえ、ドアが開いた。
「はい。どちらさまで……あなた達は!」
「あ、チラシを配っていたときにお会いした……」
ドアが開いた先にいた女性の顔に仁奈達も驚く。
王都で異世界ケータリングのチラシを配っていたときに、仁奈達に意見したあの修道女の女性なのだ。
女性の顔はまるで幽霊に出会ったかのように青ざめ、ドアをぐいと引き、そのまま閉めようとする。
「帰って! 帰ってください!」
強くドアを引く女性だが、仁奈もドアノブを握る手を緩めはしない。
ここには仁奈を呼んだ誰かが必ずいるはずなのだ。
彼女にも何らかの事情があるのだろう。しかし、仁奈もここで引くわけにはいかない。
「帰れません。誰かが私の力を必要としているので」
仁奈がまっすぐに女性の瞳を見つめると、彼女はぎゅっと口を噛みしめる。
「その子はお肉料理が食べたいそうです!」
仁奈の言葉に女性の表情が固まり、ドアを引く手も緩む。
女性の手がドアノブから離れ、仁奈達の方へとドアが開く。
仁奈を見つめていた女性の瞳は下を向き、眉は悲し気にひそめられた。
「――知っております。お肉料理を教会の皆で食べたいんだ、そう言ってアニーは昨晩も笑っていましたから」
「では、なぜ我々の活動を否定なさったのですか?」
オスカーが尋ねているのは今日だけのことではない。
王都でも彼女は子どもに叶わない夢を見させるのは酷だと仁奈達を拒絶したのだ。教会を訪れたときの仁奈達への強い拒絶同様に何か事情があるのだろう。
「……食べたいものを食べられない――そんな子もいます。アニーは、あなた達にここに来てほしいと願った少女は食事の制限があります。だから――」
視線を下に落としていた女性は仁奈の瞳を見つめる。
その瞳はじんわりと涙で滲み、視線が合った仁奈がドキリとする。
「あの子自身はお肉を食べることは難しいんです。……申し訳ありませんが、お帰り下さい」
異世界ケータリングで願い、呼ばれたときには相手の食べたいものが自然とわかる。そのため、仁奈は相手の望みを知っている気になっていたのだ。
けれど、相手の置かれた状況はその人に会うまではわからない。
自分の慢心を突き付けられた仁奈は立ち尽くす。
ショックを受けたのはロビン達も同様だ。
望まれ、訪れた結果、誰かの笑顔があると信じて疑わなかったのだから。
心地よい風が吹くのどかな風景、しかし、そこに生きる人にはそれぞれの事情があり、悩みがあるのだ。
当たり前の事実を忘れていた自分に気付いた仁奈はぎゅっとこぶしを握りしめた。
すっかり秋めいてきましたね。
秋の味覚、楽しんでいますか?




