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放課後の安楽椅子探偵:鷹と梟の事件簿 非日常は明星高校ミステリー研究会にお任せを!  作者: 佐倉美羽
聴取と検証は生き生きと(con fuoco)

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第3話 黒部サオリの重々しい告発(grave)

 ことの成り行きを頭に入れた芹澤ミヤコは田島部長と再び実習棟四階に向かった。音楽室は廊下の突き当りに第一音楽室、L字に曲がった先に第二音楽室がある。二人は楽器の音色ねいろが鳴りやまない廊下を並んで歩いていた。


「田島部長、そもそも吹奏楽にピアノってありなんですか?」


「もちろん!音楽は音を楽しむものですから。楽曲にもよりますが、実は全然ありなんですよ」


「へぇ~そうなんですね!じゃあ、黒部サオリさんと祭原フウカさんはピアノパート担当ということなんですね」


「ええ、そういうことです。選曲によっては出番がないこともあるので、非常勤ひじょうきんにはなりますけどね。あ、芹澤さん、こちらでお待ちください」そういうと、田島部長は第一音楽室に入っていった。さすがに部活動中は関係者以外立ち入り禁止らしい。自由に動けないというのはやりづらいが、仕方ない。

 ミヤコは窓辺まどべに寄りかかり、スマートフォンを取り出した。


 ◇◇◇


『ミス研グループチャット(2)』


【ミヤコ】黒部サオリさんと祭原フウカさんに話聞いてみる!(16:33)


【リカ】おそらく大した情報は得られません。二人の交友関係に注目を(16:33)


【ミヤコ】おっけい!(既読)


 ◇◇◇


 チラリと窓の外を見る。明星高校は丘の上に建てられているだけあって、西日に照らされた住宅街じゅうたくがい、金と黒のコントラストが良く見える。

 今回の依頼は第二音楽室にいた二人の内、どちらがピアノを弾いていたのかを突き止めること。黒部くろべさんと祭原さん。どちらかが嘘をついている。もしくは、かばいあっているという線もあるか?理由はさっぱりだけど。


「芹澤さんお待たせしました。......芹澤さん?」と、テノールボイスが聞こえてきたので振り返る。田島部長のかたわらに、黒髪を腰までストンと伸ばした女生徒がいた。


「ああ!これはどうも!ミステリー研究会部長の芹澤ミヤコです!貴女あなたは......?」


「黒部サオリよ。練習したいから手早く済ませて」と、黒部サオリはその三白眼をギロリと見下ろしながら言い放った。


 長身だ......。ミヤコ自身172cmと女子にしては高い方であるが、黒部サオリはそれを軽く凌駕りょうがする背丈せたけだ。リボンの色は2年生、同じクラスになったことはないが同級生か。もう夏も近いというのに長袖ながそでに手袋、しわひとつない。スカートからのぞく足は心配になるくらい細い。隣に立つ田島部長が余計ずんぐりに見えてしまう。


「黒部さん!確かこの前も表彰されてたよね!明星高校随一のピアノの名手だって田島部長も言ってたよ!」


「そういうのいいから」黒部サオリは目を細めてぴしゃりと言い放った。ミヤコが目を丸くしていると、田島部長があわてた様子で「まぁまぁ!黒部さんも、協力すればすぐに終わるから。辛抱しんぼうして」とフォローをした。ふむ。黒部サオリは普段からこういうキャラクターなのかな。もしくは、話したくないという気持ちの表れ?


「黒部さん、練習中にごめんなさい。でも、ここはひとつ田島部長の顔を立てると思って、少し時間をくれない?」田島部長もひたいをハンカチでぬぐいながら頭を下げた。


 遠くで打楽器が鳴る。サオリは小さくため息をした。そして長い髪を耳にかけながら「……聞きたいことってなに?」と視線を逸らしながら言った。


「ありがとう。黒部さん」


 芹澤ミヤコはにっこりと微笑んで頷いた。ホッとした様子の田島部長が「じゃあ……」と小走りで音楽準備室の扉を開けて手で指し示す。音楽室からはクラリネットの歌うような音色が流れていた。



 ◇◇◇


 音楽準備室は教室一つ分ほどの大きさで意外と広い。奥にデスクが一つ置いてあるだけで、あとは壁一面のたなにぎっしりと詰め込まれた黒い楽器ケースと木琴やドラムといった楽器たち。遠くで吹奏楽部の練習が聞こえており、木の匂いがする空間はひんやりと冷たい空気に包まれていた。


「じゃあ、単刀直入たんとうちょくにゅうに聞くね。昨日、夜想曲ノクターンを弾いていたのは黒部さん?」


「違う。弾いていたのは祭原さん」黒部サオリは無表情で言った。聞いていたとおりの回答だ。リカの予想通り、黒部さんは徹底的てっていてきに防御の姿勢を取っている。これは骨が折れそうだ。


「そうなんだ。昨日の夜はどうして祭原さんと遅くまで残っていたの?」


「練習に付き合ってって言われたから。それだけ」


「ほうほう!ご感想は?」


 黒部サオリは一瞬の間をおいて「……感想、そうね。全然ダメ。あんなのじゃあ、まったく伝わらない」と言い放った。ミヤコはほんの一拍、サオリの指先が震えたのを見た。ふーむ、田島部長の感想とだいぶ違う。それに、感想を述べる前に視線が斜め下を向いた。嘘か?いや、でも本心から言っているようにも聞こえた。


 ミヤコはサオリの軽く握られている手をチラリと見ながら「全然ダメっ!?そうだったんだ……祭原さん悲しむね……」と、大げさに肩を落とした。


「ふん。そうかもね」


「あ、でも、祭原さんが弾いてたなら次のコンクールの出番は祭原さんか。田島部長、言ってたし」


「……そうね」


 黒部サオリの顔がわずかに強張こわばったのをミヤコは見逃さなかった。なるほど、祭原フウカとのライバル関係にコンプレックスがあるようだ。少し危ない橋だけど、突っ込んでみようか。


「でも、黒部さんなら祭原さんよりもすごい演奏できるんじゃない?だって、《《祭原さん、“全然ダメ”だった》》んでしょ?」


 クラリネットの音が止まる。音楽準備室が息をむように静まり、空気が冷え込んだ。黒部サオリの目にはっきりと怒りがともっていた。


「……あんたさ、その探偵気取り、辞めたら?正直寒いよ?」


「あ、ごめんなさい!怒らせるつもりはなかったの。本当にごめんなさい」


 ミヤコは取りつくろうことなく頭を下げた。紛れもなく本心から謝罪した。


「……もういい」吐き捨てるように言うと黒部サオリはほんの一瞬、唇を噛んだ。


 そして、きびすを返して音楽準備室から出て行った。大きな音を出して閉じられた扉を芹澤ミヤコはチラリと見やると、あごに手を当ててウロウロと歩き出した。


 あちゃー、やっちゃったなー。でも、黒部さんいわく、夜想曲ノクターンを弾いたのは祭原さん。出来栄えは“全然ダメ”。なのに、それをこちらから指摘すると怒った。黒部さんと祭原さんの関係はただのライバルじゃない?演奏えんそうへのほこり?それとも別の秘密か。どちらにせよ、黒部さんは“何か”を守ろうとしている――。


 静寂せいじゃくに包まれた音楽準備室の遠くから、軽やかなメロディーが流れ始める。音楽にうとい芹澤ミヤコはサックスの甘い旋律メロディーを聞いても、なんだかジャズっぽい!という感想しか浮かばなかった。


 ◇◇◇


『ミス研グループチャット(2)』


【ミヤコ】リカ~添付見て~(16:46)


【リカ】黒部さん、怒らせちゃいましたか。大丈夫でしたか?(16:47)


【ミヤコ】全然大丈夫!それよりも、なにかわかりそう?(16:47)


【リカ】黒部さんの場合、非言語的情報ひげんごてきじょうほうがかなり有益ゆうえきですね(16:47)


【ミヤコ】つまり~?ミヤコ先輩は~(16:47)


【リカ】グッジョブです。ミヤコ先輩(/・ω・)/(16:47)


【ミヤコ】やった!✌(16:47)


【リカ】引き続き、祭原フウカさんもよろしくお願いします(16:47)


【ミヤコ】任せてくださいよぉ!(16:48)


【リカ】('◇')ゞ(16:48)

( ..)φメモメモ

【ミヤコ】( ..)φメモメモ(既読)


 つづく


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