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セラフィエルの憂鬱  作者: 笑顔猫
最終章

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最終話 イザベラ・ルシアン・アストリア

 

 数日後、ティナの神聖魔法によりある程度回復した私は、やるべき事、そしてやり残した事をするべく行動した。


 まずはセオドアへ会い、事情説明をおこなった。


「……という訳だ。混乱させてすまなかったな」


「ほう、あのお転婆が素直に謝るとは。明日は槍の雨が降るに違いない。ソロン殿下には注意をしておこうか」


 このジジイ。

 口だけはよく喋るものである。


 仮にも王族の私に対する態度ではないだろう。

 これで恐ろしく有能だから扱いに困るのだ。現国王のユリウスが子供の頃から宰相をやっているからな。

 ユリウスも実際には頭が上がらない人物であると自認しているのだろう。


 ただ、アナスタシア殺害に関与していると分かった上での発言だ。むしろこの程度で済んでいることに感謝するべきかもしれないな。

 この皮肉具合ではできそうもないが。




 次に、今しがた話に出てきたユリウスへ謝罪するべく、執務室へ訪問した。


「陛下、失礼します」


「……」


 ユリウスへは事前にアナスタシアを殺害したのが私であると報告済だ。

 何者かの犯行であると喧伝すれば、国内の情勢やら王城の警備状況やらが大変弱いですよ、と宣言するようなものだ。


 ここは私自ら身柄を差し出して許しを乞う他あるまい。


 精神の汚染を受けていたなど、言い訳に過ぎない。


「イザベラよ」


「はい」


「……何故、私に言わなかった」


「それは……」


 エヴァンが死んだ時、ユリウスは心の底から鬱々としていた。

 元気づけたかったのだ。そんな中、アナスタシアの死を報告するなどできない。


「エヴァンの死は、アナスタシアによるものなのだな?」


「……?はい。間違いないかと思います」


 それは恐らく確定だろう。そもそも殺せる人材が少ない上、メリットも大して無い。

 ソロンが味方である以上、アナスタシアの犯行によるものだと思う事が一番筋が通る。


「……イザベラよ。お前は私の大事な息子を守り切れず、しかしながら敵討ちには成功したものとする。逆賊アナスタシアの討滅、ご苦労であった」



 ……!

 ユリウスは、そういう事にするらしい。


 心の整理もまだついてないだろうに、国王とは難儀なものである。


「……はい。感謝いたします」


「あの時のお前の言葉、私は今後の人生で忘れる事は無いだろう。今も私の胸を熱く滾らせる。ミネルヴァとも相談したが、そのうち褒美をやる。何か考えておけ」


「え、いや。不要です。私は……」


 褒美など受け取る立場では無い。

 慌てて拒否しようとしたが。


「駄目だ。父からの贈り物は、素直に受け取っておけ」


 優しい微笑みで返されてしまった。

 国王の立場ではなく、父親からの贈り物だと言われてしまえば拒否などできそうも無い。


「……ありがとう、ございます」


 思わず涙腺が脆くなりそうだった。


 私の父は、それでも父親であった。

 力に溺れ、狂気に飲まれ、神と敵対した私をそれでも「出来た娘だ」として褒美を贈る。


 私の父は、大変立派な国王であった。



 ……なればこそ、決着をつけなければならない相手が最後に一人だけいる。


 私の最大の失敗、そして唯一の存在。




 アルベールだ。





 ◇◇





「ッ!?ね、姉さん!」


 王都最大の監獄牢の地下三階。

 アストリア王国で最も警備が厳重で、最も凶悪な人物を収容するための施設。


 歴史上、この地下三階を使用された事は数度しか無いが、現状席は埋まっている。


 そう、私の双子の弟。アルベールの姿がそこにあった。


「……アルベール」


「姉さん!助けてくれ!何故か僕がこんな所に収容されてしまっているんだ。父上に伝えてくれないかい?」


「アルベール」


「そ、そうだ、姉さん。母さんは無事かい?僕の行動はアレの命令で行われたんだよ。情状酌量の余地があるとは思わないかい?魔術だって上達したんだ。あの赤肌のオーガにさえ出会わなければ今頃……」


「アルベール」


「…………はい」



 私はアルベールから一欠片も目を離さずに、伝えるべき事を伝える。

 その為にわざわざこんな所まで来たのだ。


 それが、決着という訳だ。


「お前の処遇を決めるのは私だ。言葉に気をつけろ」


「そ、そんな!?どうして……」


 私が聞きたいのは一つだけ。

 その答えを聞きに来たんだ。


「…………お前、クリスタをどうした?」


「えっ?あの裏切り者がどうかしたの?殺したよ、母さんも同意してたしね」


「……もういい。分かった」


 はぁ。

 最悪だ。


 クリスタの事について聞いた時は、開いた口が塞がらなかった。

 私のミスで大事な友人を見殺しにしてしまった。

 心の底から後悔した。いくつ後悔しても足りない程だ。


 何度でも謝りたいし、その機会を恵んでくれと本気で神に祈った。

 だが、その祈りは通じなかった。


 あるのはクリスタの死と、その原因だけ。


 もしかしたら重大な理由があるのかもしれない。私の考えが及ばない、仕方の無い事情があったのかもしれない。

 そうであれと願う私に、アルベールは『裏切り者』と答えた。


「アルベール、解放してやる。こっちへ来い」


「本当に!?ありがとう!」



 私は牢獄の鍵を開け、アルベールを解き放った。

 アルベールは安心しきっており、背中を見せて伸びをしていた。


「うーん……。早く外に出て陽の光を浴びたいよ」


「あぁ、そうだな。贅沢な願いだ」


「え?」


 クリスタは、もう戻らない。

 この復讐には意味が無い。だから、これで終わり。


 悲しみの連鎖は私で断ち切るのだ。




 振り返ったアルベールの首目掛けて一閃 




 ぼとり、と重苦しい音が湿度の高い地下室で響き渡る。

 この錆びた匂いは果たしてこの部屋のものか、はたまたアルベールの血の匂いなのか。



 血に酔えなくなった私には、もう分からなくなってしまった。





 ◇◇





 それからまた数ヶ月経ち、いよいよ父上から褒美を貰う時がきた。

 いつの間にか十六の歳になった私は、思い切って父上に相談を持ちかけた。


「エイルとの結婚を許していただきたい」


「……は?」


 ユリウスは困惑顔だ。

 当然だろう。エイルは女だと知っているからな。


 だが、私の中身は依然として男のままだ。男と結婚など死んでも不可能。

 いずれ結婚するなら、エイルとするに決まっている。私はそう決めていたのだ。


「エイルの性別は男と認めていただきたい。それだけが私の願いです。そして、今は亡きルベリオ王国の王子とアストリア王国唯一の姫である私が結婚する事で血を遺し、ルベリオを存続させるのです」


「血を……遺す?……イザベラ、一応言っておくが、女同士では子供はできないぞ」


 分かってる!そんな事は!

 我が敬愛する国王ユリウスながら、引っぱたきそうになったのは初めてだ。

 心底心配している、という顔でこちらを覗き込むのはやめていただきたい!


「そういう事にしてほしい、と可愛い娘がお願いしているという事です。察しが悪くて結構ですね。セオドアへ報告しておきましょう」


「ま、まぁ待て。冗談だ、冗談。な?ハハハ。勿論お前がそれを褒美として望むなら、その通りにしてやろう」


 慌てて修正する我が父上。

 先程の顔は本気で心配している顔だったが……まぁいい。


 これでエイルと結婚する事ができ、将来も安泰だ。我々の子供はティナの子供でも養子にして育てれば良いだろう。

 自分の子供が王族になるのだ。アレも嫌とは言うまいて。




 そうして私はエイルにプロポーズをして、無事婚約する事になった。

 エイルはその瞬間泣き崩れてしまったが、嬉し泣きだったので良かった事にしておこう。



 そうして私はエイルと二人で暮らすようになったのだ。

 執事はオズワルドを迎えた。少々怪しい所もあるが、エイルは然程気にしていないようなので雇う事にした。 



 エイルに私の昔話をせがまれるようになったのはその頃だ。

 ティナから私について衝撃の事実がある、とだけ伝えられていたらしい。

 恐らくサイから転生のことについて聞いたのかもしれない。



 私は前世のことについて全てを語った。


 貧乏男爵の家が出身だったこと。


 近衛騎士に抜擢されたこと。


 魔王が現れたこと。


 クロエと出会ったこと。



 ……そして、セラフィエルに殺されたこと。

 その全てを語った後、エイルは聞いてきた。



 あぁ、なぜこうして昔話を語れているか?


 生きているからに決まっているだろう。


 違う違う。


 実は生きていた、なんてつまらない話ではないよ。









 私はな、転生したんだよ。







──────────────

完結です。

今後について、その他伏線については活動報告をご覧下さい。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

──────────────

 

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