ep.70 BENオーディション締切
スタジオを出たあと、事務所のフロアに戻る。
レッスンの熱気が、まだ少し残っている気がした。
廊下の先、会議スペースで岡さんと猫太さんの声が聞こえる。
「……で、締め切り過ぎたみたいですね」
「ああ、BENのやつニャ」
思わず足を止める。
邪魔にならない位置で、会話が自然と耳に入る。
「エントリーはもう終了。あとは審査待ち……か」
岡さんが小さく息を吐く。
「結果は、5月下旬頃って話でしたよね」
「そのくらいニャ。意外とすぐ来るニャ」
少しの間。
書類をめくる音だけが響く。
「……キャラランドギルド567からも、応募いってるみたいですね」
岡さんがぽつりと言う。
「らしいニャ。でも誰が出したかまでは把握してないニャ」
「まあ、そこは本人の選択ですしね」
猫太さんが頷く。
「もし選ばれたら……」
岡さんが少しだけ言葉を選ぶ。
「気持ちよく送り出してあげたいですね」
「そうニャ」
猫太さんが、いつも通りの軽さで返す。
「そこはちゃんと、送り出す側でいるニャ」
——送り出す。
簡単に言えるけど、たぶん簡単じゃない。
それでも。
ここにいる以上、それが仕事なんだと思う。
「しかし、“究極の偶像”ねぇ……」
岡さんが苦笑する。
「だいぶ難しいこと言いますよね」
猫太さんが肩をすくめる。
「完成されてるのに、伸びしろもある。みたいな感じかニャ?」
「しかも“あの”JPとのアイドルユニットですからね」
「ハードル高すぎニャ」
二人の会話に、少しだけ笑いが混じる。
でも、その言葉の軽さとは裏腹に。
求められている基準は、たぶんそんな甘いものじゃない。
(……“偶像”か)
頭の中に、あの八手社長の会見の言葉がよぎる。
——どんなに手を伸ばしても、届かない存在。
完成されていること。
それは前提。
“あの”JPは、すでにそのそこにいる。
(……難しいよな)
「……ま、結果が出てからですね」
岡さんが区切るように言う。
「今は、こっちをちゃんと進めないと」
「そうニャ」
猫太さんが手を叩く。
「そろそろLa♪RA・RISE!(ララライズ)のユニットコンセプトも詰めないとニャ」
「そうですね」
「方向性だけでも固めたいニャ」
会話が、いつもの仕事の話に戻っていく。
——止まってる時間はない。
次の準備は、もう始まってる。
俺は静かにその場を離れた。
やることは山ほどある。
その中のひとつひとつが、きっとどこかにつながっていく。
*キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




