十九話 逆立ちが無用!
はい、すみません。たまにこういうことがありますので、どうか温かい目で見守ってください、お願いします!
撃ち切り空になった拳銃を投げつけ、迫り来る魔獣の勢いをどうにか緩めようと試みるものの、魔獣は血眼になって追いかけてくる。
津波かと思ってしまいそうなほどの勢いと物量で。
進行方向にある物全てをなぎ倒す勢いで。
「っ」
悪路には未だ慣れない。
何度か転びそうになっているし、今も転びそうになった。
森を歩く、または走ることなんてそうそうないだろう。
それなのに今現在全力疾走している。命懸けだからどうにかできている側面が強いだろうが、それでも自分のことを誉めてやりたくなる。
「早く戻らないといけないのに!」
屍皇達を固くぎゅうぎゅうに身動き取れないほどに拘束し、適当な木に縛り付け、て急いで里に戻ってきたと思いきや、魔獣の大群に阻まれてこの始末だった。
グレネードを幾らか『創造』し、走りながら何個も何個も落とすと、当然魔獣はなんなのか理解していないため爆発四散していく。
それなのに、一向に数が減っていなかった。
逆に音に釣られてどこからかやってくる魔獣もいた。
里の中にすでにあのドラゴンが入っている。
一刻も早く里の中に入らないといけない。
それなのに……‼︎
「っ、だめだ。焦っちゃだめ!」
律達の安否が気になる、里の戦況も、あのドラゴンがいつ動くかの心配も。
上げたらキリがないそれらをグッと堪えるしかない。
「もうっ‼︎ ―――っ、今の……」
八つ当たりの如く目の前から飛び出してきた魔獣を即制圧した。
気になること、心配などではなくどこからか聞こえてきた戦闘音。
誰かが戦っているのだ。
「うへ〜、里と反対側だ。でも、行かなくちゃ。もしかしたら危ない状況かもしれないし‼︎」
音の聞こえてくる方向は見事に反対側。でも幸いなことに、距離は大して離れてはいない。
今現在走ってる場所は里から二百メートルもないくらいの場所で、戦闘音の発生地は里から三百メートルほど離れてるくらいと言ったところと推察する。
こんな絶妙な場所で戦闘音がすること自体おかしな話だが、そんなのは頭の隅にも置いてなかったため、真っ直ぐとその方向に向かっていった。
その音の発生源に近付くにつれて背後にいた魔獣の大群の速度と量が減っていった。
さっきまで十数メートルだったのが、今は百ほどある。
突然のそれに戸惑うも、ついに音の発生源へと辿り着いた。
木と茂みの壁の向こう側、とてつもない激戦であろう音がしてきている。
茂みを掻き分けその先の光景を目にする。
「―――かぁ〜ぁ! ……酒が美味いな」
大盃に注がれた酒をゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み、迫り来る魔獣の攻撃をそれで受け止める紅鶴。
ピタッとかなりの勢いがあったはずの魔獣二匹の身体が、石になったかのように静止した。
受け止め出すはずの紅鶴の位置は微塵もズレていない。
とてつもない踏ん張りだ……。
「いい加減終わりにしたいと言いたいところだが、お前らは何をしたら死ぬんだ?」
静止した魔獣の一体の顔を手で鷲掴む。するとムギュッと実際に魔獣の顔が握り潰された。
骨の砕ける音も聞こえてきている。
片手で生物の顔を骨ごと粉々にしたの?
「こうすればいいのか?」
顔を鷲掴みした魔獣をそのまま地面に叩きつけ潰して殺し、それを見ていたもう一方には掌底突きを腹部に繰り出す。
同時に掌底を喰らった面は大きく湾曲するだけに留まったものの、その反対側からは臓物と骨などがぶち撒かれた。
一瞬にして当たりは血と臓物の海と化してしまった。
「……」
目を疑う。なんだこれと。
私自身戦ったことがあるのは、二体の魔獣のうち一体のみ。
一方は赤い魔獣。もう一方は紅鶴や酒呑から話を聞いた屠彪という魔獣だ。
「すごっ……」
赤い魔獣は実際戦い、初の鬼化時の記憶はないものの、その直前の鬼化する前の戦いでは危ない時しかなかった。
そんな魔獣とやばいと噂の魔獣とを一瞬で制圧した紅鶴。
あれで鬼化をしていないのだ。
「これじゃ助けいなかったかな……」
「―――何してんだ?」
来る必要なかったかなと思いつつ踵を返して里に向かおうと背を向けた瞬間、背後からそれも耳元に近いところから、突然声をかけられた。
ビクッ!? と身体が飛び跳ねそうになり、バクンッと心臓が一度だけ破裂してしまいそうな鼓動をした。
「……っ。こ、紅鶴さん……」
「おう。んで、なんでお前がここに居んだ? 作戦はどうした?」
当然っちゃ当然の疑問だが、この状況での質問としてはあり得ない。
「えっと作戦は成功しました。無事、魔王軍幹部は捕縛しましたけど、里の方に魔獣が大量に向かってるので、それの掃討をと……」
とりあえずは状況報告を行うと、ピクッと紅鶴が固まって里の方角を見やった。
そしてきっとその場合いちばんに目に入るのが、あのドラゴンだろう。
眉がピクッと動いたようなそんな気がした。
「クソ」
「……紅鶴さん?」
「あぁ悪ぃ。……そうだな、らしいな。分かったが、それでも疑問に思うぞ、なんでお前がここに来るんだ? 道中でもなんでもないだろ?」
そんなごもっともな指摘は困る。
が、寄り道出来たわけではない。れっきとした、ちゃんとした理由があるのだから。
「えっとですね〜、その、里に向かおうてしたんですけど、大量の魔獣で進めなくて抜け道を探しながら走ってたら、この戦闘音を聞いたので……」
「あぁ、なるほどな。わかった、じゃあその悩みは私が解決してやる」
きちんと説明すると紅鶴は微笑みながらポンポンと肩を叩いてけると、突如不敵な笑みを浮かべてきた。
「っ、まさか私を投げたりしませんよね⁉︎」
頭の中に突如描き出される情景。
紅鶴に担がれそのまま遠投のように投げられ、頭から地面に着地する様が。
「……流石にしねーよ。まぁ、もっと良い方法を取ってやる」
「あ、それなら安心で……? 流石に?」
紅鶴の単語にふと違和感を感じたものの、紅鶴がおもむろに取り出したそれを見て、違和感は掻き消えてしまった。
そして紅鶴が取り出した物、それは、
「笛……ですか?」
かなり歪な形をした笛だった。
「あぁ、こいつを思いっきり吹けば近場の魔獣は絶対にここにやってくる」
「っ、それって……」
「あぁアタシが囮をやってやんだよ。……贅沢な囮だろ?」
「っ、ふふっ、確かに。贅沢過ぎますね!」
あの時の紅鶴の不敵な笑みを思い出して少し吹き出してしまう。
紅鶴ならばと、一抹の不安もないものの、少しだけの罪悪感はあった。
誰かを囮にするという罪悪感は。
「心配すんな。アタシはアタシに出来ることをする、お前はお前にしか出来ないことをやんな」
「っ」
「お前に出来ること、お前にしか出来ないことがあんだろ? 違うか? 【英雄】」
「―――っ。はい、だから救ってきます。あれを倒して見せますっ」
「……頼んだ」
ガシガシと少し乱暴に紅鶴は頭を撫でてきた。
少し乱暴に、力強く。
だがそれが、勇気をくれる。
立ち向かおうとする気概を奮起させてくれる。
元々あったそれらが、さらに強まった。
「獣臭くなってきたな。ここにあいつらが来る前に行け、行って倒して来い」
「はい! 行ってきます!」
紅鶴にそう背中を押され駆け出す。一直線に向かうのはドラゴンのみ。
これ以上の被害拡大を防ぐために、駆け出す足を力強くそして速く、目一杯の力で走った。
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