五話 それぞれが頑張ってる!
これで何体目ともなる魔獣を斬り伏せ、律は深々とため息を溢した。
汗を拭い、減った気のしない魔獣の群れを眺めて刀の柄を握り直す。
短い深呼吸、浅い踏み込み。体力を温存させるための技だ。
パッと軽く動き出し、一瞬にして目にも止まらぬ速さで魔獣を斬っていく。絶対に刃毀れしない家宝を信じ、刀を使う上で、本来あり得ないような乱暴な振りをする。
遠目で律のことを見ている刀使いの鬼族の男は顔を真っ青にさせてたりした。
「っ、あ―――」
魔獣の予想外な動きに刀が空を切った。
魔獣の攻撃がやってくる。今の律はパジャマ姿。
このままでは不味い。頭の中ではそう思っていても、身体は微動だにせず、魔獣の攻撃を呑気に待っている。
時は止まらず、徐々に近づく魔獣の鋭利な爪。凶爪が律の身体を貫く寸前、パンッパンッパンッという音と共に魔獣の身体がグズグズになって崩れ落ちていった。
音からして葛葉かと思い、ぱぁっ太陽のような笑顔を浮かべ音の方へ振り向いた。
「―――あら、貴方は……そう、あの方の……」
そこにはサファイアブルーの髪色をした少女が、身の丈の倍はありそうな巨大な槍を手に立っていた。
笑みが消え失せ、そのギャップに唖然とする律。
そんな律のことはお構いなしに、少女は襲いかかってくる魔獣を瞬殺した。
「間一髪でしたわね。怪我は……してはいませんようね、なら私は行きますわ。またの機会に会えることを願っておりますわ!」
槍を自由自在に振り回しながら少女は走っていってしまった。
「……」
唖然としたまま未だ抜けきらないそれに、ぽけ〜っとしていると、
「お姉さ〜ん。こんな〜ところで〜、突っ立って〜ると〜危ないよ〜」
不意に耳元で囁かれる声にバッと振り返る。そこには今度は真紅の髪色をした少女が、これまた身の丈の倍はある鋏をチョキチョキ言わせながら、不適な笑みを浮かべていた。
「間違って〜、切っちゃ〜うかも〜」
そんな怖いことを言ってくる少女にサササッと距離空けると、その少女はその笑みを更に不敵にして、じっと見てきて、
「お姉さん〜、面白〜い」
と首を傾げた。
動作は可愛ものの笑みと得物が恐ろしい。
一瞬の隙も見せられないと本能が叫んでいる。
「じゃ〜あ〜、行っちゃ〜うね〜」
ニヒッと笑みを浮かべた直後、五体同時に襲い掛かろうとしていた魔獣の頭が宙に飛んだ。
スパっスパっと切れていく頭に、恐怖するどころか芸術性すら感じられた。
スタタタっと走っていってしまった少女の背中を見送りながら、律はヘタっと腰を抜かしてしまうのだった―――。
―――一方その頃、律とは少し離れた位置で五十鈴は魔獣達に囲まれていた。
ただ囲まれているわけではなく、背中合わせに小さな頼もしい相棒がいる。
つい先程出会ったものの、相性がよいのか魔獣の群れがあっという間に減っていく。
ただ巨大な盾を、巨大な金棒を振り回しているだけなのにだ、
「くふふっ、お姉さんつっよ〜♡」
金棒を投げ群れの一角を殲滅させ、金棒を拾い潰して潰して潰していく。
五十鈴も負けじと、盾で魔獣の首や胴を切り裂き、潰していく。
戦場には魔獣の死体の山が築き上げられていく。
「ほら、よそ見してないで、後ろ居るよ〜?」
魔獣を薙ぎ倒していた山吹色髪の少女が、五十鈴の後ろの魔獣に気付き、煽るかのような口調で指摘してくれる。
先程からそんな調子だった。
どうやら五十鈴よりも、その少女の方が圧倒的に強く格上なのだ。
「ありがとうございます」
後ろから来ていた魔獣を制圧し、教えてくれた少女へ一礼と謝礼をいうと、少女はむっと頬を膨らませたと思うと困った顔を浮かべて嘆息する。
「お姉さんの反応……調子狂うなぁ〜」
ボソッと小さくぼやき、そのモヤっとした感情を無尽蔵に居る魔獣へと向けた。
地面が抉れるような一撃が、魔獣含め何もかもを破壊し尽くす。このまま続けばこの森林の原型がなくなってしまうのではと思うほどに。
金棒をクルッと回転させ、魔獣の群れへ再び投げつける。
金棒が落ちた地点は爆砕し、小規模なクレーターが出来上がった。
「くふふ、ざっこ〜♡こんな朝早く攻めてきといてこの程度とか、雑魚すぎぃ〜♡」
魔獣相手に煽りまくる少女を尻目にドンドン魔獣を駆除していく中、ゾワっと全身の鳥肌が立った。
瞬時に屈み込み、
「伏せて下さい‼︎」
「へ? っ!」
少女へと声を張り上げた直後、頭上を大岩が通っていった。
少女も間一髪で屈み込んでそれを回避する。
その大岩は進行方向にある全てを粉砕しながら飛んでいき、次第に地面へと落ちていく。そして地面に着いた次の瞬間、先ほどの少女の攻撃を遥かに凌駕する大爆発が起きた。
地面が隆起し、木々が薙ぎ倒されていく。魔獣は跡形もなく破砕され、クレーターの地表に点々と血の花を咲かしていた。
その様を二人して呆然と眺め、数瞬後、その大惨事を引き起こした張本人に目線は向いた。
眠気眼を擦りながらフレイル型のモーニングスターを手にした緑髪の少女へと。
そして山吹色の方の少女は、フルフルと身を震わせると爆発するかのように声を上げた。
「何遍も言ってるでしょ⁉︎ 人がいる所にそんなの投げないでって‼︎」
先ほどまでのキャラが嘘のように声を張り上げ、眠気眼を擦る少女へ説教をする。
が、眠気眼を擦る少女には何一つ聴こえていないのか、ジャラジャラと鎖の音を鳴らし、動くわけがないような巨大な鉄球を動かし始めた。
「なっ―――⁉︎ ちょちょちょ‼︎」
動き始めた鉄球に山吹色の髪の少女が顔を白くさせて止めさせようと、眠気眼を擦る少女を押し倒すのだった―――。
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