第六話「ご褒美」
リリスと魔術の勉強を始めてから一週間が経った。一週間も経ってくるとだいぶお互いに慣れてきた。
* * *
「お疲れ様です、ルークくん」
「先生もお疲れ様」
魔術の練習が終わり、俺とリリスは互いにねぎらいの言葉をかけあった。一週間授業を続けてすっかりこのかけあいにも慣れてきた。
「一週間、魔術の練習を続けてだいぶいろんな魔術を完璧にこなせるようになりましたね、ルークくん」
「それもこれも先生のおかげです」
「あっ、ルークくん。今は授業時間外ですから先生って呼ばなくていいですよ」
「ごめん、リリス」
リリスは最近、授業中は俺に先生と呼ばせている癖に、授業時間外はリリスと名前で呼ばせるようになった。なんでだろう。呼び方をコロコロ変えなきゃいけないのややこしいのに。
「いえいえ、私のおかげじゃないです。全部ルークくんの毎日の努力のおかげです」
その努力ができるようになったのもリリスが俺のモチベーションを高めてくれたおかげなんだよなあと思いつつもそれは口に出さない。どうせ言っても「実際に努力したのはルークくんです、私じゃありません。だからルークくんが偉いのです」とか言って謙遜して俺を褒めようとしてくる。
そのくらい、リリスは俺のことを褒めたがる。なんでこんなに褒めたがるんだ?はっ、もしかして女の子に褒められる感覚に味を占めていた俺の心を見透かしてからかっているのか!?
ふと、リリスの顔を見つめる。純粋そうな目。とても心を見透かしてからかっているようには見えない。ということは、リリスは純粋に心から俺のことを褒めているのか?
それにしても、このリリスのやたらと俺を褒めたがる性格には助けられた。少しでも頑張りを見せればリリスはちゃんとそれを見逃さずに褒めてくれる。それが嬉しくて俺は毎日、出された宿題以外にも魔術の勉強をしている。そしてリリスは俺のそんな努力を事細かに褒めてくれる。
そればっかりじゃない、最近リリスは俺が失敗した時も褒めてくれる。失敗した俺を落ち込ませないように「ルークくんの失敗は失敗の範疇に入らないです。私なんてもっとたくさん失敗してきましたから」とか言って無理にでも俺を褒めようとする。そうして俺のモチベーションを何とか保とうとしてくる。
「そうだ、今日は一週間魔術の勉強を頑張ったルークくんへのプレゼントがあります」
そう言うと、リリスは普段魔術書などの荷物を入れている鞄から、小さな袋を取り出して、それを俺に渡した。
「これは?」
「中に手作りのクッキーが入っています。食べてみて下さい」
言われた通りに袋を開けて、中のクッキーを取り出し食べてみる。モグモグモグ。うん、おいしい。焼き加減もちょうどいいし。
「おいしいよ、ありがとうリリス」
「ほんとですか!よかった、喜んでもらえて」
満面の笑みになるリリス。それにしてもほんとにおいしい、このクッキー。完成度が高いけど、なんか手作り感があるのがとてもいい。
そういえば、手作りクッキーと言えば、白雪のことを思い出す。生前、お菓子作りが趣味だった白雪は昔からお菓子を作ってはよく俺のところに食べて食べてと言って持ってきた。幼稚園くらいの時からお菓子作りを始めた白雪はお菓子を作ると決まって俺のところにそれを持ってきて一緒に食べようと誘ってきた。白雪の手作りお菓子はどれもかなりうまかったので俺はそれを喜んで食べていた。驚くべきことに、この習慣は白雪が高校生になり、そして俺が引きこもりのニートになってからも続いた。今から思えば、俺たちは結構仲のいい兄妹だったなあと思う。
リリスの手作りクッキーを食べたせいでつい昔の懐かしい思い出を思い出してしまった。
「どうしたのですか、ルークくん?」
少し感傷に浸っていた俺を不思議に思ったリリスがそう声をかけてきた。
「あー、いや、このクッキーほんとにおいしいなって思っていただけで……」
気持ちを悟られまいと俺はごまかす。まあ、クッキーがおいしいのは紛れもない事実なんだけど。
「それは良かったです。じゃあ、これからも時々お菓子を作ったらルークくんに持って行きますね」
おお、それは嬉しい。普段、俺は魔王の息子であるおかげで、城に務める一流の料理人が作った美食を毎日のように食べている。当然、お菓子も一流のパティシエが作ったものを食べている。それらは確かに美味しい。ただ、高級すぎて毎日食べるにはちょっと胸焼けする感がある。その点、この手作りクッキーは家庭的な味がして食べやすい。いくらでも食べれる気がする。
「ありがとう、リリス。そういえば、リリスはお菓子作りが好きなの?」
「はい、大好きです!あと料理も好きです」
「へぇ、料理もできるの。どんなの料理作れるの?」
「ハンバーグとかシチューとかいろいろつくれます」
「へぇ~」
思わず食べてみたいと思った。そういう家庭的な料理が最近恋しい。
そういえば、生前、我が家では両親が共働きで帰りが遅かったせいで妹の白雪がよく料理をしていた。白雪の料理はおいしかったなあとつい昔を懐かしんでしまった。
「食べたいですか、ルークくん」
「えっ?」
「ルークくん、私の作った料理食べてみたいですか?」
ほんとうにリリスは俺の心を見透かしているのだろうか?リリスの料理が食べたいなあと思っていた俺に絶好の提案が飛び込んできた。
「はい、食べたいです」
「じゃあ、いつかルークくんを私のおうちに連れて行ったときに、料理食べさせてあげますね」
おお、それは嬉しい。
「そういえば、リリスの家ってどんなかんじなの?」
前々から疑問に思っていたことを聞いてみる。普段リリスってどんな家に住んでいるんだろう。家族はどんな感じなんだろう。
「えっと、お城の近くに家を借りて、一人暮らししています」
この歳で一人暮らしをしているのか。偉いな。俺なんてずっと実家暮らしなのに。
「一人暮らしか、それなら料理作るのにも慣れてそうだし、料理の腕には期待できそうだな。ますます、リリスの家で料理を食べるのが楽しみになってきた」
「はい!料理には自信があるので期待しててください。必ずいつかルークくんをおうちに連れて行きます!」
リリスはとっても嬉しそうな表情でそう言った。俺はいつかリリスの手料理を食べられることを楽しみにしながらこれからも魔術の勉強に励もうと思った。




